033 その欲しがり屋さんとかいう言葉、気に入ってるみたいだな
「ルーレットターイムッ! お待ちかねの、ルーレットの時間だよ!」
テーブルと共に現れたアスタロト人形が、楽し気に声を上げる。
場所は、リットナー郊外にある、低い岩山の上だ。
呪印を発動させる場として、人気の無い岩山を、果敢は選んだのだ。
「それにしても、ほんの数時間前にやったばかりだってのに、ホント……元英雄ってば、欲しがり屋さんだねぇ!」
「その欲しがり屋さんとかいう言葉、気に入ってるみたいだな」
果敢は半目の呆れ顔で、言葉を吐き捨てる。
「さーて、欲しがり屋さんの元英雄が、どんな呪いを引き当てるのか、乞うご期待!」
幽霊界で見物している、魔族の幽霊達の歓声が聞えて来る。
ひょっとしたら、また人族の幽霊達も、混ざっているのかもしれないという考えが、果敢の頭に浮かぶ。
「今回は、何と二週間振りのレベル3! レベルも3となれば、かなり面白い……いや、ハードな呪いが並んでるから、楽しみだねぇ!」
げんなりとした表情で溜息を吐く、上半身裸になっている、果敢の胸にある満月の呪印には、「3」が表示されている。
呪いのレベルは、3になってしまったのだ。
多数の建物の残骸を、慎重に宙に浮かす飛行魔術の使用は、やはり膨大な魔力を消耗していた。
レベル3になるのを、避けられなかったのである。
「さぁ、レベル3の呪いを選ぼうじゃないか、欲しがり屋さんの元英雄! さっさとボールを取って投げないと、呪いがどんどん、ヤバいのに変わってくぞ!」
ルーレットが現れてから、ボールを取って投げずに、時間が過ぎて行くと、アスタロトの言う通り、よりヤバい呪いに、呪いの内容が変わる場合があるのだ。
この場合、レベルが上がる訳ではなく、同じレベルの呪いの中で、より果敢が嫌がるだろう呪いに、入れ替わるのである。
アスタロト人形に急かされ、果敢はテーブルの上のボールを手に取る。
すると、ルーレットのホイールが回り始めたので、果敢はボールを放り込む。
(下ネタ系だけは、勘弁してくれ! あれは精神的に、ダメージが長引くから!)
祈る果敢の前で、ホイールは次第に回転が遅くなり、弾んでいたボールは転がり始める。
そして、ボールは赤いポケットに落ちる。
ポケットに書かれた呪いを、アスタロト人形は読み上げる。
「今回の呪いは、『勇気を出して初めての女装二十四時』に決定!」
「どっかのテレビ番組のタイトルみたいな呪いだな」
呆れ顔で、果敢は続ける。
「それで、どんな呪いなんだ?」
ほぼ見当はついているのだが、果敢は一応問いかけたのだ。
「女装して二十四時間過ごして貰うだけの、とてもシンプルな呪いだよっ! それでは、さっそく女装して貰いましょう!」
果敢の足下に、満月の呪印が現れる。
近くに置いていた、脱いでいた服やリュックが、ふわりと浮き上がり、自動的に果敢の身体に装着される。
「え? 何? ちょっと待て! まだ心の準備が!」
果敢は慌てふためくが、既に呪いは始まってしまっていた。
満月の呪印が放つ光の中で、果敢の着衣やリュックが、変化し始める。
ほんの数秒で、光と足下の満月の呪印は消え去ったのだが、その時……果敢の姿は、別人のように変わっていた。
身に着けていた全ての物が、女性用に変わり、女装した状態になってしまったのである。
果敢の女装姿を見て、アスタロト人形は微妙な表情を浮かべる。
「何か……結構、似合ってるのがムカツクわー。もっと変になった方が、面白かったのに」
アスタロト人形は言い足す。
「まぁ、女連中には受けてるけど。女連中は魔族も人族も、女装ネタが好きだからねー」
受けているのは事実らしく、アスタロトの声に混ざり、幽霊界で見ているのだろう、楽し気な女性達の声が、聞こえて来る。
「いったい、俺は……どんな姿になってんだ?」
不安気な表情で、果敢は自問する。
「鏡出してやるから、自分で確認してみろよ。元英雄様の女装姿を」
アスタロト人形の嘲るような言葉の直後、果敢の前に、姿見のような大きな鏡が出現する。
呪印の力を借りて、アスタロト人形……というよりは、幽霊界にいるアスタロトが、鏡を送り込んだのだ。
果敢は鏡を見て、自分の姿を確認する。
「これは、確かディアンドルとかいう……」
肩が膨らんだパフスリーブの白いブラウスに、タイトなベスト風の黒い胴衣と膝丈のスカート。
スカートの上には、モスグリーンのエプロンという服装を、果敢は身に纏っていた。
この組み合わせは、ブレーメンのディアンドルという、若い女性向けの民族衣装である。
果敢もブレーメンにいた時、ディアンドル姿の女性を、何度か目にした事があったので、知っていたのだ。
元々、ディアンドルのスカートの丈は長いらしいのだが、最近の若い女性は、膝上くらいの丈の、短いスカートを好むので、そういったデザインのが増えているらしい。
果敢が着ていたのは、その最近風のデザインのであった。
リュックも戦闘服に合わせた、武骨なものではなく、胴衣に合わせた感じの、刺繍がされた女性用の物に、姿を変えていた。
靴もハイカットのスニーカーを頑丈にした感じの、野戦用の物ではなく、黒いパンプスになっている。
そして、アスタロト人形の言葉通り、果敢のディアンドル姿は、結構似合っていた。
元々が女性的な顔立ちの上、髭も生えていなかったりもするので、女装が似合ってしまうのだ。
果敢としては、女装が似合い過ぎている自分を見るのは、かなり気まずい思いをする経験だったのだが。
「つーか、これ胸……どうなってんのよ?」
ブラウスの胸元を開き、果敢は胸を確認してみる。
白いブラジャー自体が、パッドと一体化している感じになっているせいで、胸が膨らんでいるように見えるのが、果敢には分かった。
ブクマ増えてる…… ブクマどうも、モチベになります。




