3 雇い主: 帝国関係者
案内された大きなテントの中には遺跡から出てきた様々な遺物が置かれていた。その中の一つを手に取って確認している男に、雇い主が声をかけた。
「閣下、代わりの魔法使いです」
「…ああ、ご苦労だった」
真の雇い主はこっちらしい。ここまで連れてきた男は雇い主の執事か何かだろうか。
年は連れてきた男とそう変わらないくらいに見えたが、少々肉付きがよくつやつやしている。いい物を食べているのだろう。作業着のようなラフな服を着ていても他の人達が着ているものとは一目でわかるほど質が違う。おじさまが好みそうなスパイシーな香水に混じってかすかに嗅ぎ覚えのある甘ったるい匂いがして、どちらの香りもフレデリカの好みではなかったが我慢した。
「こちらはロジャー・エデルワース侯爵閣下だ」
真雇い主は手にしていた物を置いて歩み寄ってきたが、笑顔で向ける視線は一点に集中していた。この男もまた新参の魔法使いの女性が気に入ったようだ。
「ジキータで魔法使いをしております、フォリスと申します。このたびは遺跡調査のご依頼をいただきありがとうございます。誠心誠意務めさせていただきます」
フォリスと名乗った魔法使いは、よく貴族の依頼を受けているのだろう。挨拶は手慣れていた。
侯爵は小さく頷き、魔法使いへの笑顔を絶やさない。
「遺跡の調査は私の趣味だが、帝国人にはなかなか許可が下りなくてね。ようやく実現したのだが、調査期間は十日間と限られ、あと残すところ三日しかない。難物の魔法陣もあって手こずっている。短期間ではあるが是非君の力を発揮してもらいたい」
フォリスは自信に満ちた目で
「望むところです」
と答えた。
君達、ではなく、君の力ときた。フレデリカは挨拶も求められず、終始蚊帳の外。そもそも平民が侯爵閣下と対面することさえあり得ない話で、自分がここにいる必要はないのではないかと思ったが、下手な振る舞いで機嫌を損ね、周りに何もないこの遺跡に取り残されても困るので、ここは空気になっているのが賢明だろう。
貴族への対応は、出しゃばらず、求められたことだけをしておく。これに限る。
エデルワース侯爵はフォリスをディナーに誘い、彼女は嬉しそうに差し出された腕を取り、別のテントへと移動していった。もちろんフレデリカには声はかからなかった。執事らしき男も二人の後を追ったが、来いとは言われなかったのでフレデリカは後を追わなかった。
フレデリカが遅れてテントから出ると外にハウウェルが待っていて、フレデリカの荷物を渡し、滞在用のテントまで連れて行ってくれた。侯爵ご一行について行かなかったのは正解だったらしい。
女性専用の宿泊用のテントがあり、遺跡の調査員も数人いたが、大半は食事作りなど身の回りの世話をする下働きの女性だった。仕切りもなく、適当に空いてる場所に雑魚寝するスタイルだ。
夕食に呼ばれて行くと、大皿に山盛りに盛られた数種類のおかずを好きなだけ取る方式だった。どの皿もたっぷり盛られていて、よりどりみどりだ。
「男達が戻ると食べるものがなくなるからね。早めに食っちまいな」
食べている途中で、終業時間になったのか徐々に人が増えてきた。遺跡の調査員、護衛、人夫、下働きの者も混ざって食事を取るが、侯爵やその直属の家令、それに何人か見かけた魔法使い達は姿を見せなかった。身分に沿って別に食事を取る場所があるのだろう。侯爵は帝国人と言っていたが、帝国では魔法使いの地位が高いようだ。
みるみるうちにおかずはなくなっていき、遅れてきた人は追加ができあがるのを待っていた。おかわりも早々に品切れになってしまったものもある。これは早めに食事を取るようにしなければ。
フレデリカは久々の温かい食事をおなかいっぱいになるまで食べた。移動の疲れもあって、その日は人が騒いでいるテントの隅っこであっという間に眠りについていた。




