029 呪印の状態、気にしてる場合じゃねえ!
(リットナーまで、あと一キロか……)
真夜中近く、疾風のように街道を駆けていた果敢は、「リットナーまで1キロ」という指示標識を目にして、心の中で呟く。
呪印が満月に近付かない程度の、低出力のアウラ・アクセルで、果敢は一人、リットナーに向かって、走っていたのだ。
ヴァルケを後にした果敢は、店で話していた者達の話を参考にして、リットナーを目指す事にした。
ファン・アルムジックからだと、普通なら自動車で行く距離にあるのだが、旅行者向けの自動車は、既に出ていない時間帯だったので、果敢は酔い覚ましの為、少しだけ休んでから、アウラ・アクセルで走って行く事にした。
エアリアルで飛んだ方が速いのだが、エアリアルはアウラ・アクセルよりも、強いアウラを必要とする。
エアリアルで長距離移動すると、呪印が満月に近付く確率が、アウラ・アクセルより高いので、エアリアルの使用は避けたのだ。
途中で何度も休みつつ、三時間程かけて走り続け、果敢はリットナーの近くまで、辿り着いたのである。
走っている間に夜は更け、夜中に近い時間帯になってしまっていた。
人気が無いどころか、殆ど車も通らない、寂しい街道を、一人走る果敢の目に、町の明かりが見えて来る。
リットナーの街灯りが、遥か前方に見え始めたのだ。
目標のリットナーが見えて来たので、果敢は嬉しそうに笑みを浮かべる。
さすがに疲れ始めていた身体に、再び活力が漲り始める。
大きな町の筈なのだが、時間帯のせいなのか、街灯りは疎らである。
既に大部分の建物は、照明を落としているのだ。
(まずは、昨夜……魔族に破壊されたっていう、商業組合の建物を、探してみるか)
果敢が心の中で呟いた直後、リットナーの街灯りの外れの方から、爆発音響いて来て、夜空の大気を震わせる。
(爆発? 魔族か?)
爆発音が響いて来た辺りを見た果敢は、月光と炎に照らされた、舞い上がる爆煙を視認。
爆発が発生しているのは、明らかな状況。
爆発の原因は分からないが、魔族が暴れ回っているというリットナーであれば、魔族が引き起こした爆発である可能性が高い。
一度だけでは無く、爆発は場所を変えて、次々と発生する。
(呪印の状態、気にしてる場合じゃねえ!)
魔族が現れたのかもしれないなら、呪印が満月に近付かないように、アウラや魔力を抑える訳にはいかない。
呪いを身に受けるのは覚悟の上で、果敢はベストのポケットから取り出した、猫の仮面をかぶりつつ、アウラを大量に練り上げる。
アウラ・アクセルからエアリアルに切り替え、果敢は宙に舞い上がる。
普段の癖で、黒い戦闘服に魔力を流し、色を白に変えようとしてしまうが、白は夜は目立ちそうなので、色を変えるのは止める。
地を駆けるよりも、小回りは効かないのだが、直線的な移動であれば、空を飛んだ方が速い。
夜の大気を切り裂き、果敢はロケットのように、爆発が起こった辺りに向かって、すっ飛んで行く。
爆発が起こった辺りに近付くと、空を舞う五体の黒い人影が、果敢の目に映る。
魔族と戦い慣れた果敢には、その黒衣の人影が、魔族である事を、一瞬で見抜く。
明るい月明りや、燃える建物の炎に照らされているので、頭部に生えている一本の角や、身に纏っている黒い霧のような魔力が、果敢は視認出来た。
どちらも、魔族である証だ。
アスタロトに比べれば、魔力は微々たるものなので、黒い霧は薄く少ない。
魔力が強い魔族程、戦闘時に身体から溢れ出たり、纏ったりする魔力の色は濃くなり、量も多くなる。
四人の魔族達は地上に向け、黒い球体のような物を放ち、煉瓦造りの倉庫と思われる建物を、次々と破壊している。
魔力を圧縮した球体を放ち、衝突させて爆発させる、マジック・バレットという、魔族が良く使う、単純な攻撃だ。
単純な攻撃ではあるが、強力な魔力を持つ魔族が放てば、一発で小さなビルなど吹き飛ばせる程度の威力がある。
ただ、マジック・バレットには、炎を発生させる力は無い。
火事が発生しているのは、魔族の一人が、他の魔族達とは違い、爆発ではなく、マジック・インセンディアリーを使ったから。
見た目はマジック・バレットと、余り変わらないのだが、爆発するのではなく、攻撃対象を焼き払って破壊するのが、マジック・インセンディアリーである。
建物や町並を破壊する場合、マジック・インセンディアリーの方が、マジック・バレットよりも、より被害が大きくなりがちだ。
焼夷弾のような効果があり、建物が次々と延焼していくので。
(とりあえず、地上への攻撃を止めないと!)
魔族達は地上数十メートルの空中にいるので、遠距離攻撃で周囲を巻き込む可能性は無い。
飛行中に、果敢は戦闘に備え、アウラ・アーマーとアウラ・ブレードを発動していたのだが、右手のアウラ・ブレードは解除する。
そして、右掌を魔族達に向けると、アウラ・ブレードの為に集めていたアウラを、ジェット噴射のような音を響かせながら、勢い良く放出する。
煌めくアウラの奔流が、魔族達に向かって襲い掛かる。




