025 ねー、あの人の……おふろで見た、パパのより大きいよ!
「さぁ、全裸になろうか! 五分以内に脱がないと、呪いが自動的にレベル5にグレードアップするよ!」
呪いが決まってから、一定時間以内に実行し始めないと、アスタロト人形の言う通りになってしまうのだ。
果敢は嫌々、羞恥心を堪えながら、カーゴパンツを脱ぐ。
(あ、そうだ! 帰還印と呪印を隠さないと!)
人前で全裸にならなければならないので、胸の印を隠蔽魔術で隠さないと、見られてしまう可能性がある。
果敢は指輪を元に戻し、胸の印を隠す。
そして、靴下と靴を脱ぎ、最後に黒いトランクス風の下着を脱いで、果敢は全裸になる。
幽霊界で見物している女性達が、男性ストリップを見ている女性客のように、盛り上がる声が聞こえる。
魔族の半分は女性であるのを思い出し、魔族とはいえ女性に裸を見られている事に、果敢は激しい羞恥心を覚え、顔を真っ赤にする。
「よくもまぁ、そんな細い身体で、あれだけの戦いが出来たもんだな」
果敢の細身の体を見て、昔の戦いを思い出したのか、少しだけ真面目な事を言った後、すぐにアスタロト人形は、気楽な口調に戻る。
「さぁ! 走り出そう! 領民の為に走った、ゴダイヴァ夫人のように!」
「いや、そんな……まだ心の準備が!」
慌てる果敢相手に、アスタロト人形は楽し気に言い放つ。
「大丈夫! 裸になれば、身体が勝手に、走り出してくれるから!」
アスタロト人形の言う通り、果敢の身体は勝手に川原を走り出す。
岩だらけの川原を裸足で走っても、鍛えられているので、どうという事は無い。
「おい! 何だこれ? どうなってんだよ?」
恥ずかしさと焦りで、声を上ずらせながら、果敢はアスタロト人形に問いかける。
「走り出したら、最寄りの町の中を一週して、スタート地点に戻るまで、止まらないよ!」
川原を出て、果敢は舗装されていない道に出る。
無人の川原とは違い、人がいてもおかしくない道に出たので、果敢は股間を手で隠そうとするが……隠せない。
「股間は隠せないから、諦めな!」
ドローンのように近くを飛びながら、ついて来ているアスタロト人形は、言葉を続ける。
「服と荷物の方は、テーブルが結界張って、隠して守っておいてくれるから、安心してゴダイヴァ・ランニングを楽しんでくれ!」
「楽しめる訳ねぇだろ、馬鹿野郎!」
果敢は悪態を吐くが、身体は勝手に走り続ける。
無論、進行方向には、最寄りの町であるファン・レントがある。
果敢の目に、ファン・レントの城壁が見えて来る。
かなりの僻地ではあるのだが、それなりの規模の商業都市なので、盗賊や魔族の襲撃に備え、町の周囲には城壁があるのだ。
城壁の近くには、武装した戦闘服姿の、二人の警備員達がいる。
全裸で走って来る果敢の存在に、警備員達は気付く。
最初は、見間違いかという感じで、警備員達は顔を見合わせ、会話を交わす。
その上で、見間違いでは無いと気付き、声を上げる。
「止まれ! この変態! 露出狂!」
「何考えてるんだ、このガキ! 止まれ! 変態を町に入れる訳にはいかない!」
男性の警備員達は、罵倒の言葉を投げかけながら、果敢を制止しようとする。
「止まりたいんだけど、止まらないんだよ!」
声を上げながら、果敢は跳躍する。
身体が勝手に、警備員達どころか、城壁自体を、跳び超えてしまう。
城壁を跳び越えた果敢は、夕暮れに染まるファン・レントの町の中に、着地する。
グリム大陸の都市部は、工業的に量産された建材を使用した、近代的な建築物が多いのだが、地方都市となると、そういった建物は少なく、代わりに木骨造などの、古い建物が多い。
ファン・レントは、そんな古い建物が多い町だ。
でも、町並を構成する建物の事など、果敢は気にしている場合ではない。
果敢が気にするのは、建物の手前にいる人々、ファン・レントの大通りにいる、沢山の人々だ。
現代日本人の果敢には、やや古びて見えるが、レトロで洒落た感じにも見える、近代のヨーロッパ風の服装に身を包んだ人々が、果敢の周囲には沢山いるのである。
買い物に来た人々や、仕事や学校帰りの人々、店で商う人々などで、大通りは賑わっている。
そんな大通りに、果敢は全裸のまま、跳び込んでしまったのだ。
当然、人々の間から、悲鳴と怒号が上がる。
「変態だ! 変態が現れたぞ!」
「露出狂だ! 変質者だ!」
「女? 何だよ、良く見たら男じゃねーか! 女みたいな顔しやがって、紛らわしいんだよ!」
「エリー、見ちゃだめです! あんなの見たら、目が腐ります!」
「ねー、あの人の……おふろで見た、パパのより大きいよ!」
「何を言っている? パパの方が大きい!」
「誰か! 警察の人呼んで!」
人々の刺すような視線が集まる中、果敢は舗装されている大通りを、走り始める。
頬を染め、羞恥の表情を浮かべつつ。
「パパ! あの人、自分で裸になってるのに、恥ずかしそうだよ?」
「裸を見られる恥ずかしさを、楽しんでいるんだよ。そういう趣味の変態を、露出趣味って言うのさ」
「あなた! 子供に変な言葉を教えないで下さい!」
通り過ぎて行く親子の会話が、果敢の耳に届く。
言い返したいところなのだが、既に後方遠くにいるので、手遅れだった。
悲鳴と怒号が響き渡る大通りを、果敢は全裸で走り続ける。
様々な罵倒の言葉を、果敢は浴びせかけられ続ける。
グリム大陸の大抵の国には、警察組織がある。
性的なモラルが厳しい事もあり、すぐに誰かが呼び付けた警察官が、果敢を逮捕しに現れる。
大抵の国で、警察官は青と白で色分けされた、詰襟の制服を着ているので、判別し易い。
「止まれ変態! 公道を全裸で走り回るとは、何事だ!」
「この痴漢が! 破廉恥な真似は止めるんだ!」
鋭い声を発しながら、警官達は手にしている槍や剣を、果敢に向けて威嚇する。
道に広がって立ち塞がり、果敢の行くてを遮りながら。
だが、果敢は跳躍し、軽々と警官達を跳び越してしまう。
その際、高く跳躍したせいで、大通りの騒ぎを、二階のベランダで見物していた、妙齢の女性の前を、果敢は通り過ぎる形になる。
股を開いて、股間の物を丸出しにした状態で、目の前に現れた果敢を目にして、女性は頬を染めつつ悲鳴を上げる。
興味深げな目で、果敢の股間を凝視しているので、悲鳴は本気でというよりは、建前である。
「あいつ、二階のベランダにいる女性に、わざわざジャンプしてまで、自分の股間を見せ付けやがったぞ!」
「どうかしてやがる変態だな! そこまでして、女に自分の股間を見せ付けようとするとは!」
言い訳の言葉を、果敢は慌てて口にする。
「いや、わざとじゃないから! 身体が勝手にジャンプしたら、偶然そうなっただけなんだって!」
だが、既に果敢は、ベランダの女性から遠ざかっているので、言い訳は届かない。
それに、次々と上がる悲鳴と怒号、罵倒の言葉により、果敢の言い訳の声は、かき消されてしまう。
そのまま、果敢は大通りを走り抜けると、激しい羞恥心に苛まれながら、ファン・レントの町中を走り回った。
三十分程の時間をかけて、町中を騒然とさせまくった後、果敢は来た時と同じ城壁を跳び越え、ファン・レントの町を走り去った。
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