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5 勤務初日: 成果あり(チームに対し)

 フォリスは魔法使い達と共に魔法陣を解析することになり、フレデリカは当初の予定通り遺跡の中の魔法陣を書き写す仕事が割り当てられた。

 魔法陣は大小様々、壁だけでなく床や天井、発見された魔道具にもある。道具や壁の装飾に紛れた魔法陣を見つけるのも仕事のうちだ。



 魔法陣を探して書き写す仕事は魔法使いの見習い達が担当していた。手書きの者あり、魔法で書き写す者あり、模写という意味ではそれなりにできてはいるが、魔法としての理解度はあまり深くない。それでも優秀な魔法使いはこの図を見れば解析できるのだから、さすが帝国の魔法使いだ。


 書き写し担当が最も手こずっていたのは、ある部屋の床に書かれた魔法陣だった。朽ちた敷物の下から見つかった魔法陣は床一面に書かれていて、魔法で書き写すにも丸ごと書き写せるような大きな紙も皮もなく、縮小すると解析できなくなるほど細かな線が所々に描かれていた。

 見習い達は手分けして部分を書き写してみたが、つないでも円にならず、解析できないと言われたそうだ。写した者の技量不足だと非難され、今日を含めてあと三日のうちになんとかしなければ罰を受ける。中には破門をほのめかされている者もいて、うろたえ、おびえながら書き取る方法を探していた。


 魔法陣を書き写すのに正面からきちんと見ていないせいで全体のバランスがとれていないのではないだろうか。

 フレデリカはその部屋に天窓があるのを見つけ、屋根に上って窓から魔法陣全体を見下ろした。ここからならきれいに魔法陣全体が見える。魔法陣を描くために作られた窓かもしれない。

 部屋の中から見上げていた一人に、

「できそう?」

と聞かれ、頷くと、

「じゃ、頼んだよ」

と、部屋にいた者達は一斉にこの魔法陣から手を引き、フレデリカ一人が担当になった。みんな罰が怖いのだ。


 任せてもらえるなら、一人の方が好き勝…いや自由にできる。

 大きめの紙をもらい、フレデリカは屋根の上でうつ伏せになって黙々とその魔法陣を書き写した。自作のペン先を何度も削りながら極細の線も逃さないよう書き込んでいく。

 途中何度か水分を補給した。おやつが欲しいところだが、下に降りるのが面倒なので我慢した。

 頭上を影が通り過ぎ、見上げると龍が飛んでいた。フレデリカ達をここまで運んできた侯爵家の龍達だ。見回りなら一、二頭だろうが、結構な数がいる。何か事件があったのかもしれない。


 時間はかかったが、なんとか日が暮れる前に全体を書き写すことができた。

 初見でこれが床を暖めるための魔法陣だとわかったが、丁寧に書き写すことでその中に紛れ込ませている秘密の機能を見破ることができた。これを書いた魔法使いは凄腕の持ち主だ。

 やはり魔法陣は実物を見なければ。この仕事を引き受けてよかった。

 フレデリカはにやつきながら自分が書き写した魔法陣をじっくりと眺めた。提出するのが惜しくなったが、これは仕事だ。ちょっともったいなく思ったが、書庫代わりにしているブレスレットにその図の複製をしまい込んだ。



 部屋にいた魔法使い見習いの男に書き写した魔法陣を渡すと、気になっていたのかこの部屋の担当だった見習いの魔法使い達が寄ってきて、フレデリカが書き写した魔法陣を取り囲んだ。無事書けたことを喜ぶ者もいれば怪しんでいる者もいて、

「本当にちゃんと書けているのか?」

と疑いながら床の線を追ったが、どの部分を見ても忠実に書き写せている。しかもできあがったものは実に美しい。この部屋のオリジナル以上に見栄えのいい魔法陣に見えた。


 丁度終業時間になり、解散になった。

 誰もいなくなった部屋で、フレデリカはもう一度床の魔法陣を見た。足下の魔法陣を上から見た図を思い出しながらたどると、思った通り何カ所か欠けていた。

 足首に着けている魔道具のアンクレットの魔力封じを少し緩めて、欠損していた部分を書き足すと、魔法陣は一瞬青い光を放って浮かび上がった。リセットがかかったようだ。

 すぐに元の床の色になり、その力を伏せながらも発揮できる時を待っている。

 遺跡の中は息が響きそうなほど静かだった。

 夕食のことを思い出し、フレデリカはアンクレットの魔力封じを元に戻し、急いで食堂に向かった。


 その日の夕食は戻ってきた護衛達と同じ時間になり、混み合う食堂で列に並んでいるうちに目の前でおかずがみるみるうちになくなっていった。何とか確保はしたが、食べたかったものの半分は手に入らなかった。明日はもう少し早めに切り上げなければ。




 魔法陣を書き写すチームのリーダーをしている若い魔法使いは、いつものようにその日書けた魔法陣を集めて解析担当の魔法使いに提出した。

「残り三日では無理かと諦めていたが、…実によく書けているな。よくやった」

「ありがとうございます」

 あの床の魔法陣を見て、気難しく愚痴の多い年長の魔法使いが珍しく褒めた。自分の手柄ではないので褒められたところでさほど嬉しくはなかったが、あえて喜んで見せた。

 臨時雇いで魔法使いでもなさそうな奴が一人で書いたとなれば、才能を見込まれて自分達が追いやられる可能性もある。このままチームの成果となれば充分だ。

 誰が書いたかとも聞かれなかったこともあり、フレデリカの名が伝えられることはなかった。




 その日も早々とテントに戻ったフレデリカは、特にすることもなかったので早めに眠った。

 夜中に龍が降り立つ音がした。見回りから戻ってきたのだろうか。暗闇の中の飛行は危険そうだが、龍は夜目が利く。人も闇の中でも周囲を感知できる魔道具でもあれば何とかなるのだろうが、便利な道具は人にも龍にも無理を強いる元になる。

 夜は寝るに限る。

 フレデリカは目を閉じると、数分後には再び眠りに落ちていた。


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