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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
五章~ルークと新たな時代~

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11話

「イッ、ツゥ……こんな硬いのかよ!」

 渾身の力で氷龍を殴りつけた。手には今まで感じたことが無い程の硬さを感じたし、力いっぱいだったせいで、跳ね返ってくる衝撃は右手からつま先まで一気に駆け抜けていった。おまけに残った翼の根元を殴った事で、予定通りに飛ぶ力を捥いだ事までは良かったが、当然落下した。それも自分の攻撃で加速した状態だったから、その勢いは落下では済まされない程だった。

 地面に叩きつけられた瞬間には、ボールの様に氷龍の背中から跳ね飛ばされ、結構な勢いで雪上を跳ね回る。左手に握った双刃剣の紐を手放さなかったのは奇跡に近く、本体ごと一緒に飛んで来てくれたのは僥倖以外の何物でもない。それを思えば痛む身体位、なんてことは無かった。


「早く立たないと!」

 軋む身体を押して立ちあがる。氷龍が墜落した場所は未だに濛々と雪が舞って、視界が悪い。でもその先に氷龍がいるのだけは良く分かる。背中に乗った時に感じた、あの冷たさが、向こうから流れてくるからだ。ただ、飛び上がる事は無い筈だ。確実に翼を折った感触と音がした筈で、落ちて行く間にも、無き別れした翼を見ている。それに再生もしない筈だ。そんな事が出来るなら、欠損のある身体を押して、こっちに攻撃を仕掛けるとは思えなかった。


「ルーク! 大丈夫!? 今、治療するわ!」

 左からミラが駆け寄って来た。どうやら墜落した自分を探してくれていたらしい。そして彼女の杖が白く光って、その光が自分へと降り注がれる。

「ありがとう、ミラ。後の2人は?」

「多分、氷龍の近くにいるわ。プロトもずっと魔力を練っていた筈よ」

「なら急がないとな。アイツは飛べなくなっただけだ。まだ危険には変わらない」

少しずつ軽くなる身体を起こして、落ち着き始めた雪の向こうを睨む。同時に太陽が落ちて来た様な、真っ赤な光が奥で弾けた。


「プロトか!?」

 顔の前に手をやりながら久しく感じなかった熱を全身で浴びる。それなりに離れていたし、火炎で吹き飛ばされた雪の向こう、氷龍越しの筈なのに肌で感じる熱量はかなりのモノがある。そしてその熱は塔の様に、火柱となって聳え上がる。

 記憶に無い程の火力だ。何処でそんな事が出来る様になったのだろうと思う程には火力が高い。それでも氷龍の声が、苦悶ではありそうだが、確かな咆哮が火柱の中から響き渡る。やっぱり健在だ。少しばかり呆気には取られたが直ぐに武器を握り直して腰を落とす。今すぐに突撃は出来ないが、隙を見て飛び込まなければならない。ただ、この状態を保てる時間は、あまり残っていない様に感じられた。心が逸っていくのを感じた。


「行ってくる」

 火柱は暴れる氷龍の身を幾らか焦がしたが、暴れる氷龍の冷気に徐々に押される様な形で、その身を削られていった。火柱を中心に、辺りの雪は一斉に解けて、久方振りの地面が露わになっている。どうやら結構な高さ降り積もっていた様で、建物の1つや2つ位なら易々と縦に入りそうな程だ。その中央には幾らか小さくなった様に見える氷龍が怒り狂いながら暴れているのが見えた。その動きはかなり荒く、こちらを狙っていない筈なのに、近付くのが困難に見えた。やはり大きいと言うのはそれだけで暴力だった。


「プロトは……上か。で、ウィリアムは、もう下か。なら俺も下だな」

 出来た大穴の縁に立って周囲を見れば、同じように覗き込むようにしながら杖を振り回すプロトの姿と下に降り立って、隙を伺う様子を見せるウィリアムがいた。このままだと、ウィリアムの負担が大きすぎる。だから躊躇う事無く、出来た即席の闘技場へと飛び込んだ。


「すまん、待たせた!」

「ふん。問題などない」

 少しも振り向くことなく、返事が来る。頼もしい後ろ姿は氷龍という絶対の強者を前にしても変わらない。そして横に並ぶ。

「俺が先に行く。サポートしてくれ」

「出来るのか?」

「任せてくれ!」

 彼にこう言えるのは実は嬉しい。嘗て何一つ届かなかった相手と並ぶことが出来る。緊張の場ではあるのだけれども、だからこそ力が湧いた。同時に、火柱を完全に消し去り、辺りを再び凍てつかせ始めた氷龍が吼える。


 音の衝撃を貫く。びりびりとした波動が全身を揺らす。しかし怯むことはない。氷龍と完全に目が合う。当初の怒りをぶつける相手から、完全に敵として認識されたみたいだった。尤もこちらは見上げ、あちらが見下ろしている状態は、まだ相手のと力の差を表してるように思えた。

「行くぞ、クソ蜥蜴!」

 大口を開け、こちらを見下ろす氷龍に吼え返す。そして更に姿勢を下げて走る。何処からか、糸ぐちを見つけて背に乗る必要がある。流石に跳びあがって殴りつけるのは非効率だろう。息吹を消し飛ばせるあの力も後先を考えなく撃ったとしても2発だ。それ以上は意識が保てそうにないと直感がささやく。だから一発で急所を狙い撃つ必要がある。


 分厚い風切り音。数百年の大木を振り回したら丁度こんな音がするだろうか。横からやって来るのは氷龍の尾だ。硬い氷の様な見た目の癖に、程よく撓る尾は、根元こそハッキリと見えるが先端に行くにつれて凄まじい速度だ。掠ればそれだけで絶命してしまいそうでいて、範囲も馬鹿みたいに広い。本人は耐久力もあるから、雑にその場で回るだけで良いのもクソだ。しかし文句を幾ら並べても何も解決しない。それに今の自分なら何とか見える。タイミングを見計らって背面で飛ぶ。

 背中越しの凄まじい風圧が身体を押し上げてふらつく。何とかバランスを戻して1回転して足を地面に着ける。幸い連撃は構造上ない筈、そう思って前に出れば新たな影が自分の上に掛かる。

「ふざけんな!」

 伸びてきたのは氷龍の手だ。尾よりも明らかに短いから、まだ射程圏に無いと思っていたが、その爪が伸びた。氷で全身が構成されているからか、手の辺りに冷気が立ち込めているのが見える。成る程、伸ばすと言うよりはその場で生成した、の方が正しそうだ。そんな事を思いながら、迫る4爪の刃の隙間へ身を通す。真正面と背中を必殺の爪が通り抜けていくのは、氷龍が放つ冷気以上の冷たさが身体を走った。

 

 流石にもう一度尾が来る事は無かった。しかし、今度は氷龍の周囲が白い煌めきを発し始める。馬鹿でも分かる。何かしらの遠距離攻撃だろう。防ぐ方法は例の力しかないが、まだ使いたくはない。どうしたものかと思った瞬間、それを邪魔する様に、彼の背面に突然火が生まれ、落ちた。

 落ちた火は氷龍へ意思を持ったように絡みつき、周囲の冷気が形になるのを遅らせた。誰がやったかなんてのは考えるまでも無かった。それに続くように光球が勢いよく氷龍の顔を殴った。氷龍の足元がふらつく様な事は無いが、それでも確かに顔が僅かに背けられ、彼の目がぎょろりと上を向く。


「最高だ!」

 これを逃してやる訳には行かない。力を振り絞って足を回す。今、駆け寄らなかったら何時寄るのか。そう思える程の隙だ。間違いなくウィリアムも動き出した筈だ。速く、速く、氷龍へ駆け寄った。


 一度は上にいる2人へ目線の行った氷龍だったが、目と鼻の先に迄迫ればこっちを優先した。確かに彼の攻撃が中断させられたとはいえ、致命傷には遠いと言った感じではあった。相性の良いだろう火でそれなのだからつくづく、格の違いを感じる。そしてだからこそ、対抗できる自分へ意識が集中する。

 潜り込むか? そう思った瞬間、何かを察知したのか、氷龍が身を一気に下に落とす。思わず後ろに飛べば、風圧で少し後退させられる。おまけに地面が大きく揺れて、周囲の雪が崩れる。プロトたちが慌てて後退したのが見えた。


 かなり近くなった目が合う。氷龍の目には激しい怒りが感じられた。しかし同じくらい眉間に皺が寄った自分の顔が映りこんでいた。交差は一瞬。次の瞬間には大口を開けた氷龍が自分を呑み込もうと迫って来た。

「浅はかなんだよ!」

 氷龍は確かに強い。しかしそれは最初から持っていた力をそのまま振り回している様なモノだった。だからこの攻撃は分かっていた。ここで始めて上に跳躍する。


 顔の先端を蹴り飛ばして首の方へ転がる様にして走る。足元では直ぐに降り落そうと氷龍が藻掻く感覚がしたけど、聞きなれた風切り音と轟音がした。流石だと思う。急がなければならない。ウィリアムでも単騎で注意を惹きつけられるのは数秒の筈だ。特に彼は自分と違って冷気がより響くはずだ。

 

 飛び乗った背中、そこにはさっき渾身の一撃を叩き込んだ跡が刻まれていた。そこだけ明らかな罅が円を描きながら広がっていて、周囲は溶けている様に見えた。隙間からはシューシューと真っ白な冷気が血の代わりと言わんばかりに噴き出していた。正面から見た雰囲気よりも重症だったらしく、プロトが撃った魔法もこれを目印にしたに違いなかった。そして探していた致命傷に繋がる部位だった。


「おっと……急がないと」

 一度は止まった揺れが大きくなる。間違いなく氷龍が再び暴れ出した。顔の有る辺りで硬いものがぶつかり合う音がするから、ウィリアムがまだ必死に抑え込んでいるのは分かるが、それも遠くない内に一気に傾くだろう。数秒もない。右手に握った双刃剣を握り締める。今度は手じゃなくて武器だ。覚悟しろ。


「ウォォォォォ!!!」

 目的の場所へ向けて速度を上げながら吼える。腹の奥底から待ってましたと言わんばかりに力が溢れ出す。そして手から双刃剣へと力が渡り、新たに鍛え直した刀身も震える。何度も無理をさせて済まないと思いながら更に力を送って、そして思い切り振りかぶってから、差し込むように、氷龍の背中に刀身を突き立てた。直後、凄まじい発光と共に聞いたことが無い程に甲高くも鈍い音が轟いた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。 申し訳ありませんが来週は忙しく、更新が無いかもしれません。

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