4話
「こっからは歩きだなぁ。んでもって村を渡って行く感じになるぜ」
飛空艇の発着場が有る最北端の国までやって来た。鼻を通る風が乾いて、それでいてスッと通る様な冷たさがある。露出している部分の毛が逆立つような感覚がして思わず擦る。一応厚めの外套を纏っているのに、それでも長く立っていたら冷え切ってしまいそうだ。
「まだまだなんだよね? それでこれだけ寒いんだ。帝国とは違うね」
同じように外套の上から腕を擦ったミラが興味深げに周囲を見渡しながら感想を零す。まだ息こそ白くはならないが、洞窟の中に入ったような感じさえある。
「どうする? 早急に服を買いそろえてしまうか、それとももう少し先で手に入れるか?」
「そうだなぁ……一旦店に入って聞いてみよう。この先で買った方が良いなら兎も角、国とも言えないような場所しかないなら此処で買ってかないと無い場合もあるだろうからな」
「そんな事もあるの?」
「あぁ、思ったより環境ってのは生活の基盤だからな。ほら、俺たちは食事しなくちゃいけないし、寒すぎても暑すぎても駄目だから」
「あ、そっか……」
プロトがポンと手を叩く。どうしても彼には必要がないものだからすっぽりと抜ける時がある。
「兎に角、一回話を聞きに行こう。多分こっちにある筈だ」
そう言って荷物を背負うと同時に賑わっていそうな方へと歩き出す。新たな旅の風が吹いた。
「ふーん、あんまり見ない道具だらけね。これ何に使うんだろう」
「恐らく、靴に嵌めるのかと。雪の上は普通には歩けませんから」
「わ、この帽子すっごいモコモコしてる。ウィリアムの鬣より温かそう!」
「ほんとだ! 凄い柔らかいね」
「この地域の特産でしょうか……? 吾輩も見たことがありません」
3人が和気藹々と道具屋の物色をしているのを横目に店主にこの先のルート等の相談をする。何せ初めての場所なのだ。地図だって持っていない。行くべき場所は直感が示してくれるが安全は保障してくれない。だからこそ、この辺りに住んでいる者たちの言葉が聞きたかった。
「で、どうなんだ?」
「そうですなぁ……買い物自体は先でも出来るかと。丁度お連れ様が見ている品々の素材も先から持ってきた物も少なくありませんから。ただ、彼らは素材の確保と加工が仕事で販売は手がけていません。なので譲ってもらえるかは保証できませんね」
カウンターの奥で腰かける白い毛に覆われた白毛族の老人が分厚い肉球の付いた手で顎を撫でる。顔全体が毛に覆われている事もあって表情が分かりにくく、くぐもった声は嘘を覆い隠しているんじゃ無いかと思えてしまう。でも、動きがのっそりとして、穏やかにも見えるからどっちなのか迷ってしまう。必用な装備は決して安くないのだから、上手く見極めて買いたい。伝手があればと思うがないものは無いのだからどうしようもなく、今はこの店主と取引をしなければならなかった。
「ってことらしい。どうする? 買っても問題は無いとは思うぜ。割高って程でもないと思うしな」
「いいんじゃないかしら。保証が無いんでしょう? なら余裕があるうちに勝った方が良いわ」
「ウム。装備に手間取るのはリスクだ。それに不良品でさえ無ければ行って帰って来るだけでも十分な買い物だろう。目的は観光ではないのだ。なら他の事に気を取られるのは馬鹿のすることだ」
「ボクは必要ないから。皆で決めて良いよ」
一度店主から離れて相談する。全体の感じとしては此処で買切る事になりそうだ。
「よっし。じゃぁ、買っちまおう。それぞれサイズとか選んでくれ。そもそも無いとか、足りないとかあれば他の店も回ろう。この国で全部揃えたいしな」
「えぇ、分かったわ」
「プロトは悪いんだけど、共通で使う物を見てきて貰っていいか?」
「うん。でも何がいるの?」
「かんじきとか、ピッケル、後はロープとかだな。一回持ってきたら全員で確認するから心配しなくていいぜ。あれだったら一回店員に聞いてもいい」
「分かったよ」
プロトが頷いて道具が並んで居る方へと向かう。ミラとウィリアムは既に服の吊るされたコーナーへ向かっている。その背を追った
「ふんふん、まぁ、装備は大体揃ったんじゃないか?」
買う前に持ってきた物を並べて確認する。並べられた中には防寒着のような必需品から万が一の為の装備まで一通り揃えてあった。パッと見は、これで雪山を数日彷徨っても大丈夫そうな程に見えた。
「うむ、問題ないのではないか? 店主にも確認は取った。流石にこれで無理な場所で待ち構える様な事は向こうもしまい」
「そうね。来て欲しいんだから、そんなに難しくは無い筈よ」
「まぁ、そうだな。なら買っちまうか。プロト、悪い一緒に来てくれるか」
「あ、うん」
「私たちも行くわよ?」
「いや、ミラたちは先に食料を買って来てくれないか? 俺は俺の分しかないし、ミラたちも結構急いで出て来たんだろ? それに俺は何でも食えるけど、2人はそうじゃないだろうし、それに俺には分かんないからな」
「そう? なら、そうさせて貰おうかな」
「あぁ、そうしてくれ。あ、でも悪いんだけど金をちょっと融通してくれ。流石に俺の手持ちだと足りないかもしれん」
「あ、そうだね。ウィリアム」
「ほら、これで足りる筈だ」
「あいよ。じゃぁ後で合流しよう」
そう言って一度別れる。そこまで大きな街ではないし、そう言った物を売っているのは特定の店だけだ。だから迷う事は無いだろうし、ウィリアムが良く目立つから、始めての街で別行動することに迷いはなかった。
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