交わらない光と影の結末
数ヶ月後。
テレビのニュース番組が、ある奇跡の復活劇を特集していた。
「倒産した巨大プロジェクト『ミライエ』。残されたテナントと下請け企業が独自に資金を集め、施設を丸ごと買い取るという前代未聞の偉業を成し遂げました」
画面には、自分たちの手で街の権利を勝ち取り、歓喜に沸く大和、篠原、長谷川、朝倉の姿が映し出されていた。大手資本に頼らず、クラウドファンディングや独自の販路開拓で資金を調達し、泥臭い独自の経済圏を確立した彼らの街は、今や「自立型コミュニティのモデルケース」として全国から視察が殺到していた。
都内の高級ホテルのラウンジ。
希代のジャーナリスト、神崎修司は、ブラックコーヒーを片手にそのニュースを静かに眺めていた。
彼にとって、帝都ホールディングスは過去に仕留めた数多くの獲物の一つに過ぎない。親会社が潰れた後、あの焼け野原に残された者たちがどうなろうと、本来は彼の関心の外だった。
だが、画面の中で泥だらけになって笑う彼らの姿から、神崎は特異な「熱」を感じ取っていた。
巨悪を暴き、社会の嘘を破壊することが自分の正義だ。しかし、破壊された後の瓦礫の中から、誰にも頼らず、自分たちの力だけでこれほどまでに強靭な居場所を創り上げる人間たちがいるとは。
「……面白い連中だ」
神崎は薄く笑みを浮かべると、残りのコーヒーを飲み干し、ラウンジを後にした。彼の足取りは軽く、すでに次なる「破壊すべき嘘」へと向かっていた。
神崎は生涯知ることはないだろう。画面の中で笑う彼らが、かつて自分の放ったスクープによって一度は人生を殺されかけた人間たちであるということを。
同じ頃、足立区の寂れた雑居ビル。
「陣内再生相談所」の小さなテレビでも、同じニュースが流れていた。
陣内創は、デスクに足を投げ出しながら、画面の中で誇らしげに笑うかつての依頼人たちを見つめていた。
立派なスーツを脱ぎ捨て、他人の評価という定規を叩き折り、泥水の中から自分だけのモノサシを見つけ出した異端児たち。彼らはもう、どんな不条理な暴力が降りかかろうとも、絶対に心が折れることはない。
「……立派に育ちやがって。俺のコンサル料、まだ一円も振り込まれてねえぞ」
口では悪態をつきながらも、陣内の目元はどこまでも穏やかだった。
机上の空論を捨て、耳を塞ぎたくなるような現実を突きつけ、現場の泥を舐めさせる。その猛毒のような劇薬は、確かに死にかけた人間の心臓を再び動かしたのだ。
コンコン、と。
不意に、古びたドアを叩く弱々しい音が響いた。
陣内がテレビを消すと、ドアが恐る恐る開き、青白い顔をした若い男が立っていた。
高級そうなスーツを着ているが、ひどく乱れており、その目は完全に絶望に染まっている。昨日、神崎修司が新たにすっぱ抜いた巨大金融スキャンダルの余波で、スケープゴートにされて職を失ったばかりの若手銀行員だった。
「あの……ネットの書き込みを見て。どんな経歴の人間でも、立ち直らせてくれるって……俺、会社に裏切られて、ネットでも実名が出ちゃって……もう、どう生きていけばいいか……」
男の口からこぼれ落ちるのは、かつての大和や篠原たちと全く同じ、世間の定規に縛られた哀れな被害者の言葉だった。
陣内はゆっくりと立ち上がり、机の上にあった文庫本を無造作にデスクに放り投げた。
そして、無精髭の口元に冷酷な笑みを浮かべ、絶望の淵に立つ新たな迷い人の前へと歩み寄る。
「……何だ、お前。死に損ないみたいな顔をして」
世界にはまだ、理不尽な正義の光によって生み出された濃い影が、数え切れないほど落ちている。
神崎修司が社会の嘘を破壊し続ける限り、陣内創の処方箋が終わることはない。
「会社に裏切られた? 世間が怖い? ……だから何だ。お前が泣き喚けば、誰かがお前の人生の責任を取ってくれるとでも思ってるのか」
男がビクッと肩を震わせる。退路を断つ冷酷な宣告。
容赦なき劇薬と、泥臭い実践の先にある圧倒的な称賛。
裏の再生屋の、終わりのない人間ドラマが、今日もまたこの寂れた部屋から始まっていく。
(『リビルド・メンター』完)




