022 どうせしてるんでしょ、レギーナとも?
実は果敢は、アシェンプテルに交際を求められ、断った事があった。
別にアシェンプテルが嫌だった訳ではなく、この世界では恋人を作る気がなかったので、果敢は断ったのだ。
それ故、この世界に来て二年以上の間に、アシェンプテルだけではなく、実は結構な数の女性を、果敢は振ってしまっている。
見た目も悪くない上、最近は少しやさぐれた生活をしているとはいえ、正義感が強く、何かと人助けをするタイプの果敢は、女性には好かれる部類なのである。
振られた後も、アシェンプテルは果敢の事を、諦めてはいなかった。
呪いのせいとはいえ、果敢と身体の関係を持ってしまった後、アシェンプテルは開き直ったかのように、積極的に果敢に対し、再アプローチをかけ始めた。
顔を合わせる機会は減ったのだが、アシェンプテルは果敢と出会った時、自分からキスを迫ったりするようになった。
自分に対する負い目から、果敢が強くは拒否出来ないのを利用し、キスを楽しむ感じで。
アシェンプテルが楽しむのは、キスとスキンシップ程度で、身体の関係を求めたりはしない。
戦後、グリム聖教から離れたのだが、グリム聖教の教徒として育った影響で、正式に付き合ってはいない相手に、自分から身体の関係を求めたりする事は、アシェンプテルには出来ないのである。
キスの後、アシェンプテルは恋人のように、果敢と並んで椅子に座り、色々な話をした。
一カ月振りなので、本来の要件だけでなく、色々と話す事はあるのだ。
果敢にとっても、グリム大陸の状況や、自分と親しかった者達の近況など、興味深い話は多く、楽しい会話が続いた。
異性としての魅力に溢れる、アシェンプテルの過剰なスキンシップには、困らされつつも、時めいてしまうという、複雑な感情を抱きはしたのだが。
一時間近く、本来の要件以外の話を楽しんだ後、アシェンプテルは腕時計で、時間を確認する。
そして、残念そうに呟く。
「時間切れみたい……」
「話せて楽しかったよ」
そう果敢に言われて、アシェンプテルは嬉しそうに微笑みながら、ポケットから封筒を取り出す。
「渡すの忘れてた、頼んだ件に関しての、資料と活動資金」
果敢は封筒の中をチェックする。
封筒の中に入っていた、ブレーメンの白い紙幣の束を目にして、果敢は驚く。
「ずいぶん多いな。こんなに要らないだろ」
「今、ブレーメン国内は、物価高いんだ。戦時の価格統制が終わったんだけど、国内が安定してなくて……インフレ続きで」
「インフレなのは、知ってるって。それでも、こんなには要らないんじゃないの?」
「ローゼンハイン侯爵領は、色んな税金が上がったせいで、他の地域よりもインフレが進んでるから、これくらい持って行った方が良いんだ」
「成程……」
「何か他に必要な物があるなら、用意するけど?」
「要らない。レギーナに色々貰った物があるから、それで何とかなるし」
果敢の口から、レギーナという言葉が出たのを聞いて、アシェンプテルは少しだけ、表情を強張らせる。
「レギーナは最近、会いに来てるの?」
「二週間くらい前に来たよ」
「泊りで?」
「日帰りだよ、あいつも相当に忙しいから、長くは居れない」
アシェンプテルは、安堵の表情を浮かべる。
「呪術解除の研究は、少しは進んでる?」
「残念ながら……」
それは良かった……と、アシェンプテルは思ったが、口には出さなかった。
「ただ、胸の呪印を隠す指輪の、より性能の良い奴が出来たから、持って来てくれたんだ」
左手の中指にはめている指輪を、果敢はアシェンプテルに見せる。
「かなり昔にキュレーター・ダンジョンで発見された、破壊不可能な指輪が、魔女の塔の倉庫で見付かったから、それを細工して作ったんだってさ」
呪印を隠蔽する為の指輪は、派手な戦闘を行うと、壊れてしまう場合があるので、果敢は困っていたのだ。
それを知ったレギーナが、破壊不可能に近い指輪を、作ってくれたのである。
「他にもアロー・ペンの改良版とか、色々と魔術道具を、持って来てくれたんだ」
魔術道具を果敢に届けるだけなら、幾らでも方法があるのだが、わざわざ多忙なレギーナが、自ら果敢の元に届ける理由は、アシェンプテルと同じである。
ついでに呪印のチェックなども行うが、レギーナも果敢に会いに来ているのだ。
レギーナが果敢に会う為、わざわざキュレーター島を訪れている事くらい、アシェンプテルには分かる。
自分も同じような事を、しているので。
「そろそろ行かないと、飛行機に間に合わなくなるから」
名残惜し気な表情で、果敢に顔を寄せると、唇の感触を記憶に刻み付けるかのように、アシェンプテルは唇を重ねる。
しばらくは会えなくなるので、アシェンプテルの別れ際のキスは、何時も長く……情熱的だ。
(何時もより、ちょっと激しい気がするな)
アシェンプテルの為すがままになりつつ、果敢は心の中で呟く。
実際、今回のキスは、果敢が感じた通りであった。
ようやく唇を離したアシェンプテルに、果敢は訊ねる。
「何か……何時もより、激しくない?」
「上書きしておきたいからね」
「え?」
「どうせしてるんでしょ、レギーナとも?」
答は分かり切っていたので、アシェンプテルは果敢の答を待たず、もう一度……唇を重ねる。
果敢を抱き寄せ、唾液が混ざり合うような、激しいキスを交わす。




