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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
三章 ~ルークと立ち向かうべき真実

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19話

「フフフ」

カツンカツンカツン、硬質な音を立てながら、軽やかに舞う小鳥の様に、春を歌う風の様に、或いは無法者の宴の様な足音が廊下に響く。誰にも止められない。そんな感情を孕んだ足音が無人の空間を支配した。

「ハハ、フフフッ!」

漏れ出す笑いは耐えきれなかった口端をたっぷりと上に上げて、猫の口の様に円を描く。見れば誰でも上機嫌だと分かる程度には喜色がべったりと顔に張り付いていた。

「ハハハハハハハ!!」

遂に決壊したダムのように大きな笑い声が響く。笑いの主はお腹を抱えており、きっと此処が自室であるなら笑い転げもしただろうと思うほどに膝を曲げ、頭を稲の様に垂れた。それに合わせて黒紫の髪が花火の様に広がっては花びらの様にハラハラと落ちていく。癖の有る髪は自由に、気侭に、本人の性質を何よりもまざまざと示した。

「いやぁ、やっと会えたね、ルーク」

一頻り、歓喜を抱きしめて賛歌を口にしたノクスはその熱を籠らせながら名前を口にした。彼の頭の中にはルークの顔が、声がまざまざと残っており、それが憤怒と混迷だったとしても一切関係がなかった。彼にとって、さっきの出会いは戦争で離れ離れになった恋人が長い年月にあっても互いを忘れず、苦境を乗り越えての再開のワンシーンだった。輝きと愛に満ちた、涙なしには見れないクライマックスだ。実際、ルークの心とは一切真逆だったわけだが、彼にとっては関係ない。彼の脳内においては互いに再開を喜び、再び共に歩める未来を掴んだのだ。ルークの言動を聞いていない訳ではない。理解しない訳ではない。それでもそれを塗りつぶすだけの激情が彼の中にあっただけだった。


「フフ、ダメダメ。もう少し隠さないとね」

一頻り歓喜を謳ったノクスだったが少し落ち着いたのか、それとも場所が城の廊下だった事をようやく思い出したからか、口端に白魚のような指を当てながら上がった口角を整えて、生まれたての仔馬の様な足取りを確かなものへと戻す。しかし目尻は下がって丸みを帯びており、お菓子を前にした子供の様な表情のままだった。頬は化粧をしたように赤らんでいたし、戻した筈の口角は反発するように少しずつ上に上がっている。結局情事後の様な表情の儘にノクスは廊下を歩く。幸い彼を見た者はおらず、もし居たとすればどのような種族の者であっても彼に思慕を抱かずには居られなかっただろう。


ノクスにとってルークは疑いの余地など一切ない程に自らの同族であった。ノクスはこの世に生まれた事の意味を知っていた。与えられた使命はこの世界を前に進めるという事だ。誰に言われた訳ではない。ただ、生まれた時から知っていた、という話だ。それはこの世界の意思が彼へ直接流れ込んだような強引さで、理解したのだ。

ノクスは生れ落ちてから世界を巡った。この世界を前へ進めるにはどうすれば良いのか迄は知らなかった。東奔西走、南船北馬、賢者に会っては愚者とも会った。自然に溶け込み、街に馴染みんだ。あらゆる物を目にしては手に取って、感情を揺らしてみたりもした。そして出した結論はこの世界は行き詰っているという事実だった。

多種多様な種族はいても交流は物だけ。新たな種族は既に長い間誕生していない。動物も人々も、草木や路肩の石一つ取っても新たな物はなかった。まるでクローンを幾つも生み出しているような、そんな事を正直に思うほどに世界は変化に乏しかった。金鬣族の鬣は何時まで経っても直毛の一つも出ない。転瞳族の瞳が十字に割れる事はない。陸鱗族の鱗が柔らかくなることはなかったし、鳴嚢族の喉袋が二つになることは無いし、水精族の体から水分が抜ける事もなかった。今までと同じ、何の変化も世界はなかった。族を名乗れない動物はもう見た目の区別もつかない。虫に至っては誰かが型へ蝋を流し込んで大量に作っているんじゃないかとすら思えた。

世界は変わらない。変化しない。箱庭の中で、延々とループしているような。駄目になったらやり直し、そんな滞りを肌全体で感じていた。そんな中、見つけたのだ。何も持たぬ赤子。自分と同じ何も待たぬがゆえに何にでも成れるもの。世界を前に進める為に必要な未知と可能性に手足を生やした存在、それがルークであり、自分の半身だった。種族だけの話ではない。正しく分かたれた半身だったのだ。

ノクスは直ぐにでも確保しようとも思った。しかしそれで何か悪影響が出る可能性も否定は出来なかった。それに自身と同じ存在なのだから、必ず自らと同じ結論に至って、この手を取ると確信もしていた。だから常に恋焦がれる少女の様に見守りながら事を進めていた。そしてつい先日、漸く手も空き、丁度よく話すタイミングも生まれ、何より只背を見せただけにも拘らず、あんなにも一心不乱に自らを追いかけてきてくれたルークと会おうと決め、ムニオの路地で対面したのである。結果に付いてはお互いに相違があるがノクスの中では悪くない初対面として記憶されていた。


「でもあの後ろに居たのは戴けないなぁ・・・」

夏の花よりも輝かしい表情を浮かべていたというのに、ノクスは呪詛を零すように小さく口を開いた。さっきまでより低く、唸るような声は肝が潰れるような怖さを伴っていた。しかしノクスの自室には彼しかいない。だから彼の負の感情を受け止めたのは精々が家具位だ。それでも心なしか軋んだ様な音が波紋のように広がった。

「僕のルークの周りをうろつくあの羽虫共め・・・」

別にノクスの物ではな無い。だが何度も言うように彼にとってはルークは半身で常に共にいるべき相手なのだ。

「まぁいい。あれらはいずれ排除するしね。それに、ルークは僕よりは使命感は薄そうだし、だから一緒にいるんだろうね。それでもいずれ、キチンと理解して僕の隣に来る。そう、これは決まったことだ」

白布に零したコーヒーの様な負の感情もルークの事を思えば一瞬で抜けて元の白に戻る。尤もそうで無ければ彼が帝都で皇后を相手にしながら住む事は出来ない。全ては自身の目標、この世界の選別と再構築の為、そしてルークと共に新たな世界を作る事に思いの全てが行っている為に、彼が下等と定めた者と関わる事が出来るのだ。プロトやその後継機を作ったのも最初は下等生物と定めた者に関りたくないからだ。ただ、その途中でこれは世界を一度均すのに丁度いい気付き、方向転換したに過ぎない。そしてプロトがルークの元に居ることには何ら気を割いてはいない。精々、もっと性能の良い物を横に置いてあげたいという感情こそあれ、自らの創作物を恋焦がれる相手が持っていて大事にしてくれているのは悪い気はしなかった。


「さて、何時頃此処に来てくれるかな」

玉座と見まがう椅子に腰かけ天井を仰ぐ。ルークたちの次の行動位はノクスは当然分かっている。ルークが一時的に身を寄せていたと思っているアガ・・・なんとかと合流を目標にしている、そしてこの帝都までやってくる。そう、自分に会いに来るのだと、ノクスは胸を昂らせた。決して彼が思うような形では無いのだが、彼にそんな言葉をかける者はいないし、彼がルーク以外の言葉を聞くわけも無かった。

「さぁ、早く来ておくれルーク。あぁ、でも上手く彼らが会えるように手筈を整えておこうかな。うん、そうしたら早く会えるからね」

ノクスはそう言うと人形を呼び出して指示を与えた。そして再び沈黙が訪れた一室で一人、笑いながら望んだ未来を思っていた。

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