6 勤務二日目: 業務上の特記事項なし
翌朝、遺跡の廊下でフォリスを見かけたが、ひどく疲れているように見えた。
ピチピチという表現がふさわしいほどにつややかで、あふれるように色香が漂っていたのに。こんな短期間でやつれて見えるほどに過酷な仕事を押しつけられ、こき使われているのだろうか。
フレデリカは自分が魔法使いであることを隠しておいてよかったと思った。いい部屋を与えられ、いいものを食べさせてもらっても、あんなエリート志向の強い魔法使いと比較され、無理を強いられるのは性に合わない。
フレデリカはこの日も魔法陣の書き写しに励んだ。フレデリカの書いた魔法陣に感心していた魔法使い見習いに自分の書いた魔法陣を見て欲しいと頼まれ、おかしな部分を指摘すると、わたしもわたしもと何人かからチェックを頼まれた。うちの一人は教科書以外の魔法陣を書いたのは今回の調査が初めてだと言っていた。帝国も人手不足らしい。
フレデリカに対して好意的な者ばかりではない。目に見えてわかるようにツンケンする者、ねちりとした嫌みを言う者もいたが、実害を加えてこない限りは無視した。どうせあと二日で自分は元の街に戻り、この魔法使い見習い達もまた遠い帝国に戻るのだから。
日替わりの魔法陣はその日も変わっていた。フレデリカにとっては予想通りの変わり方だったが、丁寧に見たままを書き写し、提出した。その仕事が終わったら次は収集品に魔法陣がないかチェックを頼まれた。壺の裏に魔法陣を見つけて書き写していると、突然魔法の波動を感じた。周りは気付いていない人の方が多かった。威力の強い、攻撃魔法のように感じたが、そう遠くないところで紛争でも起きているのだろうか。心配になった。
仕事を終え遺跡から出ると、夕暮れを前に龍が群れをなして飛んでいるのが見えた。その中の数匹が隊列を離れてこの遺跡に降り立ち、他の龍達はそのままどこかに向かって飛んでいった。
降りてきた龍に乗っていたのは、エデルワース侯爵と執事、護衛、それに魔法使いだ。この十日間の遺跡調査はただの調査だけではないのかもしれない。帝国の侯爵自ら龍まで連れて来ているのだ。その裏に別の狙いがあってもおかしくはないだろう。
戦が始まらなければいいけれど。
できるだけ帝国とは関わり合いになりたくなかった。せめて雇い主がどこの国の人間かくらいは調べておくべきだった、とフレデリカは自分のつめの甘さを反省した。このまま無事に帰らせてもらえるのだろうか。
フレデリカは自分の推測が外れていることを祈りつつ、何も気がついていないふりを続けながら今日もしっかりと夕食をとった。




