4話
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アッシュに案内されたのは客室らしき一室だった。簡素な部屋ではあるが普段使いしていないお陰か小奇麗で、一抹の寂しさが漂う。
「まぁ、話は後で纏めて聞くからよ。今は休んでな」
アッシュはそう言うと部屋を出て行ってしまった。語りたい事は沢山あったが、確かにまずは他の仲間と喋った方が良いだろう。それはこの後のボスとの会話内容の相談だってある。
「ふう。ま、最高の結果じゃないか?」
「そうね。ありがとう、ルーク」
振り返り、ベッドに腰かけて他の面子と向き合う。新しい船なのだから言ってしまえば全く知らない場所だ。でもアンガスが手がけた事もあってかそんな気はしない。むしろ慣れた空気と匂いが充満して、里帰りの様な心地だ。
「いいさ、俺も家族に会えた。それでボスが帰って来てから話し合いだけど、どうする?全部話しちまうか?」
隠すほどの事はないと思ってはいる。でもそれは自分が彼らを信用しているという理由だけだし、ミラがどういった判断をするかは不明だ。そしてミラを起点に旅をしているのだから彼女の意思をまず優先したい。
「・・・正直に話した方が良いとは思うの。ただ、私は貴方の家族を余り知らないから、判断に付かないかしら」
ミラが伺うように口を開く。まぁ、ハッキリと「貴方の家族は信用出来ません」とは誰だって言いにくい。
「ま、そっか、そうだよな。ならまずはボスと会ってからでもいいんじゃないか。俺も久しぶりだし、もしかしたら何か意図があって此処にいるかもしれないからな。それにアスケラとの関係もあるだろうし。うん、ミラがしたい様にしたらいいと思うぜ。それにどんな事になっても俺はミラの味方になる」
「いいの?」
「いいさ。俺にとっちゃボスたちもミラたちも大事な家族で仲間さ。で、今回は俺の提案もあってここに来たし、此処でミラを見捨てる様な生き方はしたくない」
アガパンサス団の皆は大事な家族だ。でもミラやプロトにウィリアムも今や大事な相手だ。だから何方かを切る選択はしない。勿論、大事にはならないという確信めいた予感があるというのも事実だ。ボスの性格的にも仕事はしっかりと熟すが面白そうと思えば悪乗りだってする。清廉潔白な生き方なんて元よりしない。だからミラの帝国への侵入だって助けてくれるだろうと思うし、それがフォード公爵の意と多少背くことになっても口を噤んでくれそうではある。まぁ、公爵からしてもミラが解決してくれるならそこまで大きな事は言わないだろう。何せまだ戦争は興っていない。帝国の隠していた事がバレて緊張状態にあるだけだ。まだミラが帝国の上に立てば収められる、首皮一枚残っている。だからミラが本格的に戦争が、ノクスに因る世界への宣戦布告が始まってしまう前に収めるという意思を見せるなら話は上手く通りはするだろうと思えた。勿論成功するか否かの算段は入れない。なにせ規模が規模、それにもし正面から当たったのではどの国が後ろに居たって5分もあるかどうかだ。
「ありがとう、ルーク。それなら改めてボスさんに会って、話してみてから決めるわ」
「あぁ、勿論さ。それじゃ、それまでに話を纏めて置いてくれ。俺はどうも苦手だから」
そう言って頭を掻けばミラも小さく笑った。
「ルーク。ボスが帰ってきたぜ。話してもいいってよ」
暫く部屋で休憩しながら歓談しているとアッシュが戻ってきて扉を開けた。
「お、漸くか。皆行こうぜ!」
ベッドから飛び降りて腕を鼓舞するように掬いあげる。十分に話し合いは済ませた。だから後はミラとボス次第だ。
「そう言えばアッシュも一緒に参加するのか?」
廊下を歩きながらアッシュの横から話しかける。夕方な事もあってか良い香りが漂ってくる。そう言えばもうそろそろ夕食の時間だ。久しぶりにオリヴァーの手料理が食べられると思うとさっきまではそうでも無かったのに急にお腹が空いてくる。
「あぁ。俺だけじゃなくてオリヴァーとアンガスもいる。まぁ、態々此処迄来たんだ、それなりに込み入った話なんだろ?本来ならそっちの皇女様はアスケラでお別れだったんだからよ」
そう言いながら彼が後ろへ首を回す。ミラがアッシュの目線に気が付いて、彼の言葉に答える様に小さく頷いた。
「ま、だから俺たち幹部、って程じゃ無いが全員で聞いた方が良いだろうって話になったのさ」
まぁ、分かる話だった。決定権の全部は結局ボスが持っているがボスが俺たちの話を聞かない事も無かった。それに此処で後の3人に話が通っていればウィリアムもこの船で生活しやすくなる。そういう狙いもあるだろう。
「ほら、ここが新しい会議室だ。おおい、連れてきたぞ!」
アッシュが扉を叩いて声をかける。
「おう、入れや」
懐かしい野太い輩の声が返って来る。別れと言うには短いがそれでも十分に長さを感じる間離れていた相手だ。自然と頬が緩む。
「よう、久しぶりだな、ルーク。良く帰ってきた。それに皇女様もお変りなく、つう事も無いな。随分たくましくなった様で。そっちは騎士団長様に・・・プロトだったか?まぁ歓迎するぜ」
そう言って不敵な笑みを浮かべるボスの姿は記憶と変わりない。折れた牙を撫でながら面白い物を見つけたような目つきでニヤついていた。
「久し振りでやんすね!」
中にいたアンガスが手をふらふらと揺らし、丸い目を細める。その隣にはオリヴァーが相変わらず凶悪な人相をより曲げて笑いながら手を小さく上げて挨拶代わりにしていた。懐かしい、こうやって皆で一つの部屋に集まってよくアレヤコレヤと下らない話をした記憶が一気に蘇ってくる。場所は変わっても何も変わらない彼らに胸の奥底が暖かくなる。でもそれを引き締める。今は思い出話をしに来た訳じゃない。
「おう、久しぶりだなボス、それにみんな!」
それでも挨拶位はといつもの感じで返せばやっぱりいつもの雰囲気が部屋を満たした。
「で、何か話があるらしいじゃねぇか。それに皇女様だけじゃなく不思議な面子だ。とっとと話しな。俺もアッシュから聞いて気になってんだ」
ボスがそう言って口を割った。それと同時に柔らかい雰囲気が一気に絞られた雑巾の様に引き締まって、皆の顔が真面目な物に変わった。
「うんそうだな。でも一番は俺じゃないからさ。ミラ、話せるか?」
「うん、大丈夫。お久しぶりです」
後ろで待っていたミラに声をかければ彼女は頷いて前に出る。そしてボスとミラの会話が始まった。
ミラの口から語られたのはここまでの旅路が基軸となったものだった。フォード公爵の手を借りた事、帝国の魔道部隊の事、そして皇后、その裏にいる存在にまできっちりと言及した。それにはボスが時折質問を挟みながら会話したお陰だろう。ミラはそんなボスの様子を見ながら少しずつ情報を開示していった。彼女の話を聞いていると確かにそんな事もあったと改めて懐かしい気にもさせられる。プロトとの出会いも偶然だったし、ウィリアムとの和解も今思えばかなり強引な出来事でもあったし、旅路の途中で死んでいても変じゃなかった。それに未だ分からない事―自分の記憶に無い戦闘中の自分―なんかも残っている。もしかしたらノクスに聞けば答えが返って来るかもしれない。尤も聞くのは困難、それ以上に屈辱感と葛藤がある。
「こんな所でしょうか。此処迄で改めて質問はありますか?」
「いや、ねぇな。成る程、中々面白い旅路じゃねぇか。なぁ、ルーク?」
「は、そうかもな。ま、大変だったさ」
ボスが嫌ににやにやとした面でこっちへ目を向けてくる。ミラから見た自分、というのは新鮮な感じもしたがそれ以上に恥ずかしさもあった。髪に隠れている耳が熱い。よく見れば周囲の兄弟もボスと似たような顔をしていて非常に鬱陶しい。
「さて、ほんじゃ今の面子が揃った事情なんかも分かった。んで、要件は何だ?俺たちに頼みたい事があんだろう?」
ボスが場を仕切り直す。そう、本命はこれからだ。ミラもそれが分かっているだけに一つ頷いてから口を開く。
「はい。以前に言った通りの代価をお支払い出来ていない状況で貴方たちに頼む恥をお許しください。私は国に戻り、皇后、そしてその裏にいるノクスを打倒しなければなりません。貴方たちに依頼したいのは帝都への侵入になります。勿論、一緒に来てくれとは言いません。監査を抜けて帝都に入る方法を知りたいのです」
ミラがそう告げる。以前の代価、アガパンサス団の名誉だっただろうか。正直、今のボスたちを見れば分かる様にそんなものは微塵も気にしていない。何なら気が向いたら名前を替えて大陸を飛び交うだろう。金もどうせフォード公爵払いだからミラが気にするような事ではないがそれを気にするのも彼女らしいと言えばらしいだろう。
「帝都、ね・・・まぁ、そうなるよなぁ・・・にしてもルーク、お前の同族は結構過激そうだなぁ」
「俺だって嫌だよ」
ボスがミラへの返事を一旦保留にしてこっちに声をかけてきた。何の用事があるんだろうか。
「いや、俺もな此処で遊んでた訳じゃねぇんだ。だから帝国のバックに何かいるのは分かってんだ。それがお前の同族ってのは驚きだったけどな。でだ、そいつの名前は出てきてはないが今の帝国は幾分騒がしくてな。まさに戦争準備みたいにざわついてんのさ。ただ、外に向けて、って感じもしなかったのさ。だから何だろうなぁって思ってたんだ。変だろう、大国の一個簡単に吹っ飛ばせそうな目算があんのにアスケラに粉かける様子もねぇってのはよ。でも、今合点がいったのさ。そいつはお前たちを待ってんだ」
ボスが何時に無く真剣な顔でそう言いのける。どうやってその情報を入手した等聞く様な事は今更しないが、成る程そんな動きがあるのかと渋面を浮かべる。
「当然騎士団の連中も殺気だってるしよ。まぁ調べんのも大変だわ。でもそう言うことかと思えばまぁ納得もある。で、そんな帝都にねぇ・・・」
そう言うとボスは机に足をのっけて後ろに寄りかかる。渋る様な姿勢だ。珍しいとも思った。何か懸念が、警戒されている以上のものがあるんだろうか。
「あぁ、ルーク、そんな不思議な話じゃねぇんだ。ただ、今の帝国はかなり近付きづらい、っつう話だ。何せ、そこのプロトっつったか。そいつの同類の姿が一気に増えたのさ。俺でも知ってるくらいにな」
「は?そうなのか?」
「おう、最初は思わずお前らが騙されたか寝返りまで想像したぜ。ま、そんな事は無さそうなのはもう分かっているけどな。ふぅ、俺の伝手も随分使えなくなってる。だから困ってんのさ」
「それ程までに魔道部隊が・・・」
ミラが愕然としたように零す。無理もない。こっちからすればこれは秘匿されるもので、披露するなら大々的に戦時中だと思っていたからだ。でもボスの言い口は普通の警備兵に混じった位の雰囲気だ。
「まぁ、厄介さ。魔法をこんだけ自在に使える奴らが増えんたんだ。だからちょっと考えてんだ。助けてはやりてぇが、それで俺たちが死んでも困るからな」
そう言うボスの顔は浮かない。だけど理由が理由だけに詰め寄るわけにもいかなかった。
「・・・吾輩の情報と合わせれば帝都に入れないか」
「ウィリアム?」
後ろでジッと控えていたウィリアムが突然口を開いた。
「吾輩はこれでも元騎士団長である。故に裏道は幾つか知っている。勿論向こうも知っているのだろうがそれでもそちらと合わせれば良い道の一つなら見つかるかもしれん」
「へぇ、成る程なそりゃいいが・・・お前さんよりもう一人の方がよく知ってそうじゃァないか。その辺はどうなんだ?それに俺たちは盗賊だぜ?そんなもん教えていいのか?」
ボスが疑い、試すような顔を向ける。
「そう言われればそうである。しかし、今はそうも言えぬ。それに・・・ミラ様が帝都にお戻りなられたなら吾輩が確りとすれば良いだけである」
そう言うウィリアムの顔には久しぶりと言えば良いのか、騎士らしい顔が真っすぐに浮かんでいた。その威圧は久しぶりで目を丸くしてしまう。
「ふ~ん、覚悟は十分、てわけだ。なら良いぜ。打ち合わせてみっか。それとプロト、お前さんにも協力してもらうぜ」
「え、ボクも!?」
ずっと蚊帳の外だったプロトが突然指名されて驚きに身を震わした。
「おおよ。何せお前の兄弟がわんさかいるんだ。だからお前を基軸に戦力の計算がしたいのさ。だからちょっと手伝って貰うぜ。それとルーク。お前は暫く皇女ちゃんと船の仕事でもしてろ。その間にやっといてやる」
「流石だな、ボス。ありがとう!」
「ありがとう、ございます」
ミラと顔を見合わせる。何とかボスの協力が取り付けられた安堵がある。勝算があると言っても危険に飛び込むには変わらない。だから断られる可能性も十分だった。でもボスは決めてくれたし、周囲の兄弟も反論は無さそうな表情だった。
「ふん、それは事が終わったらでいいぜ。それと報酬もタップリだ」
そう言ってボスはあくどい顔で大笑いをする。それに部屋の皆の空気も到頭緩み切って笑った。
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