絶対拒絶の試験案内
「——頼む、デリカ。今回ばかりは、受けてはもらえないだろうか」
ギルド本部のVIP室。いつもならデリカたちに「特選依頼リスト」を差し出すだけのギルドマスターが、今日は見たこともないほど重々しい顔で、1枚の豪奢な羊皮紙をテーブルに置いた。
そこには金箔で『国家最高戦力認定:SSS級昇格試験案内』と記されている。
先日見つかった前代未聞の『魔力溜まり』。正体不明の脅威を前に、ギルドも王宮も焦っていた。島民5万人の命を守るため、唯一のSS級であるデリカを正式な国家直轄のSSS級へと引き上げ、強固な防衛体制のシンボルにしたい——。それは、組織としての極めて真剣で、切実な防衛のロジックだった。
だが、ソファに深く腰掛け、今にも瞼が閉じそうなデリカの反応は冷淡そのものだった。
「……やだ。だるい。試験とか、長そうだし、お腹空く」
「試験内容は、SS+級ダンジョンのボスから魔石を自力で持ち帰るだけだ! 君たちが毎日6時間、なんなら3時間でやっていることだろう!」
ギルドマスターが身を乗り出して叫ぶ。実績としてはとっくにSSS級を超えているのだ。しかし、その横で高級回復薬を優雅にストローで吸っていた11歳のジレンが、冷徹な正論の盾を構えて割り込んだ。
「ギルドマスター、言葉が足りません。規約第12条。SSS級に昇格した戦士は、『年1回の国王との謁見、およびそれに伴う王宮の長期警備依頼』の義務が発生します。これが兄にとって、最も『だるい』のですよ」
「そ、それは形式的なもので、美味しい食事も出るし、名誉なこと——」
「非合理的です」
ジレンのトーンが一段下がる。
「王宮の長い話を聞き、窮屈な礼服を着てじっと待機する時間は、兄にとってただの睡眠不足と脳のオーバーヒートを招く拷問です。その長い拘束時間があるなら、SS+級ダンジョンを2箇所回って20万ガリルと魔石を稼ぎ、余った18時間を睡眠に充てる方が、僕たちのライフサイクルにおいて圧倒的にスマートです」
「しかし国が、島が危機なのだぞ!?」
必死に食い下がるギルドマスター。だが、スルーの決定打を放ったのは、半分寝ぼけたデリカ本人だった。
「……王様の話……長い。前に、街の広場で演説してたとき……あくび30回した。あいつ、話の着地点が見えてない。非効率的。……寝る」
「着地点を気にして王様の話を聞くな!!」
ギルドマスターの悲痛なツッコミが響くが、デリカはすでに「すー……すー……」と無防備な寝息を立て始めている。本人は至って真剣に「時間の無駄(非合理的)」を指摘しただけなのだが、国家の最高権威を『話が長いからスルー』という、およそ華麗とは言い難い泥臭い理由でシャットアウトした瞬間だった。
ジレンは溜息を一つ吐き、案内書をギルドマスターの手元へスッと押し戻した。
「本人がこう言っていますので、今回の昇格も見送らせていただきます。さあ、兄さん、起きてください。今日のSS+級のタイマーが始まりますよ」
「……んあ。行く。走る」
ジレンに小脇に抱えられ、寝起きのままよろよろとVIP室を出ていく島最強の戦士。
廊下で待機していたミミは、プロとしての凛とした佇まいを保ったまま、呆れた顔でその様子を見送っていた。
「相変わらず容赦なくスルーするわね……。まぁ、国に縛られてあのだらくさコンビのフットワークが重くなるくらいなら、SS級の枠に居座ってもらった方が、仕事の取り合い(ゲーム)ができて私としても退屈しないけれど」
「おいおい、王様を『話の着地点が見えない』で一蹴する奴があるかよ」
隣で苦笑していたC級のベテラン冒険者ガイが、やれやれと頭を掻く。
国やギルドの真剣な思惑、ミミやガイの複雑な視線。それらすべてを「だるい、眠い」という本能と徹底した合理主義で華麗(?)にスルーし、最強の2人は今日も、18時間の極上の二度寝を守るためにダンジョンへと爆走していくのだった。




