021 厄介事を押し付ける為だけに、来てる訳じゃないんだからね
「ブレーメン政府が問題解決能力を失ってる以上、他の誰かが解決しないと、拙いんだけど……」
アシェンプテルは、言葉を続ける。
「最悪の場合に備えて、特級魔族を倒せそうで、問題を解決出来そうな、今……どこかの国に所属してない人間となると、カカンくらいしかいないのよね」
「ハインリヒやローランドは、軍の任務があるし、他所の国の揉め事まで、今は出しゃばれないか……」
果敢の言葉に、アシェンプテルは頷く。
かっての仲間である、ハインリヒやローランドも、特級魔族を倒し得るが、二人は所属する国家の軍において、要職についている身で、簡単には動けないのだ。
「冒険者でも、人数が多めの上級者パーティなら、何とかなると思うがね?」
この世界には、魔術や聖魔術……武術などに関わる者達の能力を示す、二つの段階制度がある。
十段階のレベルと、四段階の級だ。
レベルは1から10に分かれ、数字が高い方が能力が高い。
レベル1から3までが下級、4から6までが中級、7から9までが上級、レベル10が特級となる。
レベルと級の判定基準は、世界中で共通化されている為、上級者の冒険者であれば、上級の軍人レベルの能力はあると、考えられるのだ。
判定する組織により、ある程度の差異は、存在するのだが。
差異の分かり易い例は、レベル10と特級である。
冒険者にも、レベル10や特級が存在するのだが、冒険者の場合は生きている間は、基本的には認定されない。
過去にキュレーター島で、大災厄と言われている危機が起こった事がある。
多大なる犠牲を払い、何とか大災厄は解決したのだが、解決にあたったレベル10の特級冒険者達は、全滅してしまった。
その事から、レベル10や特級は、キュレーター島に多大な功績を残した冒険者が、死んだ後に与えられる、名誉あるレベルや級となったのだ。
故に、生きている冒険者の中には、レベル10や特級は存在しない。
故に、レベル9の上級冒険者達の中には、軍人におけるレベル10や特級に匹敵する、高い実力を持つ者達がいる。
ただし、そういった冒険者の数は、ごく僅かである。
冒険者がいるのは、キュレーター島だけではないのだが、冒険者の本場といえるキュレーター島の制度は、他の地域の冒険者達にも影響を与える。
現在では、それぞれの地域において、レベル10や特級は、死後に名誉として与えられる存在となっている。
ちなみに、元々は級だけだったのだが、大雑把過ぎるという事で、後からレベルが導入された。
どちらを使うかは、時と場合によるので、一概には言えない。
魔族の場合は、共通化されたレベルは存在せず、五段階の級だけで分れている。
魔界に魔族が閉じ込められた時代には、レベル制度は無かったので、級による段階だけが、共通化されているのだと言われている。
四段階は人族と同じだが、特級の上に神級……魔神が存在するので、五段階となるのだ。
もっとも、神級に達する魔族は、滅多に現れないのだが。
同じ級の場合なら、人族よりも魔族の方が、遥かに強い。
下級の魔族であっても、人族でいえば中級……場合によっては、上級レベルの強さがあると言われている。
特級魔族と上級冒険者、両方を知る果敢は、単独や少人数のパーティでは無理にしても、人数が多い上級者パーティであれば、特級魔族を相手に出来るだろうと、認識していた。
「戦力的には、そうかもしれないけど……潜入調査能力や、魔族に対する知識とか、他にも色々と必要な要素を考慮すると、冒険者には難しいでしょ」
「義勇軍とかで、戦争に参戦してた連中も、結構いるんだけど」
「それでも、強力な魔族を相手にした経験値が、冒険者連中とカカンじゃ違い過ぎるし、パーティとなると目立つから、潜入には向かないよ」
今回の件は、ローゼンハイン侯爵領という貴族領に潜入し、調査と戦闘を行う事になる。
多人数のパーティとなると、目立ってしまうので、そういった潜入自体に向かないのだ。
実は、アシェンプテルが今回の件を、ローランドとハインリヒに頼まなかった理由の一つは、潜入には向いていないからだった。
二人の場合は、人族では最強レベルであっても、果敢程に強くは無いし、出来る事も多くはない。
それ故、二人が特級魔族を相手にするとしたら、パーティのサポートが無いと危険なのだ。
つまり、単身で潜入し、特級魔族を相手に出来る存在となると、ローランドとハインリヒは、アシェンプテルの選択肢から外れるのである。
「パーティを組まなきゃ駄目な時点で、今回の件は冒険者連中には、任せられないんだ」
果敢を見詰めながら、アシェンプテルは訴える。
「それに何より、金で動く冒険者より、私にはカカンの方が、信用出来るからね」
少し恥ずかしかったので、目線を逸らし、果敢は言葉を返す。
「俺だって、今は冒険者の端くれだぜ」
「私にとっては、冒険者じゃなくて……英雄よ」
そう言うと、アシェンプテルは照れた風に頬を染めつつ、果敢に顔を寄せ、軽く口付ける。
唇を離すと、アシェンプテルは恥しそうに、果敢の耳元で囁く。
「厄介事を押し付ける為だけに、来てる訳じゃないんだからね」
この世界は、果敢の世界とは違い、通信手段の進歩が、かなり遅れている。
それでも、頼み事をするだけなら、わざわざアシェンプテル本人がキュレーター島を訪れずとも、他に方法は幾らでもある。
アリアンツ共和国の重要人物であるアシェンプテルは、多忙を極める生活を送っている。
それにも関わらず、僅かな仕事の合間を縫って、アシェンプテルが自ら、果敢の元を訪れるのは、会いたいからなのだ。
果敢にも、その事は分かっていた。
「付き合ってる訳でもないのに、キスとか……拙いでしょ」
恥ずかし気に頬を染めつつ、呟く果敢に、アシェンプテルは言葉を返す。
「付き合ってる訳でもないのに、キスだけじゃなくて、もっと凄い事をしたカカンに、そんな事言う資格……あると思う?」
その話を持ち出されると、果敢としては言い返し難い。
呪いのせいとはいえ、実際にやらかしてしまい、罪悪感を覚えているので。




