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11 報酬: (…なし?)

 翌朝、フレデリカが目を覚ますとテントにルシアンはいなかった。

 寝ている間に首に何かがつけられていて、触った感じでは金属製の輪のようだった。

 魔力を制御する機能に、主人への従順の魔法、いずれも従わなければ雷魔法の罰付き。それに追跡魔法もついている。魔犬でも飼育するための首輪だろうか。フレデリカの魔力を知り、手放すのが惜しくなったとみえる。普通に帰してもらえると期待したのは甘かった。


 フレデリカは首輪をつけたままにして、着替える服を探した。貴族のご令嬢が着るようなビラビラしたドレスが用意されてはいたが、どう見ても動きにくそうだし、一人では脱ぎ着できそうになく、部屋にいた侍女に頼んで侍女に支給されているお仕着せの黒いワンピースを持ってきてもらった。黒髪のフレデリカが黒い服を着れば典型的な「魔女」だが、それもやむを得ない。


 食事は部屋に用意すると言われたが断り、食堂に行くと言えば止められなかった。自由に動いていいということは、この首輪の追跡魔法は信頼度が高いようだ。

 部屋を出る時に置きっぱなしにされていた小さな魔道具をこっそり拝借した。火を付けるのに使う道具のようだが、何かの時に使えそうだ。



 今日も食堂は賑やかだ。昨日の件でフレデリカを警戒する人達を気にも留めず、事情を知らずいつも通りに接してくれる人達とは普通に挨拶を交わし、別れの挨拶もしたが少し変な顔をされた。


 宿泊用のテントの中に置いてあった自分の荷物はなくなっていた。中身はお金は入っているが少額で、まだ食べていない干し肉、着替えなど、なければないで何とかなるものばかりだ。管理責任として今着ている服をもらっておくことにした。


 途中でフォリスに会ったが、昨日と比べるとずいぶん元気になっていた。あの場所であれだけの騒ぎがあったのにずっと眠っていたのだ。回復に全振りしていたのだろう。

「あなた…、その首輪!」

 さすが魔法使い、すぐに魔道具と見抜いて驚いている。

「何か起きたら付けられちゃってたんですけど…。あ、お給金、出ました?」

「ええ。向こうのテントでもらえるわ」

 既に給金を受け取ったフォリスはほくほくの笑顔だ。あんなことがあったので、かなり上積みされていたに違いない


「フォリスさん、帝国に行くんですか?」

「ここに来る時に誘われてたんだけど、やめたわ。ちょっと褒められて、甘い言葉に調子に乗ってしまって、色仕掛けにまで引っかかるなんて。私もまだまだね」

 どうやら侯爵への偽の陶酔はすっかり冷めてしまったようだ。

「あの侯爵様、今まで奥様が十四人もいて、全員結婚して一年以内にお亡くなりになってるらしいわ。十五番目にならなくて済んだのはあなたのおかげね」

 フォリスはあんな目に遭ったのに恨むでもなく、あっさりしたものだ。


「とっとと帰りましょうか。私もお給金もらってきます」

 フレデリカがそう言うと、フォリスは首をひねった。

「…あなたは一緒に戻らないって、聞いたんだけど」

「誰に?」

「龍騎士のハウウェルさん。もうすぐ出発するって言われて…」


 いつの間にか自分のこれからが勝手に決められている。フレデリカは嫌な予感がした。

「私も帰りますから、待っててください。置いてかないでくださいね!」

 念押しすると、フレデリカは急いで給金を取りに行った。



「フレデリカさん…、フ、フ、…、…あ、あり、……あり、ま、せんね」

 担当者は名簿を指で追い、ピタリと指を止めながら「ない」と答えた。

「…本当に、ないですか?」

 笑わない目で詰め寄ってくるフレデリカに、担当者は思わず目をそらせ、

「ない、…と、いうことに、なって、ます」

と答えた。嘘だと丸わかりだ。

「三日分、一日も?」

「あー、……あ、賃金の支払いは保留で、そのまま待機するようにと、メモが…」

「働いた金を渡す気がない、と。…ふうん? そう」

 近くの龍車の荷台から何かがはじけるような音がした。支払い担当がそれに気をそがれたすきに、フレデリカはその場を離れた。



 フレデリカが龍が集まっている場所に行くと、ハウウェルがフォリスの腕を引き、龍に乗せようとしていた。フォリスは何度も振り返り、出発を引き延ばそうとしていたが、フレデリカが近づいてきたのを見て安堵の笑みを見せた。


 ハウウェルの龍をはじめ、龍達は皆フレデリカがまとう怒りを感じ、身をすくめた。飛び立つ準備をしていた龍も羽を折って地面に足をつけている。ハウウェルが慌ててフォリスを無理矢理引き上げ、飛び立とうとしたが、龍はかたくなに拒否した。

「よくわかってるわね。お利口さん」

 フレデリカはハウウェルの龍に近づき、頬をなでた。龍はその手を受け入れてはいたが、甘えるというよりおびえているように見えた。行きはあんなにフレデリカのことを馬鹿にしていたのに。


「『帝国の名にかけて』、送ってくれるんじゃなかったの? 帝国の名なんてそんな軽いもの?」

 龍にまたがっていたハウウェルは小さくため息をついた。

「おまえの帝国行きは、陛下のご意向だ」

「陛下?」

 フレデリカは右の拳を強く握った。少しうつむいたフレデリカに、ようやく諦めたかとハウウェルがほっとしたのもつかの間、

「…そう。元凶は陛下って事…」


 フレデリカが右手を広げて天に向けると、掌から青い炎が高々と燃え上がった。炎と同時に人には聞こえない星落としの音を耳にした龍達は、昨日のように星が落ちてくると思い遺跡を見たが、遺跡には守護の魔法は発動していない。慌てた龍達はくくりかけの荷物も乗っている人も振り払って一斉に空に飛び上がった。


 制御できなくなった龍をどうすることもできない。

 金の輪を首につけられながら魔法を放ち、龍を混乱させたフレデリカに、龍騎士達は恐怖を感じた。

 あの輪は帝国の騎士ならば知らない者はいない。強大な魔力を持つ犯罪者に使われる拘束の魔道具だ。魔法を封じ、無理に魔法を発しようとすれば雷をまとった茨が体に巻き付き、身動きがとれなくなる代物だ。実際に拘束魔法が発動するところを何度も見てきたが、破れた者はいなかった。それなのに目の前の魔法使いは平気な顔で魔法を放ち、何の拘束も受けていない。そんなことはありえないはずなのに…。


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