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4 課題: 魔法または手書きで魔法陣を写すこと

 朝、雑魚寝のテントにフォリスはいなかった。魔法使いには食事を取る場所だけでなくテントも別にあてがわれているのだろう。

 朝食を終えると呼び出しがあり、言われた場所に行くと既にフォリスと魔法使いらしき調査員数人が集まっていた。この先は別行動になると思っていたのだが、一緒に説明を受けるようだ。


 昨日フレデリカ達の採用を決めた執事らしき男が先導し、魔法使いや調査員と共に遺跡の中に入った。

 石造りの遺跡は部分的に崩れているところもあり、邪魔な石は隅に並べられ、崩壊しそうな所には注意書きがあった。場所によっては水がしたたり苔むしているが総じて状態はよく、壁には花や蔦を模したような模様が見られ、あちこちに水晶でできた飾りが埋め込まれている。経年で色あせ、わずかに濃淡が残っているだけだが、かつてはさぞきらびやかだったに違いない。


 模様に紛れて小さな魔法陣が書き込まれていることがあり、そこに仕掛けに合った魔法を流すと壁がなくなり、通路が現れた。よくある魔法仕掛けの隠し通路だ。

 かつては鍵となる魔法石で開いていたはずだが、魔法石がなくても解読した魔法を小さな魔法陣に流せば鍵代わりになる。隠し通路の先には貴金属や古代の金貨、魔道具などのお宝が見つかることがあるが、既に過去に解読され、室内は荒らされて、金目になる物だけが持ち去られている部屋も多いらしい。


 今回の遺跡調査も例に漏れず「お宝探し」で、調査隊が作った遺跡の地図には見つかった通路や部屋が書き込まれていたが、空白の部分はまだまだあった。

 見つかった魔法陣は書き写された後、担当の魔法使い達が解析する。これまでの調査である程度開き方はわかっているが、定番の方法ですんなりと開いた場所には珍しい物は残っていないことが多い。



 執事の話によると、つい数日前に、少し難解な魔法陣を解くことができ、魔法使いは嬉々として隠し通路を開いて見せたが、その中には魔物が住み着き瘴気がたまっていた。魔法陣を解いた魔法使いは瘴気を吸って倒れ、魔物が放たれた。魔物は倒されたが四名の負傷者が出て、うち二人が魔法使いだった。


 開いた通路を抜けると広い部屋があったが、置かれている物は少なく、お宝と呼べそうなものはなかった。しかしその正面の壁には見上げる位置に魔法陣があった。

 あんな高い位置にある魔法陣は珍しく、しかも見せつけるかのように光り輝いている。大きな扉が隠されているのか、はたまた大がかりな仕掛けがあるのか、調査隊員達は様々な憶測を沸き立たせていた。


 侯爵の意向もあり、優先してその魔法陣を解くことになったが、どういうわけか書き写した魔法陣はいつの間にか変化していた。

 優秀な魔法使いが負傷し、代わりに見習いに書き写させたが、きちんと写せなかったのではないかと疑われ、翌日は魔法陣の解析に長けた者が写し取ったが、その翌日になるとまた魔法陣は変化していて、前日とも、前々日とも違っていた。


 こんな特殊な魔法陣を仕組んでいると言うことは、よほど大切な物が隠されているに違いない。魔法陣を定期的に書き取り、いつ、何が変わっているのかを分析して解く方法を見いださなければいけないが、魔法使いが負傷したために手が足りない。遺跡の調査期間は限られており、ここだけを調査する訳にはいかず、人手不足を解消するために魔法使いを探し、見習い程度でもいいので魔法陣を書ける者を急遽雇うことになった、という訳だ。



 同行していた貫禄ある大柄の魔法使いサイラスが壁の魔法陣に向かって右手を広げ、少々長めの呪文を唱えると、壁が動き、通路が現れた。

 フレデリカはその魔法陣をじっと見ていたが、

「おい、黒いの、離れるな」

と先に進む執事に急かされ、まだ解読途中ながら諦めて中に入った。


 魔物のいた通路には少しではあるがまだ壁に瘴気が残っていた。そこを抜けると広間があった。

 天井や壁には装飾用の水晶に混ざって光の魔石が埋め込まれていて、魔力を通すとほんのりと部屋が明るくなり、それと同時に正面の壁の右上に緑色の光を放つ魔法陣らしき模様が浮かび上がった。


「これが昨日書き写したものだ」

 執事は紙をサイラスに渡し、サイラスはそれを広げて見せた。そこに書かれた魔法陣と目の前の魔法陣は左上は同じだが、その他は大きく違っていた。

「こっちは一昨日」

 二日前のものはまるで違っていて、共通する部分がない。


「本当ね。いつ書き換わるのかしら」

 フォリスが魔法陣の線をたどるように宙を指でなぞった。魔法の痕跡が光となって宙に浮かび、数秒後に火の粉が散るように砕けて消えていった。

「誰も変わるところを見た者はおらん。そもそも魔法陣が書き換わるなど聞いたことがない。他の魔法陣とは異なる機能が付与されているとも考えられる。こうして定期的に変更することで容易には開けられないようにしているのか…」

 執事とフォリス、魔法使い達はここ数日描かれた魔法陣の図を見ながら話し込んでいたが、フレデリカはそれには参加せず、壁に書かれた本物をじっと見ていた。


 フォリスは魔法陣の一部を何度か宙に描き、消えていく光の反応を見ながらつぶやいた。

「フォルクラード系の魔法陣のようだけど…」

「よく勉強されてますな。この遺跡の他の魔法陣もフォルクラード系で解析できましたので、恐らく間違いないかと」

 フォリスは老齢の上位魔法使いオウルに褒められて、かしこまりながらも誇らしげな笑みを見せた。


「では、二人にはあの魔法陣を書き写してもらおう」

 執事の要望に、まずフォリスが紙を受け取った。

「承知しました」

 腰に差していた短い棒を取り出し、自分のサインを空に描くと、木の棒は魔杖に変わった。

 魔法を起動する言葉を重ね、壁のいにしえの魔法の名残をたどり、光を受けて影を放つ段取りを指示、魔杖で照準を合わせて強くその先を向けると、魔法の塊が広がって光を放ち、その影を紙の上に写し取った。 

 壁面の魔法陣が自身の魔力の影響を受けないよううまく調整されている。一緒にいた魔法使い達も細やかな魔法操作に感心していた。


「次は()()()だ」

 執事に促され、フレデリカは紙と木の板を受け取って地面に置き、携帯用のペンを取り出した。

「手で書くのか?」

 魔法使いに問われはしたが、見てわかることなので小さな頷きを答えにした。

 じっと魔法陣を見て、その後一気に動かした手は線の切れ目まで一気に書き上げ、図の曲がり具合も目の前の魔法陣そのままだった。歪みがちなつなぎ目もきれいに収まり、最後まで書けばきちんと美しい円形におさまっている。


 できあがった写しを見て驚きに目を丸くしている魔法使いに、執事はにやりと笑って見せた。

「なかなかの拾いものだろう?」

「…ここまで描けるとは、…」

 オウルはフレデリカの描いた魔法陣を細部まで確認し、ほうっと感心の息を漏らしたが、フォリスが魔法で写し取った魔法陣と並べて比べると、

「しかし、やはり魔法の再現度にはかないませんな」

と結論づけた。その評価にフォリスは満足そうだった。


 その後、この遺跡で写し取った他の魔法陣をいくつか見せられ、フォリスは自分の解釈を述べ、魔法使いも各自の見解を伝えて議論していたが、フレデリカは魔法使い達の会話に参加することはなく、ふらふらと室内を歩き回って他に魔法陣や魔法仕掛けのものがないか探していた。

 選ばれた魔法使いである自分達とは違う。そう思っている者達は、そんなフレデリカを咎めることはなかった。


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