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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
五章~ルークと新たな時代~

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23話

(どうなった!?)

 ミラの放った光は空間をあっと言う間に白く染め上げた。そして音すらも呑み込んでしまったのか、一瞬だけすべての感覚を奪われたようにさえ思えた。

 体に痛みはない。いっそ軽い感覚すらする。聖魔法は本来なら回復を司る魔法だ。その影響下に自分も入っていて、回復でもしたのだろうか。とにかく、もう一度なら踏ん張れる程度の力が戻っていた。


「アアアアアアアアアアア!!!」

 耳が戻って来る感覚と共に、谷底から吹き上げる風のような絶叫が聞こえた。言葉の意味は分からずとも苦しんでいることは明確だった。そして目も戻ってくれば、丸まっていた筈の巨体が打ち上げられた魚のように地面を飛び跳ねては這う姿が見えた。

「よっしゃ! チャンスだ!」

 駆けだす――前に仲間の様子を横目に見る。ウィリアムは問題ない。自分と同じようにいつでも跳び出せる姿勢だ。プロトは杖に再び魔力を溜め込み始めていた。そしてミラは、縋るように杖に凭れこんでいた。


「ミラ!?」

 出そうとした足が止まる。ミラの様子は尋常ではなかった。髪からは光が陰り、額から零れ落ちた汗が地面にシミを作っている。息は荒く、物が詰まったような呼吸音だ。

「ミ」

「行って!!」

 駆け寄ろうとしたその瞬間、張り裂けてしまいそうな声が響く。咳も酷い。死にかけの老人だってそんな声は出さないだろうとすら思えた。

「早く! もう一度は……無理」

 咳がミラの声を阻んだ。でも彼女の想いはハッキリと届いた。だから変えた足先を戻す。

「直ぐに倒して来る」

 返事は待たない。力強く足で地面を叩いた。


(どっから手付けたもんか……)

 走り出したは良いが、目標の敵は巨体だ。下手な場所に攻撃するのは正直って愚策だ。それに今なら確実に一発いれられるだろうが、それでも決まらなかったら問題だ。多少回復したと言っても消耗の方が遥かに高い。だから何かしらの策、さらに言えば急所に確りと叩き込みたかった。

「ウィリアム、何処が良いと思う?」

「首から上だ。それ以外ない」

「そんな安直で良いのか?」

 眉が寄った。敵は生物に見えはしても生物と言い切れるものでもない。だから首から上を消せば殺せる、というのは酷く安直に思えた。

「絶対とは言わん。だが生物に似た形をとった以上、急所が似通っている可能性は高い。それに体は幾度も変化したが首から上の変化は無かった。それに回る時も頭を内側へ入れて守るようにしたのだ。狙う理由としては十分だ」

「へぇ……成る程な。なら賭けてみっか。それに胴体にあんだけ穴が開いても死にそうにないもんな」

 敵の胴体、背中から腹部に掛けて大きな穴が開いていた。そしてその輪は黒ずみ、再生も酷く遅い。だから敵もいまだに悶えているのだ。ウィリアムの考えも交えれば、成る程、有効に思えた。


「お前は最後に来い。まずは我とプロト殿の魔法でアイツの動きを完全に止める。そこでお前が止めを刺す。いいな?」

「……分かった。頼む!」

 一瞬、『頭の中に出来るのか?』と疑問が湧いた。でも、直ぐに打ち消した。ウィリアムが自分から言ったのだ。出来ない筈がない。積み重ねた信頼がそう思わせた。


 走る彼の背を目で追う。そしてプロトのほうを振り向けば彼の目が自分を通して敵を見据えているのが見えた。話をしていた訳ではないのに、呼ばれればいつでも魔法を放てるようにしていた。

(さっすが!)

 もう魔法が使えるだけの存在ではない。きちんと戦場に立つ魔法使いとしての役割をプロトは十全に熟していた。それがわかっていたから、ウィリアムは振り返ることなく走ったのだとも分かる。


「プロト殿!」

 ジタバタと、体を揺らす巨体の前に到達する直前にウィリアムがプロトを呼ぶ。

「我が剣に! 雷を!」

 そう言いながら掲げられた大剣は彼の相棒だ。その切っ先は、彼の意思を示すように闇の中でも良く光って見えた。ただ、その意図は読めなかった。もし言葉通りなら、彼がプロトの魔法でやられてしまいかねない。でもそんな自分の迷いを笑うようにプロトが魔法を躊躇いなくウィリアムの持つ大剣目掛けて放った。


「ウォォォォォォォオオオオ!!!」

 敵の威嚇にも負けない程の大声だった。でもそうでなくては耐えられぬ程の痛みがあるからだと容易に想像がついた。何せ本当にウィリアムの大剣に、練り切ったプロトの雷の魔法がぶつかったのだ。ウィリアム自慢の鬣も逆立って、その先端はあっという間に焦げて散った。でも彼は止まらず、むしろ加速し、紫電を纏った大剣を掲げたまま敵へと全速力で駆けていく。

「無茶すんなぁ……っと、俺も行かなきゃな。失敗したらどやされるじゃすまないぜ」

 尤も、失敗したら皆生きては帰れないから、そんなこと考える必要はないが、仲間の奮闘には応えたい。だから彼が向かう先と起こす結果に最も適した場所へと駆け出す。


「ハァァァアアアア!!!」

 悶える敵の側面へと踏み込んだウィリアムが大剣を振り下ろせば、その軌跡を紫電がなぞる。そして空気が爆ぜる音をさせながら敵の肩口へとぶつかった。

「アアアアアアア!!!」

 敵の絶叫が濃くなった。そして暴れていた巨体が大剣で押さえつけられて硬直する。

「いい加減に、くたばりやがれぇ!」

 こちらへ向いた敵の醜悪な顔とピタリと視線が合う。その真っ黒な瞳には自分の右手に握られた光を携える双刃剣がまざまざと反射していた。その目にはなんの感情も見てとれはしなかった。

 一番の轟音が響く。当然それに見合った衝撃が全身を内部から叩いた。でもそれも長くは続かない。振り切った双刃剣は一瞬の抵抗感の後、スッとした手応えに変化した。そして地面に辿り着くと同時にもう一度爆ぜた。


「ハッハッハァ!! 見たかこの野郎!」

 自分でやったにもかかわらず、最後の爆発に耐えきれず体が宙を舞った。でも頭の中はやり切った感触で一杯だった。全身が酷く気怠く、例の力もすべて出し切った感覚があった。

「あだっ!?」

 着地というか落下して体を打ち付けた。受け身を取るのも失敗した。でもその割に痛みは少ない。もしかしたら頭が沸騰しそうなくらいに興奮しているからかもしれないとは思うが、上手く考えられなかった。そのまま地面を幾度か跳ねて転がった所で漸く止まる。


(で、どうなったんだ……?)

 威勢のいい口だったがどうなったかは分かっていない。だから本当に倒せたかは気になって仕方がない。

(そもそもウィリアムも巻き込んだよな?)

 一番最初に教えてくれそうなウィリアムは近くで相手を押さえつける役目を果たしていたのだ。巻き込まれない訳がない。となれば後はプロトだが、彼は距離があった。だから直ぐには分からない可能性がある。

「つうか……起きれねぇ」

 全身が痛んで力が入らない。あの瞬間だけはノクスの事を完全に頭から消して放った一撃なのだ。だからか体の中が空っぽだ。おまけに全身を打ち付けた痛みがジワジワと這い上がって来た。

「はは、これで仕留められてなかったら終わりだな」

 相手が最初から全力だったら結果も違ったように思えた相手だ。ずっと横着したような行動で大雑把だったから対抗出来たと言っていい。

(ま、体の使い方も知らなかっただけかもしれねぇけどな)

 何とか痛む体を引き釣りながら、敵のいた方へ顔を向けた。


 視線の先は空間ごと激しく損壊していた。敵が横たわっていた辺りは大きく抉れていたし、その残骸が爆心地のように広がっていた。そしてあの巨体の半分は子供が無理やりに引っ張った後みたいにぐちゃぐちゃだった。

「なんとか、やったみたい、だな」

 敵の残った部分はだらりと力が抜けたみたいに地面に倒れ込んで動く様子はなかった。端の方は溶けているのか、液状化しているようで、流石にここから動き出すようには思えなかったし、生きていたって復活には時間が掛かるように見えた。

「おーい……プロトぉ……」

 カスカスの声だった。でも敵が黙った影響で静かになった空間だったから上手く響いたらしい。聞き覚えのある足音が早足にやって来た。

「ルーク! よかった、無事?」

「あぁ、まぁ、な」

 上手く返事は出来なかったが、力を振り絞って手を上げれば慌てたような足取りになったプロトが寄って来て肩を貸してくれた。


「ふぅ。何とか、勝ったなぁ」

「うむ。まぁ、最善にはほど遠いが、生きているだけましだろう」

 ウィリアムと横並びになって回復を図っていた。幸い、持ってきた荷物の中に回復を促す飲み物があったから、それを飲んで気力を回復させている。

「これで後はノクスだけね」

「うん。でも……疲労もすごいね」

「ま、しょうがねぇさ」

 肉体的には問題の少ないミラとプロトに敵の残骸がなくなるのを見張ってもらいながらこの先について想いを馳せる。そう、まだ本命が残っているのだ。

「にしても、ここからどう行くか、だな」

「うむ。出口らしきものは見当たらぬ」

 ここへはノクスに寄って連れられて来てのだ。だからか出口のようなものが見当たらない。

「なら、皆が回復したら探しましょ。まさか彼も私たちをここに閉じ込めるのが目的では無いでしょうし」

「うん。それに閉じ込められてる感じはしないんだ。だから出口はあるよ」

「なにか感じるのか?」

「うん。魔力の流れがあるから」

 そう言ってプロトが視線を敵の残骸がある方に向ける。だがそっちに何かあるようには見えなかった。

「ふむ。吾輩には分からぬが、プロト殿の索敵は実績がある。信じるに値しよう」

「えぇ。あの隠れ村もプロトの案内だったしね」

 そう言う2人の話に頷く。確かにプロトには独特の能力があった。なら何とかなるかもしれないと思えた。

「そんな大層なものじゃないよ。でも任せて! 絶対にここから皆を出してみせるよ」

 そう言いながらプロトが胸を張った。らしくはないが何だが見栄を張る子供みたいな彼の姿は肩の力が抜けた。

「じゃ、もう少し休んだら、頼むぜ」

「うん!」

 そしてきっと最後になるだろう休憩を存分に取った。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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