11話
「プロト、悪いんだけどアイツらに直接魔法を撃てるか?」
高まっていく魔力の波動に目を細めながらそう問いかける。兎に角今の所ウィリアムの攻撃が主体で、ミラが攻勢に余り出られていない状況から魔法を試した可能性は低かった。それに元々ミラの得意属性の傾向からして、攻撃には向いてない。だから一度しっかりと魔法を当ててみてどうかというのが知りたかった。
「うん、大丈夫だよ。何が良いとかある?」
「そうだなぁ・・・とりあえず火で良いんじゃないか?」
せめてあのモノとクロの種族だとかが分かっていれば考える余地もありそうな物だが分からないのでは仕方が無かった。
「燃えろ!」
プロトの生み出した火球がモノとクロの間を割る様に飛び込んでいく。突然の乱入にも関わらずにモノとクロの動きに迷いは無く、プロトの火球は2人の繋がれた手の中で爆発した。燃え盛る火の中でも相変わらず踊り続けるモノとクロの姿は異様で、火のことなど目にも入らないとでも言いたげだった。そして無視されたのなら当然相手の攻撃は止まらない。再び闇が広がり、プロトの火を呑み込んでしまう。その勢いの儘に此方へ向かってくるのをミラが再び光を放って押しとどめる。
「いや、マジか・・・」
こうも綺麗に無視されてしまうと困ってしまう。この感じからすると他の魔法も似たようなモノだろうことも想像が付いた。戦闘中だが頭を抱え込みたい気持ちにもなる。
「ど、どうしよう?」
プロトも困ってしまって首を傾げてしまう。だがどうにかしてこの状況を突破しなければ再び魔道部隊だってやって来るだろうし、普通の騎士だってこの騒ぎで来ても変ではない。ウィリアムと同格の騎士団長だっているのだ。そんなのがここにやって来たら流石に詰みだろう。
「う~ん・・・なんの仕掛けだぁ?魔法って感じもしないけど、魔法じゃなければ何だってんだ?」
焦りが肚の奥底から夏雲の様に湧いてくる。その間にもミラたちの攻防再び引き分けに終わって闇が溶けていく。その闇をジッと、親の仇の様に睨みつけてやるが、その逃げ足は速く、嗤われている様にも思えて腹が立つ。そして闇はモノとクロの近くにまでやって来て足元の当たりで消える。後には地下通路の明かりに照らされる彼らの姿だけだ。
「ふふ、粘るね。でも厳しいんじゃない?」
「ふふ、頑張るね。でも限界なんじゃない?」
ニタニタと、メイクで一杯に引かれた大きな口を更に歪める様にして厭らしい笑みを浮かべる。言い返してやりたい気もするが分からない以上。変に口を利けば言い返されてより腹が立つだけだ。必死に口を噤んでいると横からプロトが袖を引く。
「ね、ねぇ。ちょっといい?」
「なんだ?」
モノとクロがミラと話しているのを後目にプロトへ耳を傾ける。
「あのね、本当かどうかは分からないんだけど、相手の足元から魔力が湧いている?気がするんだ」
「足元?」
「うん。さっきから使ってる魔法も全部足元から発生してる様に感じるよ。なんだろう。靴が杖って事も無いだろうし・・・」
足元に目をやるが彼らの足元には明かりに伸ばされた影だけだ。変な物は何もない。そしてそんな間にもモノとクロは再び踊りだし、次の魔法を用意し始める。当然ウィリアムも妨害に動くが効果は無い。幻を切っているようだ。
「んん・・・何か、分かる様な・・・ええっと、何だっけ?」
頭の片隅に取っ掛かりが顔を出す。確かどっかで見たことがある何かだ。でも指先に障る程度で摘まめていない。闇、地面、幻。とりあえず要素を引っ張りだして並べては叩いて見る。
「あ」
「どうしたの?」
「分かったぞ!アイツ影潜族だ!」
閃きだった。思わず大きな声になってしまってにらみ合っていたミラたちの意識も此方へ向いてしまった。しかしその中で一際大きな意思で持って見て来たのはモノとクロだった。
影潜族、精霊種の1つでありながら希少種で普段表に出てくる事はまずない種族だ。名まえの通りに影の中に潜み生きていて、表に出てくる事が稀な存在で普段から相まみえる事は少ない。人の影は勿論、あらゆる影の中を寝床にして、一番気持ちの良い影を探して旅をすることもあるヘンテコな奴等だ。ただ、その特性からあらゆる所に隠れるのも得意で
嫌われることもある。だれが勝手に影に住まわれて気持ちが良い物か、という訳だ。別に害はないし、彼らは影の中で寝ている事が大半な為に四六時中見られているという事も無いのだが、影に住まわれて気持ちのいい奴は彼ら以外にいないだろう。だがそうと分ればこれまで一切攻撃が通らなかった事は納得の行くところではあるし、ミラの光が有効な理由も判明した。彼らは影に潜むもの、だから影が小さくなれば弾き出されてしまう。それ故に影を伸ばすような魔法を使ったし、ミラを近付かせない様にしていたのだ。
「・・・・」
「・・・・」
モノとクロの無言と視線が痛い。間違いなくさっきまでは此方を認識していないのではないかと思うほどに無視していた癖に今は一番熱い視線が向けられている。ステージの中央に至って浴びられないほどの熱量だ。でもそれは図星であることをありありと語っていた。
「ハッ!どうした、種が明かされてお熱か?」
「ふふ、雑魚のくせに、うるさいやつだよ」
「ふふ、ゴミのくせに、喧しい奴だよ」
「どうした?口調にも余裕がないぞ?」
そう煽った瞬間、彼らの足元から触手の様な闇が幾本か現れる。まる海中から現れた大蛸の様で、真っ黒な質感と併せて酷く不気味だ。でも種は割れた。なら此方のやる事は単純だった。
「ミラ!光を!ウィリアム、アイツの近くまでミラを!」
そう言うが速いか否か。ミラは杖を掲げ、光を放ち、ウィリアムが彼女を松明の様に抱え込み、膝を折り曲げる。そして一気にモノとクロを目掛けて駆けだした。
「っと、いけね俺も行くか。プロトは此処で魔法の用意だけ頼む!」
そう言い残して駆けていく。相手の弱点が分かった以上、ウィリアムたちで戦力不足という事はないと思うが、万が一はある。特に影に潜り込むのなら一瞬の隙でどこかへ行かれないとも限らない。特に此処は地下通路、彼らの逃げ場は十分にあった。一階でも逃がせばもう二度と捉える機会がない、そう思えば走る価値はあった。
「光よ!」
ウィリアムに抱えられたミラが杖を掲げる。それに慌てたように反撃するのはモノとクロ、いや、どういった原理なのかは不明だが恐らくダミーだ。本体は影の中故に言ってしまえば人形とでも言うべきか。兎に角、闇を生み出しては光を埋めようとする。しかし間に合わない。此方が攻めあぐねて居たからこそ出来た動きな事は明白だった。ウィリアムも生み出される闇を確りと避けながらも彼らの影を消せるように光を放つミラの位置を調整しながら隅へと追いやっていく。その背を追い、更に後ろでは火を松明の様に杖の先へと灯したプロトが備えで着いて来ていた。そして遂に逃げ惑うモノとクロを隅へ追いやり、好機と見たミラが精一杯と言った感じで杖を振って光で地下道を満たした。
「ガァァァアッァァァァア!!?ふざけやがってぇ!!」
聞こえてきたのは悪漢も同然の濁声だ。魚が水面を跳ねる様にして真っ黒な液体状の体が地面から押し出されて宙を舞う。手や足もある様に思えたけど、やっぱり只のヘドロにも見えた。喋ったが口も目も耳もあるようには見えなかった。でもそいつが生きることを諦めたようにも見えなかった。
「ふざけやがって。俺様の姿を見たな!絶対に許さねぇ!」
激昂した声が響き、不定形の彼の体がうねって何かの予兆を思わせた。彼の種族は分かったが実の所詳しい事は知らない。だから種族の隠し玉が有れば流石に面倒だと奥歯を噛みしめ、ナイフを投げる。ホンの僅かでも動きが止まればと思いはしたが泥に投げ入れたようにナイフは埋まって止まる。痛がる様子も見られはしなかった。しかし相手の隠し玉に対して本命の一撃というのが此方側にあったのも事実だった。
「穢い声だ。失せるがいい」
ウィリアムが振りかぶった儘だった大剣を握り締め、一息に肉薄する。ミラは少しだけ離れた所に居て、ウィリアムを追いかけながら光を放ち続けていた。そして激昂していたモノクロの本体はウィリアムの踏み込みを見逃した。次の瞬間、闇を切り裂くように、ウィリアムに大剣が横一文字に引かれた。
「あ?あぁ嗚呼アアアア!!!???」
影が分断される。今度は陽炎の様には行かず、確りと攻撃が通った。もっとも種族的にこれが致命傷なのかはやや不明だ。
「プロト!撃て!」
追撃をかけたほうが良いだろう。そう判断してプロトへ指示を出せば、すぐさま火球が本体へ飛ぶ。そして地面に落ちると同時位に本体が火に包まれる。
「アアァァァァァアッァア!!??」
本体が断末魔を上げる。不定形の体はジュクジュクに腐り果てたヘドロの様に泡立ちながら少しずつその身を溶かしていく。其処へミラが改めて光を浴びせたことで、本格的に逃げる事も出来なくなり、呪いの様な悲鳴を上げながらその身をこの世界から消していった。
「ふぅ。おつかれ、皆」
「えぇ、ちょっと疲れたわね。でも急がないと」
魔法を行使し続ける形になってしまったミラが額の汗を拭う。まだ先は長い事を思えば全く歓迎できる事ではないが、それでも仕方のない消耗でもあった。
「そうですな。大きな音を立てましたし、何より待たれて居た訳ですから。此処からは少しばかり強引に行くことになるでしょう」
「ごめんなさい。手間をかけるわ」
「いえ、それが私の仕事です」
「なら最初の作戦通りでいいな?ウィリアムが前で俺が最後尾。後衛の2人が中段だ」
「うん、大丈夫だよ」
「えぇ、行きましょう」
全員で顔を見合わせて頷く。そしてモノとクロたちがやってきた扉を開いて城へ突入した。
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