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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
三章 ~ルークと立ち向かうべき真実

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16話

例の背中を追う。今度は走らない。ゆっくりと、同じような路地を、淡々と、重く、足音をカツカツと立てた。一定の距離が空いていて、前を行くのは例のアイツだ。その後ろを同じペースで追いかけた。その自分を追う仲間の戸惑いが背中越しに伝わってくるのが分かった。また、自分たちが只ならない雰囲気を出しているからか、そういった物に敏感な路地の住人達は夜中の様にひっそりと息を潜め、自分たちの姿を闇の中へと溶け込ませてしまった。路地には静寂と自分たちの音しか残らない。陽だってまだ世界を赤く染めるには至らない筈なのに、この路地は闇の底に沈んだようだった。その闇の中で眼の前を行く背中だけが松明のようにポッとよく目立った。


「さて、もういいかな」

路地を抜け、少しだけ開けた場所に出る。路地の心臓の様な広場は自分たち以外誰もいなかった。変な話だ。いっそ此処が尤も人が屯していたって変ではないのに、まるで自分たちの為だけに誂えた様な空虚が横たわっていた。その中央、舞台の主役のように立ち振る舞う彼が立ち止まって、風に舞う花びらのように翻って、その魔性に瞳で蛇のようにこっちを舐めた。


「会えて嬉しいよ、ルーク。本当はもっと早くに君を迎えに行きたかったんだ。でもそう簡単にはいかなくてね。面倒だったけど漸く時間が取れたのさ」

「お前は、誰なんだ?なんで俺を知ってるんだ?」

まるで数年会っていない友達の様に話しかけられる。そこには明らかな親愛が含まれているのが分かった。何ならそれよりもずっと深い、何かがあった。

「僕が君を知っているのは当たり前さ。君だって、僕を見て分かるだろう?」

そう言いながら両手を広げ、満面の笑みを浮かべる。美しい顔立ちだ。でもやっぱりその顔に見覚えはない。ただ、そう。彼の言う通り、自分は知っている様に思えた。でもやっぱり名前は出てこないし、会った事はない。ただ、今は離れているアガパンサス団の団欒を夜に思い出すような郷愁の念がぷかりと浮き出したような気がした。


「ふふ、でも自己紹介は大事だ。名乗ろう、僕はノクス。君の仲間、もっと言えば同族、さ」

「俺の、同族・・・?そう、なの、か?」

彼がアッサリと告げた語を頭の中で転がす。同族、同族、同族。彼の全身を頭の天辺からつま先の先まで舐めるように目を凝らす。

角はない。尖った耳が無い。対の目はアーモンドを横に倒した様な形で鼻は三角を引き延ばした様な形だ。唇は柔らかく、薄い菱形だ。白い肌はやや黄色が混じって不健康な感じは無い。背に翼はない。腕も脚も一対で指は5本だ。爪や牙も見えない。全身を覆うような毛は無くて、頭頂部や僅かな部分にだけだ。一見すれば精霊種の何れか、でも見れば見るほど精霊種でない事だけがハッキリと浮いて、世界で一人、宙に浮いているような存在感があった。


「勿論だとも。見れば分かるだろう?僕と君は同族。既存の、この世界に蔓延る奴等とは違う。選ばれた者さ」

恍惚と、熱に浮かされたような顔でノクスは口を開いている。しかし目だけはジッと、自分を真っすぐに見つめていて、それが底冷えするような感覚を背中に走らせた。


「ふふ、まぁそんなに固くならないでほしい。僕は今日のところは挨拶に来ただけなんだ。だから警戒しないでおくれよ。そうだ、ルーク。君にとって良い話も持って来たんだ」

彼の言葉を頭の中で咀嚼するのに時間が掛かる。それを警戒と感じ取ったのか、ノクスは口元に手をやり、上品に笑う。どことなくミラの笑い方に似ていて、恐らく性別が違うはずだがそれが良く似合ってもいた。

「良い話・・・?」

「そう、良い話さ。なぁに、君は僕にとって、大事な人だ。だから君にはあまり傷ついて欲しくないんだ。それこそ、君の後ろにいる雌を守る為、なんて理由で動いて欲しいとは思わないし、横の兵器の為も好ましくない。あぁ、獣も君のペットだというなら納得もあるけど、それでも僕がいれば良いしね」

「あぁ?」

何を言った?それが分からず素っ頓狂な声が漏れた。でもノクスはそれが気にならないのか、それとも聞こえなかったのか、草原で歌う様に言葉を続けた。

「ルーク、僕たちはね、この世界で選ばれたんだ。だからこの世界を正しい形に導く役目がある。君だって覚えがあるだろう?同じ物を聞いた筈だ。胸の奥から湧き上がるこの使命感を知っている筈だ!」

ノクスが右手で太陽を掴むように伸ばして握りしめた。言葉に疑いはない。動きに躊躇いがない。言葉に戸惑いがない。さっきまで、自分の感じていた事の全てを塗りつぶしながら夢の中で彼は踊る。

「だからさ、ルーク。君は僕と来るべきだ。それなら、まぁ、後ろのも君が欲しいなら生かそう。兎に角、僕たちは共にこの世界を正すべきだ」

ノクスは憂いのないまっさらな顔で光を掴んだ手をこちらへ向けて開いた。初雪の様な手は無垢で、疑いなど何処にも見当たりはしなかった。


「・・・何を言ってんだ?」

辛うじて漏れたのはくぐもった戸惑いだった。ノクスの言葉は頭の中に張り付いて、何を言っているのかは良く聞こえた。しかしその意味が分からない。まったく知らない言語の羅列を見せられている、それも普段使っている言語の兄弟の様な、知っているのに知らない不快感が胃の底から這い上がる。

「ん、昂ってしまった。でもルーク、僕の気も理解してほしいね。僕たちは漸く会えた兄弟だ。この世界でたった二人きり、他には誰も居ない同族の兄弟さ。だから僕たちは一緒にいるべきだ。そして僕たちの役目を果たすべきさ。その為に色々したんだ」

「何を、言ってるんだ?」

「そこの兵器もそうさ。この世界で僕たちが君臨するには一度均す必要があるからね。その為に作ったんだ。まぁ、まだ上手くいってないんだけどね。其処のみたいな出来損ないもそうだし、あの馬鹿が君たちに仕向けた欠陥品みたいのも多くてね。まぁ、兵器っていうのは難しいね。頭が良くちゃ困るし、求めた性能と利便性がある程度釣り合ってないと駄目だしね。そう言う意味じゃ、其処のは悪くないだけど自我がねぇ・・・強いのは駄目だ。欲しいのは「ハイ」だけ、領分を越えず、足りない事もない。いやぁ、難しい!」

ケラケラと、酒を片手に談笑するようにノクスは笑い、踊る。その度に昂っていた頭が低く、氷の底に沈むような感覚を覚えた。その内側には燻った黒煙が割れ目から吐き出す直前のように漏れた。


「さて!長々と語ってしまったね。それでルーク、君の返事が聞きたい!僕の手を取ってくれるね?」

それからノクスが何を喋っていたのか分からなかったが、彼の天体のように輝く目がこちらへグルリと向いた。差し出された手はやっぱり無垢だった。いや、彼の何処を見ても汚れなどなく、余計な皺も垢も無い肌は赤子の様だった。

「ルーク?」

棒のようになった自分を不思議に思ったのかノクスが小首を傾げた。そう言えば自分の後ろにいる仲間はどうしているんだろうか。何も聞こえない。怒っているのか、それとも悲しんでいるんだろうか。でも今はそれを気にし続ける余裕はなかった。


「ふざけるなよ・・・何が同族だ!俺は、お前とは違う!」

思ったよりもがなった声が路地を抜け、空に響いた。こんな大声出したのは初めてだ。

「どうしたんだい、ルーク。あぁ、何か気になることがあるのかい?」

しかしノクスは自分のこの感情を何一つ理解できていないのか、癇癪を起こした子供を前にした様な声で聞き返してくる。それも心底腹がたった。

「何がそうなのかは分んねぇよ!でも、俺と、お前がまったく違う事だけはハッキリと分かった!俺はお前と一緒にはいかない!ここで、叩き潰してやる!」

拳を握る。双刃剣を持っていない事が悔やまれる。でも、今はむかつくこいつの顔が殴れればそれでよかった。

「う~ん、思ったのと違うなぁ・・・うん、まぁ、なにか間違ったのかな。上手くいかないね。それとも後ろの奴が悪影響だったかなぁ」

ルクスは疑問と顔に貼り付け、悩ましい声を出す。眼の前に怒りに染まった自分がいるはずなのに目に入っていないみたいだった。それが決定打になった。前へ駆け出して拳を突き出した。

「オラァ!!!」

ノクスは拳を振った段階になっても動きは無かった。苦笑を浮かべ、まるで「仕方がないなぁ」とでも言いたげだった。そして当たると思った次の瞬間、自分の拳がピタリと止まり、それだけでなく、身体も縫いつけられたように宙で静止してしまった。


「う~ん、やっぱりちょっと性急だったね。ま、また会いに来るよ。考える時間は必要だろうからね。後ろのも今は見逃してあげる。こっちが突然会いに来ちゃった訳だしね」

動かない身体を見下ろすと何か光の輪のような物が幾つも身体に巻きついて動こうとする自分の身体を固定していた。痛みは無いが釘で縫いつけた様にピクリとも動けなかった。

「おっと、危ない」

そんな自分を追い越してウィリアムが飛び出してノクスに殴りかかる。でもそれも彼はひらりと舞う花びらの様にひらりと避けて距離をとった。


「ふふ、それじゃ、また会いに来るよ、ルーク」

「ふざけんな!今すぐにとっ捕まえてやる!」

しかし自分の威勢に身体はついてこない。彼の魔法だと思うが何か既知の物とは別種にも感じられた。そして再び殴りかかろうとしたウィリアムの前でノクスは一瞬、光に包まれたと思ったらその姿を路地から消してしまった。

「ふざけんなぁ!!!」

この世界で初めてあった同族は何一つ分かり合えなかった。そしてただ、仲間を侮辱された怒りと裏切られたような失望感が胸を満たした。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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