052 元英雄のカカンは……女装趣味だったのか!
(今のアウラ・アーマーで、レベル5……いっちまったかな? 大丈夫だと良いんだけど……)
そんな不安に苛まれながらも、果敢は急降下しつつ、チキータに向かって突進する。
地上にいる小動物に襲い掛かる、猛禽類のように。
既に再発動したアウラ・ブレードで、果敢はチキータに切りかかる。
チキータは長剣で、果敢のアウラ・ブレードの一撃を受け止める。
強烈なアウラと魔力が衝突した衝撃で、周囲の地面の土砂や、庭園の木々……浅瀬の湖水などが、吹き飛んでしまう。
フラウエン島の岸辺は、大爆発でも起こしたかのような状態だ。
そして、ここでチキータが、意外な行動に出る。
長剣を捨て去り、果敢に抱きついたのだ。
魔族とはいえ、いきなり女性に抱き着かれ、果敢は一瞬……狼狽する。
だが、すぐに自分を取り戻し、アウラ・ブレードで切りつけようとするが、両腕の上から、強力な力で抱き締められているせいで、アウラ・ブレードによる攻撃が出来ない。
(腕を拘束するのが狙いか!)
特級魔族の膂力は、まともではない。
果敢ですら、アウラ・アーマーを最大出力にしない限り、力比べでは勝てない程に。
だが、最大出力を出してしまえば、確実に呪いがレベル5に達してしまう。
その事が、果敢に最大出力のアウラ・アーマーの使用を、躊躇わせる。
確かに、果敢の腕を拘束し、アウラ・ブレードによる攻撃を防ぐ事も、チキータが抱き着いた目的の一つではあった。
しかし、チキータには他にも二つ、目的があったのだ。
「この感じ……やっぱり男だな?」
他の二つの目的の内、一つ目の目的は、果敢の性別を確かめる事だった。
細身であり、いくら女装が様になっているとはいっても、抱き締めて身体を密着させれば、チキータには感触で、果敢が男なのは分かる。
果敢の異常な戦闘能力を目にしたチキータは、自分が戦っているのが、単独でも特級魔族を倒し得る、この世界で唯一の人族……元英雄の果敢である可能性に気付いた。
でも、果敢は男性である筈なのに、戦っている相手の外見は、女性にしか見えない。
元英雄と同等の戦闘能力を持つ人族が、もう一人いる可能性よりは、元英雄が女装している可能性の方が高いと、チキータは思い至った。
そこで、チキータは抱き着いて、身体を確かめようとしたのである。
「こんな異常な強さの人族が、二人もいる訳は無いと思ったが……やはり、お前……元英雄のカカンだろ?」
正体を見抜かれ、果敢は焦る。
「元英雄のカカンは……女装趣味だったのか!」
「趣味じゃねぇよ!」
「じゃあ、何で女装してるのさ?」
「それは……言えん!」
力強く言い切ると、果敢はチキータに、アウラを集めて強度を上げた頭部で、角を避けて頭突きを見舞う。
両腕が拘束されているし、密着した状態だと、足技も使い難かったので、頭突きを使ったのだ。
奇襲であった、頭突きのダメージにより、チキータの拘束が僅かに緩む。
その隙に、果敢はチキータから逃れようとするが、すぐにチキータは回復する。
身体を密着させた状態で、果敢とチキータは掴み合う状態になる。
その際、チキータが怪力で、胸の辺りを掴んだので、ディアンドルが破れるが、ディアンドルは一瞬で、何も無かったかのような状態に、あっさりと戻ってしまう。
全力を出すのを控えているせいで、果敢は掴み合いには勝てず、再び抱き締められる形で、拘束されてしまう。
しかも、今度は頭の位置を、果敢の胸元辺りに来るようにして、チキータは抱き締めたので、果敢は頭突きも封じられてしまった。
そして、一瞬の攻防の際、チキータは目にしていた。
ディアンドルが破れて再生する直前、果敢の胸の中央にある……満月の呪印を。
破れたのに、一瞬で再生したディアンドルと、果敢の胸にあった呪印、そして果敢の女装……。
三つの要素が頭の中で繋がり、チキータは果敢が女装している理由に、思い当たる。
「その呪印は、月のルーレットの呪印……お前、アスタロトに呪われたね?」
「月のルーレットを、知っているのか?」
「魔神だけが使える、嫌がらせ用の悪趣味な呪術として、割と有名な奴だからな」
チキータ……というより、魔界においては、そのように認識されているが、実は間違いである。
月のルーレットは魔神でなくとも、使う事自体は可能だ。
呪術を自分の身体に仕込む時、膨大な魔力が必要となるので、有り余る魔力を持つ魔神くらいしか、普通は使わないだけなのである。
「お前の服は、一瞬で再生したが、そんな事が出来るのは、呪術くらいだ。つまり、お前の女装は呪術……月のルーレットに関わっている事になるから、アスタロトの悪ふざけのせいだって事になる」
破壊された服を、一瞬で再生するような真似は、魔術や聖魔術では不可能。
出来るのは、呪術くらいなのである。
果敢の胸に、月のルーレットの呪印があるのを目にした上で、チキータはディアンドルが一瞬で再生する光景を目にした。
故に、ディアンドルの再生が、月のルーレットのせいである事に、チキータは気付けた。
月のルーレットを使える、魔神のアスタロトを倒した果敢の胸に、月のルーレットの呪印がある。
そんな果敢が、呪術の影響を受けているだろう、ディアンドルを着ているのだから、女装の原因が、アスタロトによる月のルーレットのせいだと、チキータは思い至れたのである。
「良く分かったな、その通りだ!」
チキータの推測を、果敢は肯定する。
既にチキータに、女装している理由を、果敢は見抜かれてしまった。
つまり、自分からばらした事にはならない筈なので、果敢は素直に、チキータの推測を肯定したのだ。




