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030 逃げろ! こいつ……まともじゃない!

 凄まじい勢いのアウラの暴風に吹かれ、魔族達は吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら、空中で体勢を崩してしまう。

 当然、魔族達は地上に向けて、マジック・バレットなどの攻撃を放てない状況になる。


 爆風の如き勢いがある、アウラの放射……アウラ・ブラストで、果敢は魔族達の攻撃を阻害し、隙を作ったのだ。

 もっと強力な遠距離攻撃で、魔族達を仕留める事は出来るが、回避されて流れ弾となり、町に被害を出してしまう可能性がある。


 そこで、まずは町を破壊する可能性が無い、アウラ・ブラストを使い、魔族達の地上への攻撃を阻害。

 隙を作った上で、果敢は魔族達に接近し、アウラ・ブレードで仕留める事にしたのだ。


 魔族達の隙を、果敢は見逃さない。

 果敢は魔族の一人に突撃すると、アウラ・ブレードにしたままの左手で、切りかかる。


 心臓がある胸の辺りを一刀両断し、果敢は一撃のもとに、一人目の魔族を仕留める。

 人と変わらぬ、赤い血を噴出させながら、既に絶命した魔族の死体は、地上へと落下して行く。


(手応えが無い、下級魔族だな)


 すぐさま、二十メートル程離れた場所にいる魔族に向かって、果敢は飛び掛かって行く。

 まだ体勢を立て直せていない魔族の頭部を、果敢はアウラ・ブレードで突き刺して破壊。


 下級魔族の場合、脳や心臓を狙わずとも、倒せる場合もあるのだが、果敢は念の為に、きっちりと弱点を狙う。

 一人目に続き、二人目の魔族も、致命傷を食らい……墜落して行く。


「逃げろ! こいつ……まともじゃない!」


 魔族の一人が、焦りの声を上げる。

 一人だけ混ざっていた、若い女性の魔族だ。


 勝ち目が無いのを悟り、女性の魔族と男性の魔族は、果敢に背を向けて逃げ去ろうとする。


(逃がして、後を追えば……アジトを突き止められるかもしれない)


 残りの魔族を、故意に逃がして、後をつけようと考えた果敢の耳に、下の方から人々の悲鳴と、助けを求める声が届く。

 地上に目をやると、瓦礫に埋まった人々を、助けようとしている人々の姿や、火事が起こり始めている建物などが、果敢の目に映る。


(下にいる人達を、助けなきゃならないから、その策は無理か)


 魔族を逃がして追いかけたら、地上で危機に瀕している人々を、助けられない。


(月が出てる夜でなければ、アウラ・マーカーが使えるんだけど……)


 月が輝いている夜空を、果敢は一瞥する。

 アウラ・マーカーとは、アウラでマーキングを行うアウラ・アーツであり、追跡や尾行をする場合に便利なのだが、月光と相性が悪いらしく、月夜の今は使えないのだ。


 アウラ・マーカーが使えれば、果敢は人々を助けた後でも、遠くまで逃げた魔族達を追跡出来る。

 だが、月夜の今は使えないので、人々を助けたら、逃げた魔族の追跡は不可能になる。


 人々を助けない訳にはいかないので、故意に魔族を逃がし、追いかける策を、果敢は放棄する。

 飛び去る魔族に向かって飛んだ果敢は、あっという間に追い着いて、残り三人の魔族達を、次々とアウラ・ブレードで切り裂き、仕留めてしまう。


 空中に血を撒き散らし、急所を破壊された魔族の死体が、地上に落下して行く。

 僅かの間に、果敢は五人の魔族を、片付け終えてしまった。


 果敢は役目を終えたアウラ・ブレードを解除すると、破壊された建物の辺りに向かって、急降下する。

 そして、地上に降り立つと、燃え上がり始めていた、建物の近くに向かう。


 まだ燃えている建物の数は少ないが、燃え広がったら、瓦礫に埋まっている人々や、それを助けようとしている人々にも、危険が及ぶ。

 故に、まずは燃えている建物の消火を優先すべきだと、果敢は考えたのだ。


 煉瓦造りの建物の残骸や、近くに落ちている、「マグダ商会第三倉庫」と記された、壊れた看板を目にして、果敢は呟く。


(倉庫街か……)


 建物を包む、赤々とした炎は、周囲を真夏の炎天下のような気温にしている。

 激しい炎に焼かれ、炎に強い筈の煉瓦製の倉庫は、既に崩れ始めていて、周囲に燃え広がってもおかしくはない状況だった。


 熱気に肌を炙られながら、果敢は燃えている倉庫に右手を向けると、クリケを唱えて、氷結魔術を発動。

 右手から氷点下の冷気を吹き出し、果敢は燃えていた辺りの温度を、一気に氷点下数度に引き下げる。


 冷気により消火された建物の周囲では、無数の氷片が大気中の水分が氷結し、ダイヤモンドダストとなり、月明りを浴びて煌めく。

 まるで、真夏の炎天下から、真冬の深夜に変わったかのような光景だ。


 燃えている辺りは、人の声もしなければ、気配も無かった。

 それでも、一応は倉庫内に、人がいる可能性を考慮し、人が死なない程度の温度に抑えた冷気を、果敢は燃え上がる倉庫に浴びせたのだった。


 実際は、燃えていた倉庫は無人であり、果敢の配慮は不要と言えた。

 真夜中の倉庫街なので、人がいた倉庫の方が少ないのだ。


 三十秒程で、果敢は燃え上がっていた、数棟の倉庫の消火を、手際良く終える。

 そして、悲鳴や助けを呼ぶ声がする、瓦礫の山がある方に、果敢は向かう。


 瓦礫の山の上には、十数人の人々がいて、近付いて来た果敢を見ながら、戸惑いの表情を浮かべていた。

 自分達を襲っていた魔族達を倒してくれたし、倉庫の火事を消火してくれたのだから、敵ではないだろうと考えてはいる。


 だが、猫の仮面をかぶった、正体不明の何者かが近付いてくれば、戸惑うのも当たり前なのだ。





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