047 特級魔族のあたしを相手に、人族の分際で……言ってくれるじゃないか
「二本の角を見て、後悔してるんじゃないのかい?」
嘲り口調で、チキータは続ける。
「たった一人で、特級魔族を相手にする羽目になったんだからね……たかが人族の分際で」
チキータは、身構える。
すると、黒い霧のように見える魔力が、チキータの全身から大量に溢れ出る。
「昨夜……リットナーで、あたしの部下を殺ったのは、お前かい?」
「そうだよ」
果敢も身構えつつ、全身からアウラの白い光を放ち始める。
既にアウラ・アーマーとアウラ・アクセルは、かなりの出力で発動済みである。
かなりの出力とはいっても、全力では無い。
全力か、それに近い力を使ってしまえば、レベル5の呪いが確定してしまう。
その事は、レギーナがマリオンの協力を得て、果敢の呪印と呪術に対する実験を行っていた時、はっきりしている。
それ故、果敢は特級魔族を目の前にしても、最初から全力を出す気には、なれないのだ。
特級魔族を相手にする以上、レベル5の呪いを回避するのが不可能に近い事は、果敢にも分かっている。
それでも、出来ればレベル5は避けたいという本音のせいで、最初から全力を出すの、果敢は控えてしまうのである。
「かなりのアウラじゃないか……人族にしては、やるようだね。部下共がやられたのも、当たり前か」
果敢のアウラの光を見て、そんな感想をチキータは口にする。
「すぐにお前達全員、そこにいる人族の裏切り者と一緒に、昨夜……倒した連中の後を、追わせてやる!」
果敢は不敵な笑みを浮かべつつ、ゴッドフリートを指差し、強い口調で言い放った。
「特級魔族のあたしを相手に、人族の分際で……言ってくれるじゃないか」
チキータは苛立たし気に、果敢を睨み付けながら、言葉を返す。
「チキータの姐さんが、出るまでもありません!」
「コンラード達の仇は、俺達が取ります!」
大広間の各所にいた、チキータの部下達が、次々に声を上げながら、身構える。
部下達も全身から、黒い霧のような魔力を発しているが、チキータよりも遥かに薄く、量は少ない。
チキータと部下達では、魔力のレベルに、差が有り過ぎるのだ。
「下がってろ! こいつのアウラを見ろ、お前達が相手に出来るようなレベルの奴じゃない!」
だが、チキータが止めるのも聞かず、部下達はクリケを唱え、魔術を発動する。
魔術を発動しながら、瞬時に前衛と後衛に分かれる形で、二重の輪を作るような形で、果敢を取り囲む。
外側の輪……後衛の魔族達は、攻撃支援用の魔術を、内側の輪……前衛の魔族達は、近接戦闘用の魔術を発動する。
大広間といえ室内であり、間合いも近いので、遠距離攻撃では無く、基本は近接戦闘を仕掛けるつもりなのだ。
大広間の床から、無数の黒い鎖が姿を現し、果敢の身体に絡み付く。
(チェーン・バインド……だけじゃない!)
後衛の魔術師達が、果敢の動きを拘束する為、魔術で作り出した鎖で、敵を縛り付けて動けなくする魔術、チェーン・バインドを使ったのだ。
ただ、果敢の身体の動きを封じようとしているのは、鎖だけでは無い。
(ジャーマー系の魔術も使ってやがる!)
ジャーマー系というのは、敵の魔術や武術の技の発動を、妨害してしまう魔術であり、果敢が使った汎用解除魔術も、ジャーマー系に分類される。
魔術の対象となる相手の方が、高い能力を持つ場合、発動を止める事は出来ないが、効果を引き下げたりする事は出来る。
前衛の魔族達は、それぞれが黒い武器を手にしている。
剣や刀……槍など、武器の種類は様々だが、全て黒い。
魔術で作り出した武器を、魔族達は手にしているのである。
魔族が作り出す武器は、見た目通りの威力では無く、鋼鉄の装甲版ですら、バターナイフでバターを切るように、易々と切断してしまう威力がある。
後衛の魔族達が、果敢の身体を拘束し、更に魔術や武術の発動を妨害。
その上で、前衛の魔族達が果敢に向かって、接近戦を仕掛けて仕留める……。
チキータの部下達は、ほんの僅かな間に、そんな集団戦闘の準備を、整え終えたのだ。
(連携は悪くない。中々、訓練されてる連中じゃないか)
武器を構え、自分に飛び掛かって来る、前衛の魔族達を見ながらも、果敢は焦りもせず、チキータの部下達の動きに、感心する。
そして、両手の先にアウラを集め、アウラ・ブレードを作り出す。
果敢は身体を縛り付ける鎖を、怪力で事も無げに、全て強引に引きちぎってしまうと、急接近して来た魔族達を、両手のアウラ・ブレードで迎え撃つ。
踊っているかのような華麗な動きで、魔族達が繰り出す斬撃や刺撃をかわすと、次々と魔族達の心臓と頭部を、果敢は貫き……両断してしまう。
ジャーマー系の魔術は、果敢のアウラ・アクセルやアウラ・アーマー、そしてアウラ・ブレードの能力を、一応は引き下げている。
だが、根本的な力に差が有り過ぎるので、果敢からすれば、殆ど問題にもならなかった。
むしろ、下着が見えてしまう程に、裾が短いディアンドルや、ある程度慣れたとはいえ、戦闘向きではないパンプスの方が、遥かに戦闘の邪魔になっていた程だ。
ディアンドルの白いブラウスや、スカート同様に短くなった、モスグリーンのエプロンなどが、魔族の返り血を浴びて赤く染まる。
前衛の魔族達は、自分達の身体の防御能力を引き上げる、様々な防御魔術を使っていた。
後衛の魔族達による、防御力を向上させる効果がある、支援魔術も受けていた。
それでも、圧倒的な力の差の前に、それらの防御手段は無力であり、果敢のアウラ・ブレードに切り裂かれ、突き刺され、弱点である頭部や心臓を、破壊されてしまったのである。
二十人を超えていた前衛の魔族達は、絶叫を上げる暇すらなく、あっという間に全滅してしまった。
信じられないような光景を目にして、後衛の魔族達は気付いた。
自分達が、絶対に勝てない……敵に回してはいけない相手と、戦い始めてしまった事に。




