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023 キャンプは、ここまでか……

 キスの前に、レギーナの話を果敢が口にしたのが、何時もよりもキスが激しくなった原因であった。

 アシェンプテルは何かと、レギーナをライバル視している。


 レギーナも会いに来た際は、果敢とキスをしたに決まっていると、アシェンプテルは思っている。

 故に、レギーナに張り合い、レギーナよりも激しいキスをして、自分とのキスの方を、より強く果敢に覚えておいて欲しいと、アシェンプテルは思ったのだ。


 そんな感情を、「上書きしておきたい」と、アシェンプテルは表現したのだった。

 上書き出来たと思える程、激しいキスを終えて、アシェンプテルは果敢を解放する。


 アシェンプテルは、唾液に塗れた唇をハンカチで拭うと、ハンカチをポケットに仕舞う。


「じゃ、もう行かないと」


 アシェンプテルは立ち上がる。


「あ、最後に一つ!」


 言い忘れていたとばかりに、アシェンプテルは続ける。


「呪印を発動させちゃうような事を頼む、私が言うのも何なんだけど……呪いがレベル5にならないように、気を付けなさいよ!」


 レベル5になると、果敢が誰かと性的な関係を持つタイプの呪いばかりが、ルーレットのホイールに書かれる事になるのだ。

 レベル5の呪いだけは、完全に固定されていて、変化する事は無い。


 固定されているのは、呪術自体の仕様だというのが、レギーナの研究で明らかになっている。

 そういった呪いばかりが選ばれたのは、女性に対して、基本的に真面目な果敢は、そういった性的関係を結ぶと、酷い自己嫌悪に陥るからだろうというのが、レギーナの推測だ。


 レベル5の呪いが発動すると、果敢が他の女性と、性的な関係を結んでしまう。

 それが嫌なので、アシェンプテルは注意したのである。


「特級魔族が出た場合は、仕方がないけど、それ以下の魔族の場合は、絶対にレベル5になるような真似は、避けてよね!」


 果敢といえど、特級魔族相手となると、本気で戦わなければ勝てない。

 当然、レベル5の呪いを、避けられなくなる。


「分かってるよ、レベル5の呪いは、俺だって嫌なんだ」


 実際、過去にレベル5の呪いを身に受けた後、果敢は酷過ぎる自己嫌悪に陥っている。

 最初の発動に至っては、グリム大陸中で卑劣漢扱いされ、追われる身となった原因にもなっているのだから、果敢が嫌がるのは当たり前だ。


 呪術と呪印の研究の為、相手となる女性の合意を得た上で、レベル5の呪いを、故意に身に受ける時でも、かなりの罪悪感を覚えてしまう程なので。


「本当? その割りには、結構やらかしてるよね」


 疑い深げな目で、アシェンプテルは続ける。


「二か月前に、ハインリヒが頼んだ件で、上級魔族相手だったのに、レベル5になったっていう情報、入って来てるんだけど?」


 事実なので、果敢は気まずそうに、目線を逸らす。

 惚けようかとも思ったのだが、魔女の塔の出身者であるアシェンプテルには、惚けるだけ無駄だろうと判断する。


 呪いがレベル5に達した場合、とある理由から、果敢は魔女の塔に行く場合が多い。

 魔女の塔に友人が多いアシェンプテルには、果敢が魔女の塔を訪れた情報は、流れ易いのだ。


「上級魔族ばかりだったんだけど、面倒な特殊能力持ってる連中揃いでね、倒すの大変だったんだよ」


「ま、とにかく……本当に嫌だっていうのなら、レベル5にならないようにしなさいよ!」


 アシェンプテルは、言い添える。


「特級魔族が相手の場合は、仕方が無いけどね。いくらカカンでも、手加減して戦ったら、危険な相手だから」


 特級魔族相手であれば、レベル5になっても仕方が無い事を、アシェンプテルは再度、果敢に伝えた。

 果敢であっても、レベル5にならないように、能力を抑えて戦えば、特級魔族相手だと危険な事を、アシェンプテルは分かっているので、念を押したのだ。


 可能性は低いとはいえ、特級魔族と戦うかもしれない場所に、アシェンプテルは本音を言えば、果敢を送り込みたくは無い。

 果敢が負ける事は有り得なくとも、レベル5の呪いが発動するのが嫌なので。


 それでも、果敢に頼まざるを得ないのは、他に頼める相手が、いないからである。

 ローゼンハイン侯爵領の人々を、魔族の手から守る為に動けるのは、アシェンプテルの知る限り、果敢だけなのだ。


 個人的な嫉妬の感情よりは、ローゼンハイン侯爵領の人々を救う事の方を、アシェンプテルは優先する。

 アシェンプテルは、そういう女性なのである。


「それじゃ、またね!」


 踵を返して歩き去るアシェンプテルに、果敢は声をかける。


「またな!」


 アシェンプテルは足早に、草原を歩き続け、森の中に姿を消す。

 人目に付かない森の中に入った後、アシェンプテルはアウラ・アクセルを発動し、高速で森の中を駆けて行く。


 戦闘に参加する魔術師には、後衛として魔術のみで戦う者もいれば、ある程度のアウラ・アーツを習得し、前衛としても戦える者もいる。

 果敢と共に、最も危険な戦場に立ち続けたアシェンプテルは、後者の魔術師なのだ。


 武術をメインに戦う、軍人や冒険者でいえば、レベル4に相当するアウラ・アーツの実力を、アシェンプテルは持っている。

 ちなみに魔術の方は、レベル10である。


 つい果敢との時間を楽しみ過ぎてしまい、アシェンプテルは果敢の元から去るのが、遅れてしまった。

 それ故、アウラ・アクセルを使い、空港がある港町まで、アシェンプテルは急いでいるのだ。


「キャンプは、ここまでか……」


 アシェンプテルを見送った果敢は、残念そうに呟くと、キャンプ道具を片付け始める。

 椅子やテーブル、テントなどの組み立て式のキャンプ道具を、果敢は手際良く分解して、大きいリュックの中に収める。


 果敢はリュックを背負うと、名残惜し気に湖の景色を眺めてから、アベントレロに向って歩き出す。

 アパートに戻り、旅立つ準備を整える為に。



    ×    ×    ×






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