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049 その娼婦みたいな服を、お前の死に装束にしてやるよ!

 果敢が使っているアロー・ペンは、軍用の量産型ではなく、レギーナが特別に開発した物であり、量産型には無い、絶対防御能力を持っている。

 絶対防御能力とは、どのような攻撃であっても、一度だけだが、防御対象を完全に防御する能力の事だ。


 絶対防御能力を持たない量産型の場合、防御能力を超える攻撃を受け、エイセーラス・スクリーンが破られた場合、防御対象はダメージを受けてしまう。

 防御能力を超えた分の攻撃力に、防御対象は曝されてしまうので、ダメージを避けられないのである。


 だが、絶対防御能力を持つ、アロー・ペンの場合、防御能力を超える攻撃を受け、エイセーラス・スクリーンが破られても、防御対象はダメージを受ける事は無い。

 絶対防御能力の発動により、防御能力を超えた分の攻撃力が、無効化されてしまうので。


 持参した全てのアロー・ペンを、果敢は惜しげ無く使い、確実に人がいる、ヘレン島やローゼンシュタットの町だけでなく、キール湖の周囲全てに、エイセーラス・スクリーンを展開した。

 これから十分程の間、戦いにおける被害が、ヘレン島やキール湖の外に及ぶ可能性は、ゼロとは言わないまでも、かなり低いと言える状態になった。


「アスタロトとの戦争時に開発された、一人でエイセーラス・スクリーンを作り出せる奴か……」


 ヘレン島とローゼンシュタットの町に目をやり、チキータは呟く。

 人界に来てから、アスタロト・ファミリーとグリム諸国連合軍との戦争の情報を、チキータは集めていたので、エイセーラス・スクリーンを作り出せる、アロー・ペンについて知っていたのである。


 庭園を通り過ぎ、フラウエン島の岸辺で立ち止まったチキータは、五十メートル程離れた湖上にいる果敢に、問いかける。


「アロー・ペンを持ってるって事は、猫女……お前は軍人って事か?」


 グリム諸国連合軍向けに量産されたので、アロー・ペンは基本的には、軍の装備品である。

 果敢が携行しているのは、開発者であるレギーナが自作した物で、軍用の物ではないのだが、アロー・ペンを目にしたチキータが、果敢を軍人と勘違いするのは、当然なのである。


「人族の女の軍人は、戦場だってのに、男に媚びを売る格好をするものなんだねぇ! そんなに男が欲しいのかい?」


 チキータの嘲り口調の煽り言葉を聞いて、果敢は仮面の下で、顔を顰めながら、心の中で毒づく。


(こんな格好、したくてしてるんじゃねぇよ! それに、男が欲しい訳ねぇだろうが!)


 いっその事、呪いで女装させられている事を、口にしてしまおうかと、果敢は思う。

 でも、女装させられている事を、自分から打ち明けたりしたら、ペナルティが発生する……的な事を、アスタロト人形が言っていたのを思い出し、思い留まる。


「人族の女にしちゃ、少しは出来るようだが……特級魔族のあたしと、一対一さしでやって、生き延びられると思ってるのなら、考えが甘過ぎるってもんさ!」


 煽り言葉を投げかけながらも、チキータの身体からは、黒い霧のような魔力が、溢れ出ている。

 濃くて強力な魔力を、練り上げているのだ。


「その娼婦みたいな服を、お前の死に装束にしてやるよ!」


 チキータは言い放つと、発動する魔術のクリケを口にする。

 すると、大量の湖の水が、噴水のように吹き上がったかと思うと、果敢を包み込み、一瞬で氷結する。


 果敢は湖水を蹴って、跳躍したのだが、余りにも大量の水が、広範囲に一瞬で吹き上がった為、逃れられずに拘束されてしまった。

 それ程に、速くて範囲が広い、魔術だったのである。


「プリソン・デ・イエロ! あたしの氷の牢獄から、逃れられた奴はいない!」


 魔界における、チキータの出身地の古い言葉で、「氷の牢獄」を意味する名の魔術が、プリソン・デ・イエロ。

 魔術名が示す通り、極低温で大量の水を氷結させ、敵を氷の牢獄に閉じ込める魔術だ。


 大量に水がある場所でしか使えないが、一万トンを超える水で敵を包み込み、一瞬で氷結させるプリソン・デ・イエロに捕えた敵を、チキータは取り逃がした事が無い。

 故に、確実に果敢の動きを封じた自信が、チキータにはあった。


 大抵の人間は、極低温のプリソン・デ・イエロに捕えられたら、その時点で凍え死ぬ。

 だが、チキータの攻撃は、まだ終わらない。


 チキータは長剣を手にしていない左掌を、果敢の方に向ける。

 膨大な魔力を左掌に集めつつ、チキータはクリケを唱える。


 すると、チキータの左掌が、眩いばかりの青白い光を、放ち始める。

 チキータはルー・モータという、光線魔術を発動しているのだ。


 絶対防御能力を持たない、全ての防御手段や拘束手段を突破可能であり、当てれば確実に敵を殺せるのだが、クリケが存在しないので、放つまでに時間がかかってしまう。

 それ故、ルー・モータは普通に放っても、当てるのは難しい。


 だが、チキータの場合は、プリソン・デ・イエロで敵を拘束し、時間をかけてルー・モータを発動出来る。

 そして、ルー・モータの光線は、プリソン・デ・イエロすら突破出来る。


 プリソン・デ・イエロで敵を拘束した上で、ルー・モータで仕留める連続攻撃は、これまで一度も仕損じた事が無い、チキータ必殺の連続攻撃なのだ。

 大量に水がある場所の近くでしか、使えないのだが。


 そんなチキータ必殺の連続攻撃が、破られる時が来た。

 ルー・モータが発動し終わるよりも前に、湖の上に浮かぶ巨大な氷塊が、強烈な光を放ち始めたかと思うと、表面に亀裂が走り始めたのだ。


「!」


 驚きの表情を浮かべる、チキータの目線の先で、巨大な氷塊全体に、あっという間に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 そして、爆発音と共に、巨大な氷塊は砕け散り、無数の氷片となり、空と湖に散らばる。


 光を浴びて煌めく、無数の氷片の中から、仄かなアウラの白い光を放ちながら、何のダメージも無い状態で、果敢は姿を現す。

 エアリアルを発動し、荒れる湖面の二十メートル程上を、果敢は浮遊している。 


「あたしのプリソン・デ・イエロを、破っただと?」


 信じられない物でも見るかのように、チキータは茫然とした表情で、果敢を見上げる。

 ルー・モータの呪文を、唱え続けるのも忘れて。




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