↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
五章~ルークと新たな時代~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/125

19話

 扉がスゥーと、何もしていないのに開く。出ろと命令されているような空気があった。扉の先は闇がどこまでも広がっていて、思わず躊躇してしまいたくなる。でも、この乗り物が動く様子を見せないから進むしかなかった。

「……俺が行く」

 手に持った相棒の双刃剣が酷く細く感じられた。ノクスの気配はない。ただ、深い闇が森のように騒めいている。明かりもないのに、そう感じられるのが不思議だ。そもそも眼の前にあるのはただの闇なのだろうか? 疑問ばかりが膨らんだ。


 一歩目、硬い床の感触だ。落とし穴のようなものは流石にないらしい。罠の気配もない。ただ、足先も見えない程度には暗い。辛うじて、乗って来た物の明かりで踵の辺りは何とか、という具合だ。

「大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。だと思う」

 断言はできそうにない。そもそも安全な場所などとっくの昔に過ぎている。震えそうになる手で力強く双刃剣を握り、前へもう一歩進む。


「カンテラ、貰えるか?」

「あ、うん。離すよ?」

「あぁ」

 流石に闇が深すぎる。後ろ手にカンテラを受け取って、前に翳す。でも、闇が晴れる感じは少しもしない。闇が光そのものを食べてしまっているかのようだった。


「参ったな……」

「どうする? 我等もそっちに行くか? それと、それ以上進めばお前の姿も消えそうだ」

「まじか。でも行くしかない、か」

「ボクが照らしてみるよ」

 後ろで足音が聞こえ、杖が風を切る音がした。そして明かりがポッと音を立てて頭上へと登って行く。


「プロトの火球でもこれか……」

「うぅ、ごめん。駄目みたい」

「いや、プロトが悪い訳じゃないさ」

 今までなら、どんな暗い洞窟だったとしても昼のように照らしてくれていた。でも、ここではやっぱり範囲が酷く狭い。カンテラよりはマシだが、前が見えるとは言えなかった。これくらいならば魔法を同時に使えないという法則がある以上、プロトに魔法を行使させるだけ無駄に思えてならない。魔力だって少なからず使う。

「私がやってみようか?」

「そうだな……ミラの光球なら違いがあるかもしれないな」

 そう返せばミラがプロトと同じように準備をする。


「えいっ!」

 状況に見合わない可愛らしい掛け声と共に光球が登って弾ける。するとさっきまでと違って、明らかに周囲の視認範囲が広がる。いつもと比べればけして広くはないが、足元が見えるようになったし、4人が収まる程度にはサイズがあった。これなら歩ける。

「これなら行けるんじゃないか? ミラ、維持してくれ」

「大丈夫よ。プロトとウィリアム、先に降りてくれる?」

「うん」

「ハッ」

 そしてミラが降りたところで、乗って来た物の扉が閉まり、下へ戻って行ってしまう。これで完全に闇の中に取り残された。すこしだけ恐怖感が胸を擽る。皆がいてくれて本当に良かった。


「どこまで続いているのかしら?」

「分からない。そもそも今、何処にいるんだろうな」

 闇の中をさまよう。右も左も分からない闇の中、ミラの光球を頼りに足を動かす。意外なことに戦闘にはならなかった。そして前に進んではいるはずだが、それが正解かは分からない以上、ハッキリとしたことは言えない。でも、何となくだが、呼ばれている感じのするほうへ進んでいるのは確かだった。

「……見られている気配もするが、姿が見えん」

「うん。光が無くなったら一気に潰されそうな感じ、だね」

 ウィリアムが周囲を警戒するように首を振る。確かにずっと見られているような、伺うような気配がこちらを囲んでいた。手を出してくるような雰囲気はないから慣れない環境で過敏になっていると言われればそんな気もしてしまいそうだ。


「ん? あれは……明かりか?」

「でも、それにしては不気味じゃない?」

 足が止まる。どれほど歩いただろうか。そもそも山の中を繰り抜いたにしては随分歩いた気もした。そんな時、眼の前に赤っぽい光が灯っているのが見えた。


「扉?」

 恐る恐る近付いてみれば、赤い光は扉の上に取り付けられたランプの明かりだった。この闇の中、離れた所でも見える辺り、普通ではない。当然扉も異質だ。それに扉の周りは壁ではなく、やっぱり闇だ。だからまるで宙に浮いているようにも見えた。

「どうするの?」

「入るしかないだろ? 怪しいけど、戻るのも他を探すのも現実的じゃない」

「まぁ、そうであるな」

「俺から入るよ」

 そう言って取っ手を掴めば、ノブは一切止まることなくスムーズに回り、扉が開いた。


「何だここ……」

 入った先は薄暗いが、決して闇の中ではなかった。緑っぽい光が全体を照らしていて、怪しい雰囲気があった。そしてさっき乗ってきた透明の筒のような物が2つ、嫌に組み入った管が繋がった台座の上に乗っていた。

「ほんとうに何かしら?」

 近寄ってみると、筒は意外に大きく、ウィリアムでもすっぽりと入れそうだ。完全に外とは分断されていて、何か入れられていたんだなと想像がつく。ただし、片方は割れていて、何かが漏れ出した跡があった。


「分からんものばかりだな。何かの研究施設のようだが」

「そうなの? ボクは見たことがないから分からないけど……」

「言われて見れば、似てるわね。なら、やっぱりこの筒には何か入っていたのかしら?」

 ウィリアムが興味深げに筒や部屋に転がるパーツに器具をしげしげと見ていた。


「なんだろう。懐かしい感じがするんだよなぁ」

 筒の前に1人立って、思わずこぼす。そう、懐かしい感じがするのだ。でも、自分の記憶にこんな場所に居た覚えがない。でも、さっきの乗り物しかり、何故か知っているような気もしていた。

「なんでだろう……」

「それはね。僕らが此処で生み出されたからだよ」

 突然、仲間ではない声が耳もとで響いて怖気が全身に奔る。

「ノクス!」

「ふふ、驚いた? でも中々来てくれないからさ。僕も待ちきれなかったんだ」

 どこから現れたのか、声の主はノクスだった。急いで距離を取り、全員で集まる。


「ふふ、そう怖い顔をしないでくれないか。まだ戦う気はないさ」

「黙れよ。俺たちはお前と楽しくお喋りしに来た訳じゃないんだ」

 宙にフワフワと浮いたノクスへそう投げかけるが、本当に戦う気が無いのか、構えの1つもノクスは見せない。

「ふふ、良い感じに原始を目覚めさせているみたいだね。もう少し、って感じだ」

「チッ!」

「おっと。本当にここで戦う気はないよ? それより知りたくないかい? ここは僕たちが生まれた場所だよ」

 ナイフを投げるが簡単に避けられる。でもノクスの言葉に一瞬、確かに耳を寄せてしまう。

「ここが生まれた場所?」

「あぁ、そうさ。僕たちは遠い、遠い場所からやって来た。そして拾われて、ここで研究されたのさ。因みにそっちの壊れた筒がルーク、君がいた方さ」

 指の先は派手に壊れた筒だ。

「そんな覚え、俺にはない」

「それはそうさ。あの頃は僕たちも小さかったからね。でも君は確かにそこに居たのさ」

 信じられない。そんな気持ちで一杯だ。でも、もしノクスの言うことが本当なら、此処に覚えがある理由がはっきりとするのも事実だった。


「僕たちは始め、殻の中にいた。そしてこの研究所付近に落下した。まだ、意識も無いころさ。そしてここで秘密裏に研究されたのさ。ここが何時からあるかは僕も知らないけど、結構あくどい場所でね。何せ人形を作る切っ掛けはここの研究結果を奪ってからだからね。因みに君が連れてるそれは僕が作る前に作られた物さ」

 ノクスがつらつらと言葉を重ねる。本来なら、無視して戦うべきだと心の端で思うのだが、どうしても彼の話に惹きつけられてしまう。

「そして僕らが孵化してから本格的にここの研究者は僕たちにのめりこんだ。何せ見たこともない種族とその力は彼らのような研究者にとっては喉から手が出るほどに興味深かっただろう。ま、細かい所は省こうか。不快だしね」

 ノクスの顔が歪む。その表情に嘘は感じられない。

「で、遂に僕たちの命に関わる実験が始まった時、君の力が目覚めた。同時に僕たちに課された使命、この世界を変化させると言う曖昧で途方もない使命が君に力を振るわせた。生きる為に、ね。そして力に目覚めた君はこの研究所を不要なものとして破壊したって訳だ」

「その後は君の記憶の始まり通りさ。力を振るい終わった君はこの場から消え去り、ある町のスラムで目を覚ます。すべての記憶を消してね。原始として、まっさらな目でこの世界を見る為に」

「……」

 語られるのは記憶にない自分の歴史だ。ただ、それが事実なのかは分からない。でも不思議と嘘とも叫べなかった。


「さて、そんな君とは反対に僕は終末を持った個体だ。だから君とは違って記憶が消えることはなく、成熟も速かった。この世界が本当に存続するべきか、見定める為に、ね。ま、くだらない世界だったよ」

 そう語るノクスの表情にはなにも浮かんではいなかった。本当に、世界に飽き果てた。そんな顔にも見えた。


「さて、戻らない過去なんてどうでもいいか。とにかく、ここはルークと僕の故郷でもあり、始まりなのさ。忌々しいけどね。で、改めて聞くけど。ルーク、僕とこの世界を替える気はあるかい?」

「ねぇよ。俺には大事な家族が仲間がいる。そして皆にも同じように大事な人がいる。そんな世界を下らない、なんて俺には到底思えない。だから飽きたんならお前1人で消えろ。世界を巻き込むな」

 切り捨てる。もう同族だとか、そんな事は考えられなかった。でもそれでノクスがなにか癇癪を起こすようなことはなかった。まるで始めから全てが分かっていたみたいだった。

「はぁ。やっぱり、これが定め、なんだね。ルーク。僕たちが手を組めば、世界はより良くなるのに。残念だ」

 そう言うとノクスは漂うのを止めた。

「なら、決着を付けよう。世界が存続すべきか、はたまた、1から作り直されるべきか。審判の時だ。でも、先ずはこれを越えてくれ。僕はこの先で待とう」

「おい! どこに行くんだ!」

 こちらの声を完全に無視したノクスが両手を振り上げた。次の瞬間、世界が再び闇に包まれた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。