その六.兄はカフェにいる?
「え、二人……?」
吹雪は目を見開く。
優雅に紅茶を飲んでいた綾廣も、十真の言葉に首をかしげた。
「ん? 年寄りとかじゃなくて、ブキちゃんみたいな感じの?」
「あぁ。私も一瞬老人かと思った。三日前、仕事を終えた後にあるカフェに行ったのだが、そこで私とすれ違った男が――」
「そ、それ、どこの――?」
やっと兄の手がかりを見つけたかもしれない。
早まる鼓動を抑えつつ、吹雪は白髪の男について十真にたずねようとする。
しかし、その言葉は途中で遮られた。
「小娘!」
「御堂さん……?」
食堂の入り口に時久が立っている。
時久は大股で吹雪達のテーブルに近づいてくると、吹雪に向かってたずねた。
「ちょうど良い所に。この後は暇か?」
「御堂、ブキちゃんは午前休みだぜ? 夕方までゆっくりさせてあげなよー。あ、それともまさかデートのおさそ」
「そんなわけがなかろう。――社長の用事だ、三十分だけあれば良い」
へらへらとした綾廣の言葉を叩き切り、時久は付け加える。
吹雪はじっと彼を見上げた。
「昨日の件、でしょうか?」
「……う、む。そうとも言えるかもしれない」
何故か微妙な表情で時久は視線をそらし、言葉を濁した。
綾廣が目を細め、紅茶を口に付ける。
「昨日のって――ん? もしかして、昨日おやっさんから聞いた案件かな?」
「あぁ。――とりあえず小娘、来られるか?」
「え、と……」
吹雪は一瞬悩み、十真の方を見る。
すると十真は申し訳なさそうな顔で片合掌をし、頭を軽く下げた。
「すまないが、私は今日と明日は仕事なんだ」
「そうですか……」
「だが明後日なら空いている」
がっくりと肩を落としていた吹雪は、その言葉にはっと顔を上げた。
十真は軽く顔を傾け、にこりと笑った。
「もしそのカフェが気になるなら明後日案内しよう」
「あ、ありがとうございます!」
吹雪はパッと顔を明るくして、十真に頭をさげた。
そして、時久に向き直る。
「今、参ります」
* * *
時久に連れられ、吹雪は紅梅社中の会議室に足を踏み入れた。
広い部屋の中央には、ちょうどロの字型になるよう長テーブルが置かれている。テーブルにはすでに夕子とサチが着席していた。
吹雪達の正面には黒板が掛けられ、演台が置かれている。その演台に慶次郎が立ち、ひどく渋い表情で飴を舐めていた。
「社長。連れてきた……なんだその顔は」
「うちの長女がよこした珈琲飴がクソ苦ぇんだよ」
「嫌がらせだろう。いい加減学習したらどうだ」
「うるせぇな。ここで負けてたまるか――とりあえず好きなとこに座ってくれ」
渋い表情をしたまま慶次郎がテーブルを示す。
無言の時久に促されるまま、吹雪は恐る恐るサチの隣の席に座った。




