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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
四章⊟~ルークと原点

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16話

痺れるような疲れを訴えてくる足を時折叩きながら廊下を走る。体全体は鉛を口から流し込まれたように重たいというのに、感覚はフワフワと宙に引っ張られるような軽さが合わさってもいた。徹夜明け、或いは病み上がりのような感覚は酷く気怠くて、叶うのならば今すぐにでも布団に倒れ込みたい衝動が頭の中にドンと居座って主張する。でも今、それは砂漠で水を求めるようなもので、叶うはずもないし、叶えてもいけない望みだ。欠伸をも噛み殺すように奥歯をグッと噛んで堪える。そんな自分に仲間たちの気遣う様な視線がチラチラと向かって来るのが分かる。でもそれに真正面から応えてやる余裕は無かったから、前を向いて走る事で返事にした。


城の中は嘗て忍び込んだ時とは大違いで酷くひっそりとしていた。街中にいる時やアガパンサス団の皆が囮として行動している時は喧噪もあったはずが、この城に入ってからは本当に騎士の1人、魔道人形の1体も見ることはない。それこそ囮なんて要らなかったんじゃないか、そう思えてしまう程で、ブライヤを退けた後は妨害が無いままに本城の主要通路を走ることすら出来た。ウィリアムが言うようにノクスは何の意図があるのかは分からないが、彼が騎士を城から除いたのは確かな事だった。しかし、そうなるとこれから先に何が待ち構えているのか想像が嫌でも膨らんでしまうし、緊張感だけが高まって沈黙も胸を突く様な痛みを生む。本当に決戦前といった空気は良くも悪くも倒れそうな自分を見えない糸で釣り上げて体を動かした。


「着いたわ」

先行していたウィリアムに追いついたミラがそう声を零す。声音には感慨深さの様なものも混じっていたように聞こえたし、緊張が喉を貼り付けていたようにも思えた。でも彼女の七色の瞳は赤く反射して、大きな扉の先を睨みつけていた。手足に震えは無く、握られた杖の先端だけが小さく揺れた。

「ルークは大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」

プロトがいつもと変わらない様子で気を使ってくれる。それに返せるのは強がり以外何物でもないのだが。それでも強がりが吐けるだけマシと見るしかない。疲労は増す一方だ。ミラの治癒のお陰で何とか動けてはいるが怪我をした訳ではなく、只の疲労のような物だからどうしようもない部分があった。結局良く分からないがあの状態が酷く体力を消耗するのは変えようのない事実だ。今はあの状態に成れる様な感じが一切しない。仮になっても本当に一瞬で意識がなくなる自信すらある。

「・・・本当か?いざ相対した後に、足を引かれては適わんぞ」

「あぁ、分ってる。でも大丈夫だ。信じてくれ」

ウィリアムが憎まれ口を叩く。でも彼なりに自分を心配してくれているのはこの長い旅の中で良く分かっているから噛みつく様なマネはしない。それに彼の言うこと自体尤もなのだ。でもノクスは自分を一番待っている、そんな予感があるだけに此処で待つ選択は出来ないし、やっぱり自分ももう一度アイツと会わなければならないという使命感が胸の奥にあった。もはや口ではどうとでも言えるだろうがアイツは紛れなく同族だ。血がそう訴えていた。自分は今、どんな顔をしているんだろうか。皆の目には此方を気遣う様な感情がありありと見えた。ウィリアムまでもそうなのだからよっぽど酷い面に違いなかった。でもこれはミラの為に皆で歩んできた道だ。其処に自分が関わったとて、始まりは変わらない。だから彼女にそんな顔をしてほしくはなかったし、これから一番大変なのは彼女だと思うからこそ、腹の其処から力を振り絞る様に力をいれて頬を叩く。

「行こう。ミラの故郷を、取り返そう」

そう言って口角をあげていつもの自分の表情を取りもどす。不安を晴らしてやれずとも、それでも前に行くと決めたのだ。だからそんな心配しないでくれ。1つ、小さく頷いた。


扉は自分が開いた。何かあった時、ウィリアムが対処出来たほうが良いだろうし、ミラやプロトが直ぐに支援出来たほうが良い。だからゆっくりと大扉へ手を掛けたが待ち受けている者の重さに比べて扉は酷く軽かった。こういうものは重たいと相場が決まっていると思ったがそうでもないらしいと場違いにも不思議を覚える。そして開かれた扉の先は一番と言っても良いほどに豪奢な空間が広がっていた。


帝国の玉座の間は酷く天井が高い空間だった。兎に角、入ってきたものに威圧感を与え、自らをちっぽけだと思わせてくる。両サイドにはガラスの窓が均等に配置され、柱すらも帝国様式とも言える蝶の羽飾りの付いた剣が掘られた彫刻の柱だった。降り注ぐ明かりは眩しい程ではないのに、直接見るのは憚られるような光度を湛えていて、奥の方から此方へ向かって真っすぐに伸びていた。これでは確りと奥にまで行かなければ玉座に腰かける者の姿を捉え切ることは出来ないだろう。床には幾重もの色が縦に入ったカーペットが敷かれ、精霊種の主な種族のメインカラーが刻まれている。今代、ミラの母がたしか華羽族だったからか中央には極彩色の線が菱形を造りながら鎮座していた。本来なら父である皇帝の長耳族の緑が使われる筈だが変えられているようだった。しかし実際にはその後ろにノクスが全てを握っていると思えば酷く滑稽で虚しい主張に見えた。そしてそれら全てを見下ろすように置かれた玉座にはあの日見た、ミラの母親である皇后が腰かけているのが見えた。


「お母さま・・・」

ミラが思わずと言った雰囲気で声を漏らす。その声は迷子の子供が母親を探すために声を張り上げたようにも聞こえたし、決別の日に告げる最後の呼びかけにも似ていた。しかしそんなミラの声にも皇后はさしたる変化は無く、どっぷりと言った感じで玉座に腰かけた儘だ。それこそそう言った置物なのだと言われたら素直に信じてしまいそうな程に静かだった。聞こえなかったのだろうか。いや幾ら玉座の間が広かろうが、娘の声が聞こえない母親がいるとは思えなかった。しかし皇后はやはり身じろぎ一つしない。

「あ?」

流石に違和感を覚える。ミラの事が無くとも、事前の情報を思い返せば皇后が一言も発さないのは不自然だ。ウィリアムは行ってしまえば逃亡兵だし、自分は誘拐犯だ。プロトだって、逃げ出した実験体でミラも加えるなら家出娘だ。癇癪持ちの母親兼皇后がこの面子相手に激昂しないわけがない。だからこそ、皇后の不動の姿勢は不気味だった。しかし、それも長くは続かず、自分たちの硬直もウィリアムの一言で溶けた。

「・・・、構えろ。皇女様もお覚悟を」

「え?それって・・・」

どうゆうこと?ミラがそう言葉を零す前に、玉座に腰かけていた皇后の首がガクンと、気絶したように落ちた。

「やぁ。待っていたよ、ルーク」

カツカツと高い足音が響く。皇后は紐が切れてしまった人形の様に力が抜けた姿勢で身じろぎ一つしない。そして聞き覚えのある声が1つ、響いた。

「お前!」

「お前じゃないよ。ノクス、って呼んでくれないかい?ルーク。僕たちは僕たちしかいないんだから、仲良くしたいんだ」

現れたのはあの日、路地裏で出会ったノクスが、不思議なことに愛おし気な表情で此方を見下ろしていた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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