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2 勤務条件: 魔法使い > 魔法陣書き写し係

 自分の荷物をまとめて再びギルドに戻ったが、とんでもないことになっていた。

 ギルド横の広場に龍がいる。それも七頭も。

 雇い主用の他、その警備をする人用、さらに荷物運搬用も含め七頭もの龍を所有できるとなるとかなりの大物だ。

 雇い主の前にいるのは黒龍だ。他の龍より一回り大きく、見るからに気位が高そうだ。装具も金を使っていて、特別な一頭なのは間違いない。

 生きている黒龍など滅多に拝めない。鱗の一枚でも落としてくれたらありがたいのだが、落としたところで持ち帰ることは許されないだろう。


 フレデリカの他にもう1人、魔法使いらしき若い女性がいた。二十歳を少し過ぎた頃か、黒いローブを着ていても体のメリハリがわかるナイスバディ。フードを外し、少し赤みのある長い髪が凝った三つ編みでまとめられている。遠目に見ても魔力を感じるくらいの力を持っているようだ。

 この魔法使いもまた、この光景に度肝を抜かれていた。

 移動は手配すると言われていた。ということは、…


「あなたはわたしが。そこのおまえは彼が乗せる」

 「あなた」は魔法使い、「おまえ」はフレデリカのことだ。

 呼びかけも乗せる相手も明らかに差のある待遇に魔法使いは機嫌良くし、用意されていた踏み台に足をかけ、微笑みを返して男の手を取り龍に乗った。


 フレデリカに若い騎士が手を胸に当て、礼をしてきた。

「私の名はハウウェル。遺跡まで私がお連れする」

 礼儀正しくはあったが、愛想も見せない。薄汚れた庶民を自分の龍に乗せることに反感がありそうだが、上司の命令には逆らえないといったところか。


 荷物を預けると、貸してくれたゴーグルを着け、勧められたとおり三角に折ったハンカチを頭の後ろで結び口元を覆った。

 乗る前にハウウェルの緑龍に

「よろしくね」

と挨拶したが、こちらもケッというような反応をした。主人とは一心同体のようだ。

 もちろん踏み台など用意されておらず、先に乗っていたハウウェルに手を引かれて龍にまたがった。



 初めての龍の旅は、慣れるまでが大変だった。

 ハウウェルの前に乗り、安全用のひもを腰にくくりつけ、鞍に持ち手があったのでそれをぎゅっと握ると、声がけもなく突然龍は飛び立った。背後にぴったりとついている男にも慣れなかったが、それ以上に体験したことのない浮遊感と風圧は酔いを誘う。翼を動かすたびに揺れて、時々急降下などもするものだから、フレデリカは心の奥でずっと悲鳴を上げっぱなしだった。

 しかし上空の風に乗ると空の旅はなかなかに快適で、周りを見る余裕も出てきた。龍に驚いた鳥が逃げ、眼下には爪ほどの大きさの家がぽつりぽつりと見える。道を走る馬車がおもちゃのようだ。


 一時間ほど飛ぶと休憩。龍が休憩できる場所は限られている。

 一度目の休憩は比較的大きな街で、そろそろ昼食が出るかと期待していたが、ご一行様はフレデリカが準備のため家に帰った間に昼食を済ませたらしい。この先の食生活も当てにしていいか怪しいので、念のため干した果物や肉、日持ちしそうなビスケットにリンゴを買ったが、食べる前に出発になった。



 二度目の休憩では砂漠の中のオアシスのような場所に降り立った。

 怖がらなくなったフレデリカにハウウェルも龍もつまらなそうにしていた。一回目の休憩で買ったりんごを龍にあげたが一口で終わり、食べ足りないのか不満げな顔をされた。せっかく自分の分を譲ってあげたのにかわいげがない。まあリンゴ一個で懐柔できるような怪獣ではないか。


 雇い主は木陰で組み立て式の椅子に座ってくつろいでいるが、その席に呼ばれたのは魔法使いだけだった。机の上にはおやつとお茶が用意され、二人で仲良く食べている。優雅な貴族のティータイムだ。


 雇い主と魔法使いは並んでいても様になっている。フレデリカを採用する時にも確認を怠らなかった男だ、色香に負けたのでなければ、魔法使いはそれなりの実力者に違いない。魔法関連の仕事はあの魔法使いに任せておき、自分は言われたとおりに魔法陣を書き写し、賃金をもらえればいいのだ。


 おなかがすいていたフレデリカは水場に行って水筒に水を補給し、さっき買った固いビスケットを食べた。

 近くをうろついていると、砂トカゲが目の前を走り抜けた、追いかけて手を伸ばしたが本体は砂の中に隠れてしまったものの、地上に残された尻尾をゲットできた。オアシスの近くで育つというサドクキノコモドキも砂の中から三つ掘り出せた。まだありそうだったが出発の時間になった。帰りもここに立ち寄るかもしれない。フレデリカは水場からのルートを頭に入れておいた。



 三回目の飛行から降り立ったのは、石造りの大きな遺跡の近くだった。その前に大小のテントがいくつも並んでいる。ここが今回の勤務地のようだ。


 降り立った龍を地上の隊員達が待ち構えていた。雇い主と魔法使いの龍のそばには即座に踏み台が用意され、二人は龍から降りると龍は隊員に任せ、テントのある方に歩いて行く。VIPは待遇が違う。

 まだ龍にまたがっていたフレデリカだったが、雇い主に

「そこの黒いの、おまえも来い」

と声をかけられた。「黒いの」は黒髪のフレデリカのことらしい。不愉快な呼び名だが、見渡したところ黒髪の人は見当たらず、珍しいのだろう。契約書に名前を書いたが、下っ端の名前などいちいち覚えてはいないようだ。

 むっとしながらも龍から降りようとすると、ハウウェルに脇をつかんで持ち上げられ、そのままそばにいた隊員に引き渡された。子供のような扱いに むっ が むむむっ と積み重なったが、雇い主を待たせる訳にはいかない。

「乗せてくれてありがとう」

 フレデリカはハウウェルと龍に礼を言い、駆け足で二人の後を追った。


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