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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
四章⊟~ルークと原点

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2話

「はははは、何とかなったじゃないか!」

息を切らし、膝に手をやりながら思いっきり笑う。戻ってきたサルーグの石畳に流れた汗が黒い染みになって広がる。

「ご、ごめん、ね」

プロトが肩を窄めながら落とす。声色にも力がない。

「気にすんなよ!出れたら一緒さ。後は急いで街から出るだけだしな」

そう言ってやるがプロトはいまいち気が持ち上がって来ない様だった。まぁ、完全にサルーグから出られば失敗は帳消しに出来るし、ミスは誰にでもあるのだ。仕方がないと思う。


箱に入ったまま船着き場に到着した後、そこで逃げてしまおうと判断した。箱の外から聞こえる声を頼りにすると倉庫に入る前に検品するようで、此処で出てしまった方が楽そうに思えたのだ。何より船着き場なら商人の部下だけでなく、そこを仕事場にしている連中や、物運びの奴も多いのだから、そこに紛れてしまえば逃げやすいと思ったのだ。

船着き場で一旦荷物として下ろされた後、箱に傷を付けて穴を空けた。そして光が入ってきた部分の板を外す。都合は多少悪く、本来の蓋の部分ではない。でももう後は時間との勝負なのだからと大胆に外してミラと共に抜け出して、時間稼ぎに布を被せておいた。

「どうするの?」

「兎に角、二人の箱を探そう。で、出ちまったら・・・あそこだな」

船着き場の隅を指さす。流石に正規の道を使うわけには行かない。だから避難口を指さす。何処に繋がっているかは分からないが少なくとも外への道だ。それに頷いたミラを連れて兎に角目印を付けた箱を探す。

目的の箱は直ぐに見つかった。出来るだけ分かりやすくしていた事もあったから直ぐに同じように箱を開いてウィリアムとプロトを引っ張りだした。ウィリアムは凝った体を解すように捻って、プロトは埃を掃う。

「ほら、行くぜ」

準備の出来た2人へ手を招き、避難口の方へ向かう。ただ、周囲の人も増えてきた。本格的に急がなければ流石に外套を羽織った4人組は悪目立ちをする。周囲は顔を隠すような恰好をしていないし、身なりも汚れてはいない。自分たちは明らかに異物に見えるだろう。今も時折目線が遠くから向いている。それこそ「あんな奴等いたか?」というような視線だ。ただ、船着き場の裏手だから雑多としているから大声で指さされていないだけだ。商人様の船着き場に間違えて来てしまった旅人位に思われれば良いのだがと思いながら足早に避難口へ向かっていた瞬間だった。

「あ!」

プロトが窪みに足を引っ掻けてしまった。一番体格が小さかっただけに早歩きで遅れない様に頑張っていたのだが、商人様の船着き場は正直客や観光の場よりも雑多としていたから足が引っかかって、大きく転んだ。そして運悪く積みあがった荷物へぶつかった。大きな音がして耳目を一気に集めてしまったのだ。

「やべ」

思わず背中に氷を入れられた様な震えが足元から天辺に奔り抜ける。しかし、大騒ぎするわけにも行かない。急いでプロトの傍に行けば、彼は運よく無傷だった。ただ、荷物に傷が付いたのだ。

「逃げるぞ!」

小さく、でも仲間に聞こえる位の声でそう言うとプロトを無理矢理に立たせる。既に気が付いた商人の部下が大声でがなりながらこっちを指さしていた。捕まれば大事になる。最悪奴隷だ。そうしたら無事には再会出来ない。急いで避難口へとひた走った。


「で、でも」

「いいっていいって。何か普通に楽しかったぜ。最近はこんなことも少なかったしさ」

アガパンサス団の皆を探しに行く、そう決まってから彼らに思いを馳せることも少し増えた。ドタバタと、不安定な道を馬車で暴走するような日々だった。だからかこういった騒ぎは嫌いではない。

「失敗は失敗。でも次しなきゃいいんだからさ。それにこの無理な道を選んだのは俺だしな。それよりもさっさと街から出ちまおうぜ。ミラとウィリアムはもう行ける?」

「えぇ、ふぅ。大丈夫よ」

「問題ない」

ミラが大きく呼吸をして整える。ウィリアムはいつも通りだ。それを見て、まだしょぼくれた感じのあるプロトの肩を軽く叩いて無理矢理にでも前を向かせる。しょぼくれたプロトは余り見たくない。それよりもアレコレと目を輝かせている方が彼には良く似合う。


そうして足早にサルーグを飛び出した。幸い追っ手には出会わずに済み、颯爽と平原を駆けていく。あの商人が戦闘員をどの程度持っているかは知らないが此処迄来れば大丈夫だろうし、来ても何とでもなる。悪いとは思うがそこは勘弁してくれと勝手に空に願った。そして日も暮れて焚き火を囲む。目立つからあまり焚き火はしないが箱の中で味気のない食事を暫くしていた事もあって、温かい物がどうしても食べたくなったのだ。それに箱の中という閉鎖的な暗さは気分を沈めた。だからそれを振り払うためにも、夜空の元で焚き火をした。

「やっぱ、これだなぁ。旅の唯一の楽しみにも思える」

大鍋に適当にお湯を張って、全員が口に出来る物だけをいれたスープを作る。主食になる様に穀物も入れて膨らませれば腹の足しにもなった。何より胃の底から温まるのがお湯に浸かった様な心地になる。

「ふふ、そうね。私も乾燥果物だけだとちょっと味気なかったもの」

ミラも楽しそうに口へスープを運ぶ。その横では気を取り直したプロトが夜空を見て、楽しそうに星を繋いでいた。

「ウィリアム、悪いんだけど塩とってくれ」

静かに器を傾けていたウィリアムに言えばチラリと視線を向けて小瓶を渡してくれる。さっきはそのまま飲んだがやはり味がうすい。ウィリアムやミラに合わせるとどうしても味が自分には足りないのだ。だから色んな調味料を持っているし、一番濃い味なのは自分だった。というかアガパンサス団でも自分が一番濃い味を好んだ。それこそ獣種に自分の好みを口にさせれば渋面すら浮かべる。どうにも味覚が大きく違うらしかった。


それから旅の行程を改めて確認してから交代で眠りに付く。此処からは再び徒歩の旅になる。思い返せば旅が続くとどんどん出会う事が大きくなる。出来れば今回の徒歩は楽だと良いけどと苦笑いを浮かべた。

「ねぇ、ルーク、まだ起きてる?」

もう寝ようと思った時、ささやく様にミラが身を寄せて声を掛けてきた。

「どうした?」

顔を横に向ければパチッとした目のミラと目が合う。何だが気恥ずかしい感じもあるが箱の中で数日一緒に居たからか自然な気もした。

「うん、何だか不安になっちゃって。これから帝国に戻るでしょ。だから、大丈夫、なのかなって。私はキチンとお母さまに立ち向かえるか不安に思ったの」

そう口にする彼女の目は心情を表す様に揺れる。そうか、彼女はこれから実の親と本格的に向き合うのだ。これまでは背を向けていたが、これからは目を今の自分と同じように合わせるのだ。それは確かに、怖いだろう。自分の生まれた国、家族、それらが全て敵になるのだ。その恐怖は少しだけ、今なら分かる様な気もした。自分もあのノクスと会話した時の様に、自分の信じて築いていたものを横殴りに、粉々にされたあの感覚がムクムクと湧き上がる。彼女はずっと、それと戦って来たのか。そう思った。だから何を口にすれば良いのかも難しく、簡単に励ますのも、なんだか違う様な気もした。

「あなたも不安?」

間違いなく、ノクスの事だろう。不安か、不安だ。激情に呑まれやしないか。結局真実は何なのか。あれ程心が乱されたのに、いざ離れると再び心がアレに惹かれるのは何故か。何も分からない。そして今はそれが怖い。

「そう、だな。あの時は否定したけど。やっぱり、俺とアイツは間違いなく何かで繋がってる。だからその繋がりが何なのかは気になるし、知ったら戻れなくなりそうで怖いさ」

「そうよね・・・」

そう言うとミラは黙り込む。でも不思議と目は合い続ける。互いの瞳の中に、何かを見つけようとしていたかのようだった。言葉はない。でも確かに会話していた様にも、慰めあった様にも思えた。

「分からない事だらけだ。でもだからこそ、俺たちは帝国に行くんだ。そうだろ?」

「そうね。うん、そう。私たちは、私たちの目標を達成する。それが約束。ありがとう、ルーク。少し気が楽になったわ」

「そうか。ならもう寝たほうが良い。明日もたっぷり歩くからな」

そう言えばミラは小さく頷いて目を瞑った。そうか、やっぱり彼女も不安なのだ。そう思えば一人じゃない気がした。これから帝国領に入る前に、後の2人とも改めて話しても良いかもしれない。ウィリアムも母国と対峙するし、プロトは自分と同じようにノクスに因縁がある。うん、またこうやって夜に語らうのもいい。そうしようと思って自分も目を閉じた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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