表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/84

038 成程、だから黄色いバンダナとかを、あの連中は隠したんだな

(何か……見られてる気がするんだけど、女装しているせいで、自意識過剰になってるのかな?)


 普通の客を装って、服屋の店内を見て回っていた果敢は、心の中で自問する。

 少し前に商店街に辿り着いた果敢は、すぐに服屋を発見したので、中に入った。


 早速、バンダナやスカーフの類を探し始めたのだが、その途中で、他の客達に見られているような気がし始めた。

 故に、女装のせいで自意識過剰になっているのではないかと、果敢は考えたのである。


 さり気なく周囲の様子を探ると、自意識過剰を原因とした思い違いではなく、実際に周囲にいる男性客達や店員達に、果敢は見られていた。

 そして、見られている理由に、すぐに果敢は思い至る。


 果敢はアクセサリーなどの、装飾品が売られているコーナーにいたのだが、すぐ近くには男性用下着を売るコーナーがあったのだ。


(男性用の店に、女性客に見える俺が入って来たんで、注目されているんだ)


 日本の物よりは、地味な感じの下着が並ぶ棚を、果敢は一瞥する。


(しかも、下着売り場の近くなんだから、そりゃ……注目もされるか)


 自分を見ていた男性の一人が、黒いエプロンをした、若い店員だったので、果敢は歩み寄って、少し声のトーンを上げて訊ねてみる。


「すいません、バンダナが欲しいんですが、この店……置いてますか?」


 男性向けの店で、バンダナを探す理由を、果敢は補足する。


「旅行中なんですが、バンダナ好きの父への土産に、買って帰ろうと思って、探してるんですけど」


「そういう事でしたら、こちらへどうぞ」


 果敢は店員に、店の奥に案内される。

 ただ、果敢の目的はバンダナを買う事ではない、黄色いバンダナに関する情報を、手に入れる事なのだ。


「黄色のバンダナがあると良いんですけど」


 さり気なく、黄色いバンダナについて、果敢が口にすると、明らかに店員は動揺を見せる。


「黄色……ですか?」


 気まずそうな顔で、問いかける店員に、果敢は涼しい顔で、言葉を返す。


「父は黄色が好きなもので、良い歳して派手好きなんですよ。もう少し、年相応に落ち着いた色に、好みが変われば良いんですけど」


 話している内に、果敢と店員は、店の奥のカウンター近くに、バンダナやスカーフが売られているコーナーに辿り着く。


「案内どうも……後は自分で探します」


 果敢は礼を言って、コーナーの棚に並ぶバンダナを確認する。

 だが、棚には様々な色合いや柄のバンダナやスカーフがあるのだが、黄色いバンダナやスカーフだけは、置かれていなかった。


「すいません、黄色は……棚に置いてないんですよ」


 店員は他の客には聞こえないように、小声で果敢に話しかける。


「売り切れなんですか?」


「いや、在庫はあるんですけど……最近、大っぴらに売り難くなってしまったんで」


「黄色いバンダナが? 何故?」


 果敢の質問に、店員は質問で返す。


「お客さんは……旅行中と言っていましたし、リットナーの人ではないんですよね?」


「はい、エンゲルハルトからアリアンツに帰る途中で、立ち寄ったんです」


 エンゲルハルトというのは、ローゼンハイン侯爵領よりも北東にある、温泉で有名な観光地である。

 ちょうど、アリアンツ共和国側とは、ローゼンハイン侯爵領を挟んで、反対側という位置関係になっている。


 つまり、アリアンツの人間がエンゲルハルトに旅行に行った帰り、リットナーに立ち寄るというのは、有り得る事なのだ。

 そして、果敢が身に纏うディアンドルは、アリアンツの民族衣装でもあるので、格好の方もおかしくはない。


 それらしい言い訳が、淀みなく口から出て来るのは、戦争の頃から、あちこちに潜入して、情報を入手するような作戦も、果敢は行っていたから。

 アシェンプテルが果敢に頼んだのは、潜入調査能力の高さを知っているからでもあった。


「アリアンツの人なら、知らないでしょうね」


 果敢の言葉を信じた店員は、納得したかのように続ける。


「実は……黄色いバンダナやスカーフは、リットナーでは平等派のシンボルなんですよ」


「平等派の?」


 驚きの声を、果敢は発する。

 平等派とは、グリム大陸全土で広がりを見せている、貴族制度の廃止を主張する、政治運動の派閥だ。


「すいませんが、小声でお願いします」


 店員の言葉に、果敢は頷く。


「黄色い旗が本来のシンボルなんですが、黄色いバンダナやスカーフ、ハンカチなどを、黄色い旗になぞらえて、シンボルとして身に着けるんですよ、平等派の連中は」


(成程、だから黄色いバンダナとかを、あの連中は隠したんだな)


 ブレーメン王国では、平等派の活動自体は、禁止されてはいない。

 ただし、貴族の権力が強い貴族領となると、話は別となる。


 国法に反しない範囲で、様々な妨害や弾圧が、貴族側から行われる場合が多い。

 それ故、貴族領では平等派の活動は、地下活動の形を取り易い。


 ローゼンハイン侯爵領は貴族領なので、平等派の活動が地下に潜っていても、おかしくはない。

 真夜中に集会を開いていたのは、平等派の活動が、地下に潜っていたせいだと考えられる。


 そして、地下活動中であったからこそ、倉庫街にいた者達は自分に対し、警戒を解かなかったのだろうと、果敢は推測する。

 助けられた相手であっても、初対面であり、誰だか分からない仮面をかぶった自分を、強く警戒するのは、地下活動中であれば、当たり前だろうから。


 シンボルである黄色いバンダナなどを隠したのも、平等派であるのを、自分に知られないようにする為だったのだろうとも、果敢は考えた。


「ここは貴族領ですから、平等派のシンボルとなると、売り難いって事なんですか?」


「そういう事です」


 果敢の問いを肯定した上で、店員は果敢に持ち掛ける。


「土産物として御入用でしたら、平等派がシンボルとして使い始める前に仕入れた物が、カウンターの奥にありますので、お持ちしますが?」


「お願いします」


 情報を入手した礼代わりに、果敢はバンダナを、買って帰るつもりなのだ。

 カウンターの奥に姿を消した店員を、果敢はカウンターの前で待つ。


 程なく、店員は三種類の黄色いバンダナを手にして、カウンターの奥にあるバックヤードから戻って来た。

 カウンターの上に、店員は三枚のバンダナを並べて見せる。


「どれになさいますか?」


 どれも黄色だが、無地の物だけでなく、刺繍がされている物が二種類あった。

 値段はどれも、手頃である。


「どれも良さそうなので、全部下さい」


「全部ですか?」


 店員は嬉しそうに、三枚のバンダナを袋に入れる。

 そして、会計作業をしながら、店員は果敢に助言する。


「土産物という事なので、心配は無いと思うんですが、リットナーにいる間は、人には見せないようにした方が、良いと思いますよ」


「心得ておきます。色々とどうも」


 代金を支払い、袋を受け取った果敢は、店員に礼を言ってから、踵を返すと、カウンターから遠ざかって行く。


「お買い上げ、有難うございます」


 背中で店員の声を聴きながら、果敢は出入り口へと向かう。

 男性客からの注目を受けつつ、果敢は服屋を後にする。



    ×    ×    ×





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ