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036 山の向こうなんかじゃ、村が一つ……魔族に焼き払われて全滅したりもしてるんだ

 ウィンナーの焦げる香りが、果敢の嗅覚を刺激する。

 ブレーメンではウィンナーは、ヴルストと呼ばれている場合が多いのだが、ブレーメン料理といえば、ブルストは定番の一つなのだ。


 他にも芋料理とビールが有名なのだが、朝からビールという訳にもいかない。

 果敢はヴルストとポテトパンケーキ、野菜のサンドイッチにミルクを注文し、朝食を摂っていた。


 食事の場は、繁華街にあったレストラン。

 かなり古びた感じの、木製の内装の店で、夜は酒場として営業しているらしく、壁にはアルコールのメニューが並んでいるが、「夜限定」という但し書きがある。


 カウンターの内側で料理を作っているのは、四十代だろう、エプロン姿の太った女性だ。


「朝から食べるねぇ、お嬢ちゃん」


 パンケーキというよりは、コロッケのような感じの、ポテトパンケーキを平らげた果敢に、女性が声をかける。

 色々と体力や魔力、アウラなどを使ったせいもあり、今朝の果敢の食欲は旺盛だった。


 全てのメニューを二つずつ注文していて、若い女性とは思えない程の量を、果敢は食べているのだ。

 もっとも、そもそも女性ではないのだが。


「夕べ……夕食を食べ損ねちゃいまして。二食分なんです」


 果敢は平然と、嘘を吐く。


「昨夜、この町に来たばかりなんだけど、着くのが夜中になっちゃって、酒場しか開いてなかったもんで」


「夜だと、あんたみたいな若くて可愛いお嬢ちゃんが、食事し易い店は、この辺りは無いからねぇ」


 若くて可愛いお嬢ちゃんなどと呼ばれ、果敢は居心地が悪過ぎる思いをする。


「ウチみたいに日中はレストランでも、夜は酒場になる店も多いし」

 女性は話を続ける。


「お嬢ちゃん、他所から来たのかい?」


「父の店の使いで……リットナーの商業組合に行くつもりだったんですけど」


 さり気なく、果敢は魔族に破壊されたという、商業組合の建物の話を持ち出す。


「あそこだったら、一昨日の夜中に、魔族にやられて……もうないよ。商業地区の一角ごと、魔族に吹っ飛ばされちまったから」


「宿の受付で、誰かが……そんな話してたんですけど、本当だったんですか?」


「ああ、酷いもんさ! 噂じゃ二百人近く死んだそうだよ」


「噂……ですか?」


「先月は、ローゼンシュタットにある新聞社が、魔族共にやられちまったんで、まともなニュースが伝わらないから、本当は何人死んだかも、分からないんだ」


 ローゼンシュタットとは、ローゼンハイン侯爵領の城下町の事だ。


「それくらい死んだらしいって噂が、伝わって来るだけでね」


(そう言えば、新聞社もやられたって、酒場のオッサンが話してたっけ)


 ファン・アルムジックの酒場で聞いた話の裏が、女性のお陰で取れた形になる。

 話を聞きながら、果敢はミルクの入ったマグカップを煽る。


「最近、この辺りでは魔族が暴れ回って、大変なんだよ。山の向こうなんかじゃ、村が一つ……魔族に焼き払われて全滅したりもしてるんだ」


「村が一つ、全滅?」


 アシェンプテルからの情報には、無かった話だったので、果敢は驚きの声を上げる。


「クラセナー村ってとこさ。それなのに、政府も侯爵も……まともに軍を出しちゃくれないから、野放し状態さ」


 女性は呆れ顔で、愚痴を続ける。


「ただでさえ物価高なのに、税金を上げまくるだけで、まともに仕事しないんだから、困ったもんだよ、今度の侯爵様は」


 肩を竦め、女性は言い足す。


「せめて魔族くらいは、どうにかして欲しいもんだけどねぇ」


 女性の言葉を、カウンターで食事をしていた、常連客らしい中年男が受け継ぐ。


「昨日の夜中も、倉庫街がやられたそうだぜ。何か妙な奴が、魔族を倒してくれたとかで、死傷者少なくて済んだらしいが」


(妙な奴か……まぁ、猫の仮面かぶってりゃ、そういう扱いになるんだろうな)


 果敢はミルクを飲みながら、心の中で呟く。


「妙な奴って?」


 女性の問いに、中年男は答える。


「猫の仮面をかぶっていて、猫好きの男だと名乗っていたんだとよ。二十人位の魔族を、あっという間に倒した上、建物の瓦礫を全部浮かせて、埋まってた連中を助けたりと、凄かったらしいぜ」


「そりゃ凄いね、猫の仮面ってのが、確かに妙で、訳が分からないけど」


(魔族の数とか、話が大きくなってるな)


 噂であれば、有り勝ちな事だろうと、果敢は思う。


(噂だけじゃなくて、ちゃんと商業組合の建物の方も、自分で見て確認した方が良さそうだ。どの程度のやられ方なのか、分かるだろう)


 そう考えた果敢は、女性に問いかける。


「ここから商業組合の建物があった辺りへは、どう行けば良いんですかね?」


 それらしい理由を、果敢は付け加える。


「建物が無くなったにせよ、一応は行っておかないと、父への報告もあるんで」


「ここの通りを東に行くと、大通りに突き当たるから、そこを北に行けば、商業組合の建物があった、商業地区の中央に行けるバスが出てるよ」


 女性は言い足す。


「入り口のところに、観光客向けの地図があるから、持って行きな。迷ったら、それを頼れば良い」


「有難う、これ食べたら、早速行ってみます」


 礼を言ってから、果敢は料理を食べ進める。

 その後も、女性と色々な雑談を交わしつつ、さり気なく情報を集めてから、果敢は朝食を終えて、パンフレット風の地図を一枚貰ってから、レストランを後にした。


 女装している事には、誰にも気付かれる事無く。



    ×    ×    ×





2つ増えてた……ブクマどうも、励みになります。

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