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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
四章⊟~ルークと原点

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20話

「ハァ……ハァ……」

呼吸するたびに疲労を吸い込んでいるんじゃないかと思うほどに体が重い。汗が頬を伝って床にあっと言う間にシミを広げていく。風呂上がりだってこんな事にはならない。突き出した右手は棒の様で、今すぐに下ろしたいと思うのに固まって、逆に下ろせない。

足元には幾らかの毛が落ちていて、自分のあの状態が終わってしまった事が分った。それどころか膝も笑いだしている。もし、指で突かれようものならバラバラに崩れ落ちてしまいそうだ。でも、どうなったのか、その結果を確認しなければならない。その思いで首を錆びついた蝶番のようにギリギリと動かして上を、ノクスが居た辺りを見上げた。


見上げた視線の先では星々が瞬いていた。世界の端の方ではまだ温かみの目立つ赤を湛えた光が鮮烈な光へと姿を変えようとしているのが見えたが、空の大半は名残惜しそうに星々が踊っている。そしてその中央、終わりを向かえる星空のステージの中央にノクスは座していた。

「……だめか」

一見した限りでは大きな怪我を負った様には見えない。あれ程の魔法?を行使したにも関わらず、自分の身には一切干渉させず、こちらが衝動の儘に放った何かも防いだらしい。尤も此方はノクスの魔法と打ち合って消えた可能性も高い。正確な事は全て光に吞まれてしまったから、見えはしなかった。しかしあれで届いていないなら、自分にはもう打つ手がないのも事実だった。足元に落とし穴でもあったかのような浮遊感の後、腰でも抜けたのか、膝が崩れて尻もちを着いた。握力の抜けた手からは双刃剣が転がり落ちて、沈黙の中に乾いた音を響かせた。

「……フフ、フフフフ」

それを皮切りに、猫の様に体を丸めていたノクスの笑い声が聞こえた。それは小さな声だったが静かな空間では極めて良く響いた。

「フフフフ、ハハハハハハ! アッハッハッハ!!!」

小さく震えていた体は大きな笑い声に変わって行くにつれて開かれて、ノクスは両手足を投げ出すように広げながら反り返って笑う。まさに抱腹絶倒といった具合で、苛立たしいと思う感情も越えて、思わずポカンとしてしまった。敵意を感じられなかった事もあるかもしれないが、兎に角、ノクスの笑い声は良く響いた。


「あぁ!! やっぱり君は最高だ! 僕の見立てに間違いなんて無かった。やっぱり僕たちは共に行くべきだ。そして然るべき場所で裁定を下す、その為に僕たちは相対した! あぁ、震えるよ!」

気でも触れたのか、そう思うほどに大笑いしながらノクスは歓喜で全身を震わせた。そして一頻り笑った後、ゆっくりと宙から玉座の間に――既に屋根は全て崩壊して、装飾もぶつかり合った余波で壊れ切っていた――降りて来た。周囲は瓦礫だらけで終末を思わせた。しかし降りてくる彼の背後からは鮮烈な赤が光の帯となって地上へと伸びて、夜明けと共に今日を運んできた。ただそれも、ノクスを通して見ては絶望を深く印象付けた。


「ルーク、君も感じただろう? 僕たちは選ばれた者同士だ。僕たちはこの世界の行く末を決める使命を持った種族なのさ。さっきの攻撃だって僕たちにとってはまだ進化の過程、この先に進む為の力、その一端に過ぎない」

ノクスがつらつらと、疑問をこちらに投げかける癖に返答を期待することもなく口を開いていく。

「僕たちは元より2人で1人の種族なのさ。互いに反発し、共鳴しては未来へ進み、時には閉ざす。そんな使命を持った種族。必用に応じて増やし、減らしてこの世界を管理する。その為に生まれた存在だ。今の君になら感じられるだろう? 僕の鼓動が」

ノクスは興奮しているのか声が嫌に大きい。身振りも派手で、役者の様だ。でも悪態を着く余裕はない。それでいて、確かに彼の言うとおりに感じるものがあるのも事実だった。


(なんだ、この感覚は?)

ノクスを視界に収めながら激しく消耗した事で鼓動するのとは違う衝動を胸の中に確かに覚えていた。初めての感覚に戸惑いがあるが、それが普通だという風にも頭のどこかで思わされていた。

「素晴らしいよ。でも、まだ君には足りないものがあるとも分ってしまった。君の力は本来ならもっと強い筈なのに……君が僕とは違い、下等生物との生活が長かったせいか、君本来の力が成熟していない。これでは僕たちの役目が果たせない」

さっきまでの興奮が嘘の様にノクスが項垂れる。失望とはまた違うが期待が逸れてしまった様な感じで、顔が悲しみと憐れみが相まった表情だった。

「でも、もう大丈夫だ。君も理解しただろう? 僕たちは共にあるべきだ。だからこの手をもう拒むことは無いと信じているよ」

顔をバッと上げたノクスは子供が母に愛を強請る様な表情を浮かべながら此方へ手を伸ばす。不思議とその手が磁力でも持っているかのように惹きつけられる。鉛の様な重さを持っていた体もその手を取るためならば風に飛ばされる羽になった様に動き出しそうだった。強引に、頭ごなしに強制されるのではない、優しく、導かれる様な、迷子の時に差し伸べられた手の様に感じられた。だから半身が浮き上がり、呆然と手が伸びる。迷いはなかった。


「ウォォォォォ!!!!」

絶叫、同時に重い、重い打撃音が響く。瓦礫塗れになった玉座の間はその衝撃に耐えきれぬとばかりに土煙を上げて悲鳴とした。幸い床が抜けるような事は無かったが、それでも何か大事なものを邪魔されたような感じもして、眉に力が寄った。しかし、直後にそんな自分に驚愕する。今の声はウィリアムだった。大事な仲間だ。先程の攻防を乗り越えて、攻勢にきちんと出たのだと理解できた。同時に自分が何故、あれほど憎たらしかったノクスへ手を伸ばしていたのか分からなくなってしまった。夢かとも思うが自分の視界には確かに伸ばされた右手を宙を彷徨っていた。

「ルーク! 大丈夫? 今すぐ治療するわ! プロト、お願い! ウィリアムを助けて!」

「うん! 任せてよ!」

後ろから更にミラとプロトがやってきた。というか、ミラは怪我をしたんじゃなかっただろうか。ならばこれはやっぱり夢か、そう思ったが彼女が翳した杖先からは光が溢れ、放たれたモノが体へと染み込む。効果は確かだ。ならば夢と断じれない。

「ルーク、ごめんなさい。完全には回復してあげられない。でも、立つぐらいなら! 私でも!」

「あ、いや……無事、なのか?」

「えぇ! あれだけうるさければ死んでたって起きるわよ。それよりジッとしてて」

ミラが威勢の良い返事をする。そんな彼女の背後ではノクスに迫り続けるウィリアムと牽制を放つプロトの魔法が幾重にも見える。ノクスは極めて面倒そうで、ユラユラとそれらを受け流していた。


「はぁ……君には流れ、ってものが分からないのかな? だからアッサリと追放処分だって受けるんだよ? やっぱり獣は頭に問題があるね」

「ふん、好きに言うが良い。聞き耳など持たぬからな。それに折角の機会、逃がすわけ無かろう? 動きが鈍っているぞ」

「はぁ……本当に、鬱陶しいよ」

意外、そう言ってしまうと変かもしれないがノクスはさっき迄の様な圧倒的な威圧感を持っていなかった。勿論、ウィリアムとプロトの相手をしながら余裕そうな表情を浮かべられるのだから、弱いなんて事はまったくないのだが、それでも随分と弱体化したように感じられた。


「……遊びが過ぎたね。君のせいでルークの開いた進化がまた閉じてしまった。僕もちょっとだけ消耗しすぎたし、この状態で原始のルークをどうこう出来るとは思わないし、引かせてもらうよ」

ノクスがそう言うと同時に突風が吹き付ける。思わず顔の前に手をやってしまい、視界が塞がれる。慌ててノクスの姿を探せば、彼は手の届かない所で滞空して此方を見下ろしていた。

「結果は残念だった。でもルーク、君の中に僕たちの繋がりが出来たのは嬉しかったよ。だからまた会おう。君なら僕が何処にいるかなんて直ぐに分かるだろう? だから今度は君から会いに来てくれ。待っているよ」

「待て!」

ここで逃がすわけには行かない。そう思ったが心の奥ではもうどこかへ行ってくれと思っていたような気がした。そんな自分を見透かしたようにノクスは消えた。何事も無かった様に、風になった。そして随分と開放的になった玉座の間に自分達だけが残されたのだった。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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