18話
宿に戻ってからは全員に改めて頭を下げた。尤も宿に居たのはプロトだけで、ウィリアムは広場の外に一人立っていた。これにはミラも驚いていたあたり、まず自分が宿に出たのにミラが着いて来て、当然の様にそれらに気が付いたウィリアムが護衛としてくっ付いて来たと想像できた。プロトに関しては寝ている間はどうやっても動けない。とはいえ、流石に宿の中で問題は早々に起こらないと彼も判断しただろうし、確かに外に出てしまったミラの方が気にかかるというものだろう。
仲直り、喧嘩をしたわけではないが酷く湿っぽく、一時的に出来てしまった隔たりを埋め直したとなれば次にするのは今後の事だ。
「それでどうする?流石に帝国にトンボ返りって訳には行かないしなぁ」
部屋の中、それぞれの場所で腰を下ろして作戦会議が始まる。正直言えばまだ心の整理は付いていない。それにミラに言われたような自分達についての会話も出来る余裕も無かった。それでも世界は待ってくれないし、ノクスと名乗ったあの男が何か状況を進めないとは思いにくかった。あれは間違いなく世界に良くない変革を齎す。その核心が全員の心の中に共通認識としてあった。
「そうね・・・今の私たちがそのまま帝都に戻っても、捕まるだけ。かと言って何か良い手がそこらに転がっているわけでも無いものね」
ミラが思案顔を浮かべる。彼女の言う通り、もはや本命に真っすぐに行った方が良いのだが、立ちはだかる問題の壁が厚すぎる。何より公に指名手配されてはいないだろうがそれでも帝国軍が探していない訳が無いのだ。それは魔道部隊のような物だけではなく、末端に至るまで、だ。特にミラの顔もウィリアムの顔も有名と来れば帝都へ只では戻れない。必ず何かしらの伝手が必要だ。
「フォード公爵にまた頼る?」
プロトが口を開く。それも悪くない。ノクスの口ぶりからすれば間違いなく大規模の戦闘を起こす。その最初の標的がアスケラに決まっても決して可笑しな物ではない。であれば彼らに取って、こちらへ手を貸すのは渋る事じゃない。それに絶対に味方として行動することになるのだから、今からより距離を縮めに掛かるのは良い手とも言える。ただ、借りは借り、公爵だって一つの国の頂点付近に位置する官僚だ。ミラ相手だからで事が終わった後に加減してくれるとは思わない。今の帝国を思えばやっぱり力を削ぎたいと思うのは当然で、傀儡のような事は画策しないとは思うが、それでも頼り切りは良くない。それに事が終わった後、完全にアスケラの手柄にされてはミラが思い描く帝国の未来に影が掛かる。事実、プロトの言葉にミラは首を振った。
「いいえ。もう、大分危うい所にいるとはいえ、これ以上容易にアスケラに下支えをさせる訳には行かないの。勿論、いざと成れば私は頭を下げるし、その為の準備だってしてもらおうと思うわ。事が終わって、私の婚姻相手の選択権が渡ったって構わないの。でも、出来る限り、私たち、帝国人が帝国の問題を片づけた、そういった印象を民や世界に示さなければならないの。そうでなければ事が済んだとしても帝国は無くなるわ。でも私が旗になり、例え実の母だとしても私の声で断罪を済ませ、その後ろにいるノクスも退かせられれば民意は帝国に残すことが出来るの。だからあくまで私たちの功績が輝かしく、確かな物として見せなければならない。アスケラの軍艦が帝国を覆っても私たちの勝ち、とは言えなくなる」
「そうですな・・・我らは既に崖を落ちているような状況、とはいえ、迫り出した木の枝、岩が見える、といった所でしょうか。辛うじて、此処からハッタリにハッタリを重ねて行けば民意は拾えましょうな」
ウィリアムがミラの言葉に賛同するように首を振る。まぁ、自分も平民、というのも憚られる様な者からすれば上のごたごたは割と遠い別世界のようなものだった。王が死んだのが他殺か自殺か老衰かの区別だって正直興味はない。自分たちの明日の飯代の方がよっぽど気になる。要は明日も今日と同じように過ごせるか否かだ。だから自分たちのトップが仮に他国の人間に擦り替わっても生活に変化が無ければ気にしない。それでも強い頂点の元に暮らしたいのはそうだ。だから上に立つなら民意がいる。それをアスケラに奪われたくはない、そう言うことだった。
「ねぇ、ウィリアム、あなたどうにかしてブライヤと連絡が取れたりしないかしら」
ミラがウィリアムの言葉に反応して問いかける。ブライヤ、ウィリアムの同僚だろうか。どこかで聞き覚えがある様な気はするが。
「ブライヤ、ですか・・・申し訳ございません、帝国を出るときには身一つでしたのでそのような物は・・・ただ、私の直属の部下に何とか接触できれば、運しだいですが取引出来る可能性もあります」
ウィリアムはそう言って首を傾げた。
「そう・・・もし、ブライヤに話せれば何か変わるかもって思ったんだけど・・・彼女が今の帝国の在り方に気が付いているなら全部が全部従っているわけじゃないと思うの」
あぁ、思い出した。確かウィリアムと戦った後か何かに聞いた名前だ。ウィリアムと同じ騎士団長だっただろうか。成程、その位の高位の相手と通じられれば良い手に変わるかもしれない。確かウィリアムの反対のような相手とも聞いている。
「そうですね・・・彼女なら、吾輩が知らない事も知っているやもしれません。元より貴族の出ですから。皇后様からの信任も篤いですし。やる価値自体はあるかと」
「なぁなぁ、そのブライヤって人はまず信用できるのか?俺は詳しくないから何とも言えないんだけど」
割り込んで申し訳ないとは思うが自分の命も乗っているようなもの、気になってしまう。
「えぇ、私の姉の様な存在、かしら。幼い頃によく遊び相手にもなってもらったの。うん、私は信用してもいいと思うわ。彼女は決して周りを害するような形で何かを叶えようとする人ではないわ」
「吾輩も彼女であれば、と思いはする。ただ、同時に吾輩よりも柵の多い奴だ。完全に信用、というのも気は引けなくもない」
「そっか。まぁ二人的には良い相手、もしくは一度くらいなら秘密に話せそうな相手ってことだな?」
そう聞けば二人ともに立てに首を振った。
「なら、其処を糸口にしても良いかもな。それと何だけどもし、帝都に侵入するなら俺の家族、アガパンサス団を探さないか?俺たちのボスなら何か良い道を知ってるかもしれない。まぁ、ミラたち的には頼り難い相手だと思うけど、公爵に直接頼むよりも借りは少なくも出来ると思う。うん、俺が間に立てばもしかしたらだけど、ボスも少しはこっちに寄ってくれるかもしれないしさ」
思い出すのは別れた家族たちの姿だ。彼らと別れて結構な月日は経った。もし無事に生きているなら何かで連絡も取れるかもしれない。それにフォード公爵の手駒ではあるかもしれないがそれと同じくらいロクデナシでもある。だからボス次第で上手くいけば一度くらいなら公爵にも黙ってくれるかもと思えなくもない。ただどのくらいの関係性があるかは不明だった。
「そう、ね。彼らにまた手を借りる、というのはアリね。何せ大胆にも真正面から来て逃げられるのだから」
そう言ってミラが微笑む。そう、俺たちは盗賊団でもある。だから帝都であっても何かしらに通る道か人がいてもいい。
話は時折躓きながら進む。決まったのは帝都に踏み込んでブライヤに接触して見ることだ。やはりノクスに迄辿り着くなら避けては通れないし、皇后の野望、本人が抱いたか、抱かされたかはもう分からないが止めるにも彼女の力は欲しい。それに立て直しを考えるなら貴族に強いパイプがある彼女を無視できない、という話だった。その辺りはどうにも自分では分からない領域だが、ミラとウィリアムという国を実際に動かせる立場に居た者の話を信じておくべきだろう。
「なら、まずはアスケラに一旦戻るか。それとも飛空艇を直す為の場所でも探してみるか?多分此処にいるだろう、っていう当て位ならあるけど」
帝国で別れたが彼らの目的とボスの思惑を辿ればおおよその場所は分かる。賭けだがそっちに居ればより早く事を済ませられる。
「そうね・・・ルークはどこにいると思う?」
「そうだなぁ・・・多分アスケラにはいないと思うぜ。船もそんな簡単には直らないだろうし、金とかの事もあれば、集合もするだろうし、アスケラにはまだ辿り着けてない気はするな」
アスケラで集合等といったが案外皆適当な奴等だ。船もどうせノンビリ直してるに違いない。何ならボスはこれ幸いと遊んでいても変ではない。仕事は熟すが確りと休むのも特徴だった。
「なら、貴方の当てを目指しながら行きましょう。アスケラもそう遠くないのでしょう?」
「あぁ、そうだな。船さえ乗れれば直ぐだと思うぜ」
「なら、そうしましょう。で、帝都の伝手があり次第方針を詰めましょう。それでいい?」
「貴方のご随意に」
「ボクはそれでいいよ」
不満は無いらしい。ならサッサとこの国を出るだけだ。正直、この国にいる限りノクスの幻影が頭をチラついて仕方がない。そして旅は新たな方向へ行くことになった。
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