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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
四章⊟~ルークと原点

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14話

世界が反転した様だった。実際は自分が空中で逆さに成っているだけだったが、そんな事は気にならなかった。ブライヤの後頭部越しには此方を凝視したウィリアムの顔、酷く驚いたような表情が目に入る。その奥では必死に杖を振り上げ、魔法を行使していたミラが目を丸くする様子、そしてプロトの特徴的な目が瞬いた事すらも良く見えた。それでいて意識はハッキリと眼の前のブライヤに向いており、まるで複数人の意識と視界が手に入った様な心地でさえ合った。


一閃、体を駒の様に回して勢いづいた一撃をブライヤへと目掛けて放つ。その一撃は下から立ち昇った木々に阻まれた。しかし、先程とは違い、多少の引っかかりを手に伝えながらも強引に切り裂いた。それに驚いたのは当然ブライヤだろう。

「なっ!?」

先程迄の彼女の印象とは似つかわしくない驚愕の声だ。彼女も流石に何かしらの異変を感じ取ったのか、それとも仲間たちの反応から予測したのか、こちらへ振り返る様にしていた。しかし彼女の後ろ髪が半ば程から断ち切られてもいた。


跳んだ勢いの儘にブライヤの頭の上を通り過ぎていく。姿勢を解いて着地に備えて今度は縦に回って、足を確りと下へと向けた。着地と同時に足元にあった花々が幾重も散ったが少しも気にならない。不思議と体が熱く成っているだけで不調の影は少しも無かった。


「貴様・・・なんだ、その姿は?」

その美貌を歪める様にして目つきを鋭くしたブライヤが口を開く。その顔には警戒心と動揺がありありと映っていたが、取り乱すような様子はない。しかし口調は固く、美人が怒ると凄味があるというのは実際の事なのだと場違いな感想が湧きたつ。

「・・・さぁな。俺も分んねぇけど。お前を倒すには好都合、それだけで十分だね」

肩に双刃剣を乗せる。すると不思議と柔らかく、絨毯を触った様な感触がして横目に見てみれば肩の辺り、袖の無い服から赤紫色の毛が見えていた。いや、それだけでなく、腕の関節回り以外に同じ色の毛が生えていて、まるで獣種の何かになったようだった。膂力も明らかに上がっているのを感じた。


「行くぞ」

腰を落として沈み込む。ブライヤと問答をする理由はなかった。そんな自分に彼女はことさら眉間に皺を寄せて、杖を強く握ったのが見えた。でも何があっても負けない。そんな全能感に躍らされる儘に飛び出す。


一足飛びに前へ前へと進む。いつもの何倍もの速度で視界の景色が後ろに流れていく。成る程、これを見たウィリアムたちがアレヤコレヤと口にするわけだと思う。異常だ、でもその異常が今はとてつもなく有難い。


「ハァ!」

手の中で勢いよく回した双刃剣を横に振り切る。普段なら体ごと回して威力を高める工夫をするが今はそんな事をしなくても問題ない様に直感で思った。そしてその直感は正しかった。


振り切られる双刃剣の前には既に何度も見た木の壁がブライヤの杖を通じて床からそそり立つ。しかし自分の振った一撃は雑草でも刈るようにして切り裂いていった。手応えの様な物も少なく、それこそ格が違うという言葉がぴったりだった。よく見れば自分の体毛と同じ色の何かが双刃剣の刃にも薄っすらと纏わりついており、それが今の状況を作る助けになったのだろうと想像が付いた。


半分程になった壁を飛び越えて、後ろへ下がろうとしていたブライヤに追いつく。そして彼女へと切りかかる。今度は壁を出す余裕すら無かったのか、杖自体が割って入る様にして立ち塞がり、流石に杖の堅さは相当なモノなのか鍔ぜり合う。しかし僅かには刃が食い込んでおり、押していれば切れそうに見えた。


「クッ、一体、何だというのだ!?」

虫を追い掃う様にブライヤが杖を振ったのに併せて後ろへステップで下がる。彼女の表情は益々険しく余裕の雰囲気は既に消え去って、美貌も陰り、額には汗が滲んでいた。

「どうする、降参するか?」

「・・・私が役目を捨てる事はない!」

ミラと親しそうな雰囲気もあったから降参を促してみたが一言に断ち切られてしまった。とは言え気落ちすることはない。自分と彼女の間には何も無いのだからそれも当然だろう。

だから再び双刃剣を風車のように回しながら腰を落とす。本命は彼女が阻む先にしかないのだから退くことは出来なかった。それに、一見有利に思える状況だがそれ以上に焦燥感が追いかけるようにして背すじを登って来ていた。


(あまり持たないだろうな)

現在の自分が相当特殊な状態なのは良く分かっていた。凄まじい全能感とそれに付随する力はいっそ溺れたくなる程の陶酔感があった。しかし、それと同時に穴の開いた桶の様にその力が零れていってしまうのが手に取るようにして分かるのだ。言ってしまえば感情が爆発した時に近いだろうか。その一瞬は凄まじい怒りだったとしても、その怒りは結局長続きはしないし、冷静になっていく脳が歯止めを掛ければ無理をした分の理解が追いついてしまう、そんな予感と今の状況はよく似ていたのだ。だから見た目以上に此方も逼迫した状況なのは変わらない。もし、この状態が終わってしまえば必ずブライヤ押し返しに来るし、ウィリアムがいてもやはり相当に厳しい状況になる事は簡単に想像出来た。


「行くぞ!」

後ろ手に合図を出してから走り出す。狙うのは速攻だ。だからこそ仲間の支援が欲しかった。その為に、まずは自分がブライヤを釘付けにする必要がある。普段はウィリアムがやってくれているポジションで、これを自分が担当することでいつもより攻撃性を高められる。駆けていく最中、後ろからウィリアムが駆けだす足音が聞こえた。サインは確りと届けられた様だ。後は今までの戦いの経験に任せるしかない。


「ッチ!森よ、阻め!」

本格的に攻めてこられる事を感じ取ったブライヤが舌打ちを零す。そして床へ叩きつけられるようにして杖が振られ、その先端から既に見慣れた木々が氾濫した川の様に溢れ出す。しかし今度は華もびっしりと巻ついていて、せめてウィリアムだけでも阻もうという意思が透けて見えた。


真正面から迫る木々に向けて踊るようにステップを踏みながら、体の周りを沿うようにして双刃剣を振り回す。さっきまでの攻防でこの木々に当たり負ける事はないと分かっているから正面からきっちりと向き合う。右に左に斜めにと乱舞という言葉がピッタリな具合で両端に付いた刃を木々へ振り、薪割でもするように木々を砕いていく。するとまるで刃物で出来た台風に正面からぶつかったかのように木々が切り裂かれていき、開拓者の気分でブライヤへとどんどん歩を進める。そして再び彼女自体を射程に収めると同時に双刃剣を振ろうとしたその瞬間、何か鋭利なものが顔を目掛けて飛んできた。


「あぶねっ!?」

顔の横を通り抜けていったのは細身の剣だった。元を目で辿ればブライヤが腰に下げていた物である事が良く分かる。一見すると儀礼剣にしか見えず、杖が凄まじく目立っていただけに、意識から消えていた。しかし思い返せば彼女は騎士なのだ。剣が扱えない理由がない。そして避けて少し体勢が崩れた所に再び杖から今度は細身の触手のような蔦がワラワラと湧き出て此方を拘束しようと蠢きながら迫る。流石にどうしようもないかと一歩下がる。


ブライヤが新たに生み出した木々には色とりどりの華が相も変わらず蕾を付けていて、開花の時を今か今かと待っていた。今の所それらの影響を自分は受けていないが何時この時間が終わるとも知れない現状では無視しきってしまうのも不安だ。それに効果がないと決まった訳でも無いのだからやっぱり無視しすぎてはいけない。ウィリアムには当然効果があるし、ミラも近付きすぎれば当然ダメージを受けるだろう。そう言う意味では自由に動きやすいのはプロトだけだろう。しかし彼は今、一番最初に潜り抜けた壁の処理に回っていて此方には援護できない状況だ。ブライヤの生み出したものは枯れたなら兎も角、そうでないなら無限を思わせる程に増え、彼女の手足同然に動き回る。だから適度に枯らして置く必要があった。特に後方の物は生命線であるミラに近い。となれ仕方のない事だった。


「ウィリアム!併せろ!」

流石にいくら身体能力が上がっても技術が上がった訳ではない。そしてブライヤは手数と技術の人で、自分だけでは崩せそうにない。だから隙だけを強引に作って、後はウィリアムに任せる事にした。あえて名まえを呼んだのも、ブライヤの意識を少しでもずらす為だ。望むのは短期決戦、ブライヤを睨み、再び力強く踏み込んだ。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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