表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/84

034 元英雄には、この女装姿で、今から二十四時間を過ごしてもらいまーす!

「元英雄には、この女装姿で、今から二十四時間を過ごしてもらいまーす!」


 楽し気な口調で、アスタロト人形は続ける。


「他の服に着替えようとしたり、自分から女装させられてる事をばらしたりしたら、ペナルティが発生するぞ! あくまでも女性であるかのように、行動し続けるのがルールだよ!」


「こんな服……戦闘に耐えられないから、すぐに破れて無くなっちまうだろ」


 戦闘服とは違い、薄くて柔らかなディアンドルのスカートを摘まみ、呟いた果敢に、アスタロトは言葉を返す。


「その点は安心! 呪いの効果により、そのディアンドルは破壊不可能な仕様なので!」


「破壊不可能? そんな訳がないだろ! 魔術でも聖魔術でも、破壊不可能なんて事は、実現不可能だ!」


「それが、出来ちゃうんだよねー、いにしえの術である、呪術には!」


 ちなみに、アスタロトは分かり易くする為、破壊不可能と言ったのだが、実際は違う。

 破壊されても、すぐに再生されてしまうので、破壊不可能なように見えるというのが、事実なのである。


 実は、世界中の大気中にあるエイセーラスが、果敢がかけられた呪いのエネルギー源として、使われている。

 その膨大なエイセーラスがあるからこそ、こういった魔術や聖魔術では不可能な真似が、出来てしまうのだ。


「確かに、古の術なら……有り得る話か」


 自分の指輪を見詰めながら、果敢は呟く。

 果敢の呪印を隠蔽する為の、加工は可能だが破壊は不可能らしい指輪も、古の術で作られたと言われている。


 アスタロトが使っていたインヴィクタ・ニグルムなども、古の術で作られたらしい。

 こちらは、果敢と草薙剣により、破壊されてしまったように、破壊不可能と言われている物も、破壊されてしまう事が有り得るのだが。


 アスタロト人形は、説明を付け加える。


「なお、その二十四時間の元英雄の姿は、全て幽霊界からは丸見え! 俺達はお前の無様な姿を、幽霊界で楽しませてもらうよ!」


 そう言うと、地面に現れた光る円の中に、アスタロト人形とテーブルは、沈み込むように姿を消してしまう。

 光る円も、すぐに消え去る。


「二十四時間か……丸一日続く呪いは、久し振りだな」


 げんなりとした表情で、果敢は続ける。


「冒険者生活中なら、家に引き籠ってりゃ良いんだけど、魔族共の情報調べて、退治しなきゃならないから、引き籠ってる訳にもいかないんだよな」


 スカートの裾を摘まみ、改めて自分が女装しているのを確認してから、果敢は溜息を吐く。


「とりあえず、もう夜中だし……宿でも探すか」


 果敢はリットナーの町並を見下ろし、光点……明かりが多い辺りを探す。

 真夜中でも明かりが多い場所は、繁華街の可能性が高く、繁華街なら宿屋などもあるだろうと、果敢は考えたのだ。


 光点が多い場所を見付けた果敢は、低出力でエアリアルを発動すると、夜空に舞い上がる。

 低出力で、短距離移動するだけなら、呪印が満月に近付く可能性は無い。


 夜空に舞い上がった直後、普段は感じない涼しさを、下半身に覚える。


「スカートだからかな? 中に空気が入り易いのか」


 そして、違和感を覚えながら、自動車よりも遅いくらいのスピードで、飛び続けた果敢は、町並の上空に入る。

 街灯に照らされた道路などには、まだ自動車や人の姿が確認出来る。


「地上からスカートの中が……覗けたりはしないか」


 地上数メートルの高さなら、そんな心配もあるが、五十メートル以上の高さ、しかも夜空を飛んでいるので、心配は不要だろうと、果敢は判断。


「でも、地上から飛び上がる時や、着地する時とかは、気を付けた方が良さそうだ」


 果敢は呟きながら、目指していた辺りに辿り着く。

 辺境とはいえ、一応は商業都市なので、真夜中でも賑わう繁華街はある。


 繁華街のメインストリート……表通りの近くにある、人気の無さそうな裏通りに、果敢は着地する。

 周囲に人がいないのを、一応は確認しつつ。


 裏通りから、果敢は表通りを目指し、歩き始める。


「どうも、歩き難いな」


 踵が高い訳ではないのだが、履き慣れないパンプスと、足にまとわりつくスカートのせいで、歩き難いのだ。

 慣れないパンプスとスカートに、苦労させられつつも、すぐに果敢は、繁華街の表通りの手前に辿り着く。


 だが、その場で果敢は立ち止まり、暫し躊躇ためらう。

 裏通りとは違い、表通りは人で賑わっている。


 女装姿で人前に出る覚悟が、まだ果敢は決まっていなかったのだ。


(宿に泊まるの止めて、今夜は野営しようかな?)


 そんな考えが、果敢の頭に浮かんで来る。


(いや、でも……調べて回る為には、どうせこの姿で、人前に出る羽目になるんだ。人前に出るのを躊躇ってたら、時間を無駄にするだけだろ)


 気を落ち着かせる為に深呼吸すると、果敢は覚悟を決めて、繁華街に足を踏み出す。

 魔術による光源を利用した、酒場や飲食店の派手な看板が、ネオンサインのように、妖しい光を放っている。


 グリム聖教の存在のせいで、グリム大陸は日本に比べると、かなり性的な倫理が厳しい。

 それでも、繁華街や歓楽街の類は存在する。


 一般的なモラルや常識に、当てはまらずに生きる人々は、ある程度は存在する。

 そういった人々の需要に応える場所は、ちゃんと存在するのである。


 通りにいるのは、どちらかといえば男性が多い。

 しかも、どちらかといえば、余り柄が良いとは言えない感じの男性達が。


(宿が無いな……飲み屋ばかりだ)


 果敢は通りを見回しながら、泊まれそうな宿を探す。

 そんな果敢の姿は、背が高目で細身の、ボーイッシュな少女に見える。


 化粧っ気は無いし、動きも女性的ではないので、女性的な色気は皆無。

 ただ、見た目だけであれば、実年齢より年下に見えるせいもあり、果敢は成人女性では無く、少女に見えてしまう。


 少女に見える女装姿で、真夜中に一人歩きをしているのだから、ある種の男性に、果敢は目を付けられ易くなってしまっていた。

 ある種というのは、若い女性を漁る為、夜の街を徘徊している男性達だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ