15話
ムニオに辿り着いた翌日、早速資金集めの為に仕事を探しに行った。そしてそれぞれに適性が合いそうな仕事をちゃっちゃと決めた。予定通りに三方に別れる事になり、ウィリアムは都市内の工事現場、プロトは見習いの魔法使いへの講習に行った。プロトは自分が人に教えらるかかなり不安そうにいていたがミラが普段彼に教わっていることもあって、背中を押した。もし上手くいけば有力者まで辿り着ける可能性もあるだけに、自分もプロトには期待している。半面、ウィリアムはどうしても信用を最初に稼ぐ必要があるだけに幾らか時間は掛かるだろう。とはいえ、彼の力を考えれば他の同僚より抜きんでる事は想像に容易く、もし喧嘩の一つでも起きればあっという間に仲裁だって出来る。そこから自然と実力があることや、剣が扱えて教養もあることがアピール出来れば先が無くもない。一応、建設や工事は有力者がよく、呼び寄せる仕事でもある。それだけに仕事先の親方が良い伝手を持っていれば後は運しだいだ。そんな二人を見送り、自分たちは商人の手伝いに向かわされた。これはミラが計算や文字の読み書きが十分に出来ること、容姿が優れている事もあって、歓迎された。大ぴらに接客、というわけには行かないが、容姿の優れた店員がいる、というだけで案外客はくる。それは多種族であっても美しいものは美しいと思えるからだ。言ってしまえば美術品だった。勿論、フードは被ったままになるがそれでも噂が出回れば十分だ。ミラもそれで金が入るならと、ニコニコと了承した。そして自分は普通にあちこちへ荷物を担いで走り回った。そんな生活を暫しの間しながら確実に金を溜め、仕事場を中心にムニオの情報を集め、休日にはガイドも雇って情報を精査した。
精査すべき情報は人形、或いは魔法、兵器などで、それらを中心に聞きまわった。時にはプロトに尋ねさせ、相手の反応も伺った。こちらから深く踏むこむようなマネだけはしなかったがプロトを見て、「おや?」とした顔を浮かべた者は誰もいなかったのは肩透かしだ。これで引っかかればいくらでも問い詰めたものを、と歯噛みした。でもそれは住人も同様で、此処は常に珍しい物に溢れていた。それは物だけに当たらず、人も同じだ。個性が何よりも愛された。だからプロトの見た目位何でもないのだ。当然と言うべきか、自分の容姿にも興味深そうな視線が一瞬飛んできては直ぐに外れた。まるで同じでないことが至高、そう言わんばかりだった。もしかしたら何かしらの手段で今の姿に成っている、そう思われていたかも知れない。もしそうなら何処か疎外感のあったこの姿も案外悪くない、そう思えなくも無かった。
「ん~何もないわね」
自分たちに当てられた部屋で卓を囲む。ミラが腕を組みながら期待外れに首を傾けた。彼女も仕事中、色々な客にアレコレと尋ねているが空振りだ。自分も外回りの際に探し物をしていると切り出しては色々聞いたが手応えはない。それこそ前提が間違っている、そんな雰囲気を感じ取っていた。
「ボクも何も無かったよ」
プロトがキョロキョロと首を振りながら続く。彼はその魔法の腕を買われて色々な所へ出向いているようだ。その中には金持ちもいるようだがやっぱりこれと言った情報はないようだった。
「吾輩も、これといったものはありません」
ウィリアムは静かに直立したまま恥じるように目を閉じる。彼は土木関係をよく回っていて、工事用の道具からプロトの様な作業を助ける様な人形の類などを探している様だがやっぱりプロトのようなものもまったくないらしい。そもそも人力の方が何かと便利だ。流石にムニオとはいえ、需要が低いものに着手することは無いらしい。
「俺も同じ、と。ここまで空振りだと何か間違えてそうだな」
両手を天井に向けて肩を窄める。ミラの溜息が床に溜まる。調査、という意味では左程の日数が掛かった訳ではないだろうがそれでも頑張ったことが報われないのは水底で藻掻く様な息苦しさがあった。手掛かりの一つ見つからないのも救いがない。
「ルークの言うとおりね。何か間違えているのかしら?二人はどう?なにか心当たりはある?」
ミラがプロトとウィリアムに問いかけるが揃って横に頭が振られるだけだ。
「なら、ムニオ自体が間違い、ってこともありそうね。ひょっとしたら本当に全部帝国で起こってる可能性も出てきたわね。それに思い当たれただけ収穫かしら」
失望はあるが、何も手に出来なかった訳でもない。そう慰めるように口にするが最初の当てが外れたショックは少なくない。特に新しい技術はムニオと言っても良い位には職人や研究者がいる国なのだ、欲しいものがまったく無かったのは嬉しくない。そして帝国に全てがあるなら、本当に全面でぶつかる可能性が高くなってしまう。これも最終的には帝国をきちんとした形に戻したいと願うミラの将来により、大きな傷をつくってしまう。人が沢山死ぬだろう。アスケラ王国も協力の比重が大きく成れば公爵がいくらミラに好感を持っていても国同士の話になれば一筋縄にはならない。それはアスケラが声を掛ける他の国々も同様だ。ミラは決して穴だらけになった帝国に戻りたいのではない。
「まぁ、落ち込んでも仕方がないわね。そうだ、明日は祝日じゃない?だから久しぶりに皆で歩いてみない?気分転換になるわ」
重くなった部屋の空気を裂くようにミラが手を叩いた。彼女の中にも積もった感情を振り払うような快活な音は耳に心地良かった。
「あぁ、それもいいな。どうせ全員休みだろ?」
ミラの言葉に賛同しつつ、周囲を見れば今度は肯定が返ってくる。それに気分を良くしたのかミラが立ちあがり、花びらの様にくるりと回る。
「なら決定ね。折角稼いだお金もあるし、少しくらい羽目は外した方が良いわ。調査中に面白そうだと思ったお店が幾つかあるの」
そう声を高くするミラは何処にでもいそうなお嬢さんたちと同じように目をキラキラと、彼女の場合は物理的に光らせながら笑みを浮かべる。
「ボクも見てみたいのがあったなぁ・・・」
意外にもプロトが真っ先に食いついた。思い返せば彼は好奇心が強い。だから見世物の多いムニオは彼にとっていっそ痛いと思うくらいに刺激されたことだろう。自分だって芝居とは違うが新しいなんて銘打たれた技術披露には思わず首を伸ばしたくなった。
「共をしましょう。それと小僧、お前は武器も見てもらえ」
ウィリアムが片目を明けてこっちへ投げ掛ける。それもそうだと小刻みに頷く。
「そういやそうだ」
目を部屋に立てかけられた双刃剣に向ける。相棒は欠けと罅が入っていた。これは自分には記憶のないタルシア戦の無茶と、その後の訓練の日々が祟ったのか遂に壊れてしまったのだ。本格的な手入れも長くしていなかった事もあって、当然とも言える帰結だった。
「うん、皆やりたいことがあってよろしい!それじゃ明日は皆で周りながら用事を済ませましょ」
「おう!」
ミラの声に威勢よく返事をする。鬱屈としていた気分が晴れる。それにやっぱりミラは笑っていた方がずっと素敵だ。彼女に釣られるようにウィリアムの厳しい表情も少し緩んでいるように見えた。
翌日、早々に朝食を終えて宿を全員で出る。最近の雰囲気を振り払うために意図して軽い口を叩きながら街を歩いた。いつもと違う空気で見るムニオは彩りが鮮やかで、立地で考えれば酷く大自然の真っ只中なのに、それを押しのけるように多彩なガラクタから唸る様な逸品が転がって、酷く時代を先どっている様にも感じられた。
目的は様々だったがミラの気に入った店に入っては冷やかし、プロトの興味の赴くままに出店を巡った。流石に気分転換で散財までは出来ない。本命は忘れず、気晴らしにさえなればいいのだ。それに最近はバラバラで生活していたこともあって、会話は毬のように弾む。すっかり街の子供たちに混じってしまったかのようだった。
「いや、結構歩いたなぁ」
道の隅、人通りを眺めながらも邪魔にならない場所で輪になる。手の果物のジュースが火照った身体を冷まそうとしていた。
「ほんとに、こんなにはしゃいだのも久しぶりね」
ミラが口元に手をやりながらカラカラ笑う。宿を出る前の陰りのあった表情は何処にもない。よく考えれば彼女は仕事をする、なんて言うことは初めてだ。その上で積極的に聞き込みや実際に出向いたりしていたのだ。自然と疲労も強かったに違いない。
「ボクも色んな物が見れて楽しかった!」
プロトが両腕を振り回して喜びを表した。不思議とプロトは工芸品に強く興味を持った。自分で作るというところまでは行かない様だがそれでも手作りされた色んな品々に張り付く姿は都会に買い出しに連れてこられた子供そのものだった。
「・・・・」
ウィリアムはそんな二人を見守る様に少し離れて立っていた。きっと警戒の意味もあるのだろうが、かなり安らいだ表情に見えた。彼がパーティーに入ってから、ミラと別行動をしたのは初めてで、これまたきっとストレスも抱えただろうにそんな事はおくびにも出さなかった。改めて褒める様な事を口にすることは無いし、嫌な顔をするだろうことは想像に容易いからこれからもしないが凄い奴だと何度も思わされた。
「さて、それじゃ、戻るか?もうそろそろ飯だしな」
そう言えばミラが頷く。彼女が頷くならパーティーに問題はとりあえずない。そう思ってふと騒がしい大通りを見た時、心臓を直接捕まれた様な衝撃があった。視線の先、サルーグの路地で見失ったあの後ろ姿を見かけたのだ。そしてその後ろ姿は半身だけ振り返った。
「あ」
思わず、そんな感じで漏れた声は思ったより響いた。そもそも突然動きを止めた自分を訝しんだ仲間が首を傾げ、自分の視線を追いかけたのが分かった。しかしそれでも自分の意識は翻った黒紫色の長髪の先に隠された顔に釘付けだった。
中性的で、人を揶揄うような目をした美貌の人、茶目っ気にも冷酷にも感じられる表情だった。そして自分と同じようにのっぺらぼうの様に種族の特徴を感じさせない風体だった。それが酷く目を惹く。その相手が明らかに口角を上げて手で招いた。それは酷く淫靡に感じられた。禁断のという枕詞すら思わせた。
「アイツだ」
「アイツ?」
思わず漏れた言葉にミラが首を傾げる。どうやら自分以外にはこの衝動が分からないらしい。でも前にプロトを置いて行ってしまった事がギリギリ頭の端にしがみ付いてくれたおかげで足は何とか踏みとどまっていた。しかし、例の相手は明らかに自分を呼んでいた。
「着いて来てくれ」
結局、欲に勝てない。相手の魅力は宝石や金では決して埋められない差があった。仲間の声が耳を掠める。困惑の音が強く、戸惑いが背を引く。それでも足を前に進めた。そしてそれに満足したように例の相手は人気が無さそうな方へと歩み出していた。
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