表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
四章⊟~ルークと原点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/82

1話

ムニオを立ってから数日が経った。心の中は暴風が荒れ狂った後の強制的な静寂と荒廃で持って静けさを保っていたが、それは望んだ形では無いが故にジクジクと膿んだような痛みが胸の奥に留まっていた。それでも幾らか吐き出したお陰か、はたまた時間が少し経ったお陰か、乾いた笑みにも艶が出てきた。あの日の遭遇も次第に思い返せるようにもなった。そのせいでムカムカとした苛立ちも腹の底に溜まったが胸と比べれば幾分マシと言えた。


「俺たちが次に行くのは『サオルサ』だ」

旅立ち前の事を思い出す。何せムニオで求めた物では無かったが本命と言ってもいい相手に会えたのだ。後はどうにかしてあれをとっちめてやると気炎も吐いたのだ。それが化かした火であっても意気は本物だ。その意思を通す為にアガパンサス団と一度落ち合う事になったのだ。サオルサは落ち合える可能性の高い国で仮に外れてもアスケラ王国へ行けばいい。そうすれば時間が掛かろうが、公爵と馬鹿し合いに成ろうが絶対に会えるのだ。だから今はボーナスを求めてサオルサに向かうのだ。なに宝は取りに行かなければ手に入らなう。そう熱弁もしたのだ。盗賊らしさが出たのか久方ぶりにウィリアムには眉を顰められたがその語りが面白かったのかミラとプロトは笑ってくれた。ならまぁ良い記憶だと思い出を振り切った。


サオルサへは徒歩と飛空艇を混ぜる事にした。本当は時間を思えばムニオから全部飛空艇が望ましかった。ただ、それだけの金銭がやっぱりない。それ故に時間と金銭を天秤に掛けた結果こうなったのだ。無いものはない。最初を飛空艇にしたお陰であの糞森を抜ける必要がない。これだけで十分だ。だからサルーグから歩く事になる。サルーグは以前とは違って留まらない。商人の国で商人を掻き分けて金を稼ぐことは出来そうにないからだ。それに彼らは見た目を酷く気に使う必要がある。其処へ身元の不明な奴等を雇うというのはあまりないし有ればその分怪しさが他国より増す。だから早々に離れて、森を迂回しながらサオルサを目指す。距離で言えば結構だが今更それにへこたれる様な面子では無かった。

「・・・ちょっとだけ詰められるかしら」

「ん、あぁ良いぜ」

暗い中、ミラの声が聞こえて横にずれた。とは言えそんなに隙間もない。彼女の息遣いも聞こえる程で、隙間から差し込む薄明りで彼女の横顔が見える。ミラは同じ姿勢だったからか固まってしまったらしく、暫くもぞもぞと座りどころの悪い猫の様にしていた。

「思ったより、上手くはいったけど、思ったよりキツイのね」

「まぁ、そんなもんさ。なに、ウィリアムよりはマシさ」

彼の事を思い出す。その体格から少し困ったが流石はサルーグ行きだ。彼の体格でも何とかなった。ただ、何だろうか。彼の目が若干遠くなっていた。まぁ、どう考えても誇りは全て落っこちただろう。でもそのお陰で軽くなったのだ。許してほしい。

「プロトは、何ともなさそうだったし、まぁ、平均したら皆一緒って訳だ」

「出来てるかしら・・・?」

「良いんだ、細かいことは。大事なのは結果さ。なにせタダで飛空艇に乗れたんだ。これ以上ないぜ」

そう、今自分たちは貨物だった。勿論許可など取っていない。幾らムニオで4人、頑張って働いたって身元の分からない貧乏人を飛空艇に乗せてくれる筈もなかった。金が有れば話は別だがやっぱり身元不明を乗り越える金額はない。だからサルーグ行きなのを良いことに木箱に入って商品のフリをしているのだ。勿論、ちょっとした知識が必要だが其処はお手の物、鍵何とするものぞと空けて中身と入れ替わってやった。お陰で無料で飛空艇に乗れたのだ。後は日数を計算して到着日にタイミングを見計らって出ていくだけだ。最悪は強引に逃げる。こっちには力自慢も魔法使いもいるのだ。番人程度問題ない。後はそのタイミングが荷下ろしか、倉庫かの違いだ。勿論静かに行けるならそれに越した事はない。


結果、サルーグ迄5日は揺られただろうか。そこまで質の良い船出ないだけに時間も掛かったが大きな問題は無くサルーグに付いたらしい事が分かる。船の動きが変わったからだ。それと同時に倉庫の付近を慌ただしく踏み鳴らす音が良く響く。間違いなくサルーグ迄来ただろう。

「こっからは静かにな。流石に空は逃げられない」

「えぇ、勿論よ」

箱生活も大分慣れた。厳しい事の方が当然多いが、それでもタダな事と数日の我慢が気を持たせた。それこそトイレも簡単ではないのだ。箱から出入りする姿だけは見られてはいけない。しっかり吟味したお陰でこの船が一人の商人の物しか積んでいないから見張りは大分少ないがそれでも箱の出入りは勿論、倉庫の出入りも人目に付きたくはない。ただ、廊下とかは顔を隠すように深くバンダナを巻いたりと工夫が必要だったが案外堂々としていれば問題ない。まさか侵入者が笑みを浮かべながら挨拶してくるとは思わない。それに結構船も大きいとなれば人の数も自然増える。だから何とでもなるもんだ。大事なのは自信と思い込みだ。


大粒の雨音の様な足音が近くで幾度も繰り返される。胃の中が浮く様な感覚と共に揺れも強くなる。降下し始めたに違いない。息を顰める必要の無い位に音が四方八方から響く。それでも息を顰めた。最後こそ大事だ。ミラが咄嗟に自分の服の裾を掴んだ。軽くとはいえ、引っ張られて彼女の方に体が寄る。薄っすらと、月明りに咲く花の様な人目を避ける癖に姿形も見えない内から香りを漂わせる花みたいに、上品ながらも欲ばった様な香りが一層強く鼻を刺激した。なんだか別の意味で胸が高鳴る。以前にも感じた事が有るがやっぱり彼女に近付くにつれてこの言い表せない衝動が強くなる。でも、それを振り払って彼女のいない方へ腕を突き出して突っ張り棒にする。そうすれば揺れが多少は良くなった。でも自分の胸中が酷く揺れる物だからやっぱり余り変わらなかったかもしれない。


「倉庫っぽいなぁ・・・」

暫しの間揺れを楽しみながら苦しんだのち、周囲の音を聞きながら独り言を漏らす。どうやら一人で飛空艇を飛ばせる様な豪商だけに自前の倉庫にまずは荷物を入れるらしい。となればその時に中のチェックもするはずだ。それまでには脱出する必要があった。悪くはない。最悪下ろした直後に開かれる可能性もあった。それと比べればまだマシだ。

「どうするの?」

落ち着いたミラが問いかけてくる。もう心の乱れは無くなった様でいつもの自分達だ。でも少し、名残惜しいような気がしたのは何故だろうか。

「うん、一番は倉庫前に出ちゃうかなぁ・・・ただ、結構運なんだよな。でも倉庫に入れられてからよりは逃げやすいから・・・」

倉庫の手前でチェックされたらかなり面倒だ。だから船から下ろされた直後、一旦置いておく空きに出てしまいたい。ただ、運が悪いと上に荷物が載っていたりするからやっぱり此処も運だ。特にウィリアムの箱は大きく、彼の重量もあって下敷きになる可能性がある。勿論対処法は十分にあるし、対策もしたが四方八方を囲まれたら箱すら分からなくなってしまう。これは避けたい。

「まぁ、その辺りは貴方に任せるわ。期待してるわよ、盗賊さん」

そう言ってミラがカラカラと笑った。ならそれに答えないとな。自然とそう思った。うん、やっぱり彼女は笑っている方が良いし、これが永遠であれば尚良いと思った。



良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ