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六幕目「随分過激な最近の子供達」

ここまでの話を読みやすいように再編した方がいいと思うも、まず筆が遅すぎるという問題が

というか、投稿し始めて一年以上経つのにまだ入学式の朝って……(絶望)


制服の色

初等部→萌葱色

中等部→茜色

緑とか赤だけだと描写地味かな~と思ったのでカッコよくします

少しだけ時を遡り掲示板前の人集り。


元気に喧しい、茜色の制服を着た子供達の群れの中を、一得(ひとえ)は出来る限り素早く、人と人との間を縫って移動していた。


右へ左へ足音も無く、隙間を見つけては器用に身を滑り込ませ前へ進む。

正門で使うか悩んでいた暗殺術用の歩法だが、周りに居るのがただの生徒だけだからか誰も一得の事を注視せず、驚かれもしない。


(覚えた事って意外な所で役に立つなあ)と内心で独り()ちつつ、その甲斐あって今一得は人垣の半ば程までは来ていた。


ただ、進めるのはそこまでだった。

一得の目の前には、滑り入れそうな隙間はない。一応無理をすれば行けなくもないが、目立つ手段だし、何より普通にマナー違反だ。


掲示板付近でクラスを確認した生徒は、そのまま順に昇降口は入って行っている様で、遅くとも少しずつ前へは進んでいる。


(この調子なら一分もせずに掲示板の前まで行けるだろ。そんな急ぎ物って訳でも無いし後はこのまま流れにのりましょ)


無理する必要は無いと、人波に乗ってゆっくり行こうと決めた一得。

そもそもが順番抜かしもどきで大分早いのだし、ここから多少時間がかかっても許容範囲内だろうと呑気にゆっくり流れて行く。


周りからは、誰々と一緒のクラスがいいだの担任が何々先生は嫌だだのと、新学期──それも初等から中等への進学ともあれば生徒達の声は一層騒がしく、人数こそ少ないが、感じる喧騒の大きさに限っては正門と大差無かった。


よくよく見れば会話をしている生徒は半数程度だが、よくもまあニ、三〇人程度で正門の広さと張り合えるものだと十二歳の"若さ"にまた感心する。


(何か学園に来てから思考が老け込んでる様な気がするなあ)


(まあ三〇〇は歳上だし)と心の中で言い訳して納得し(自分を言いくるめ)た一得は、それ以上は特に周りを機にすることもなく全体と共にゆるゆると進んで行く。


その事を特に苦としないのは、逆に年長の、悪く言えば老け込んだ証なのではと思わなくも無いが、了得しかけたその思考は黙殺した。


だがしかし、一般的に子供は時間や空間の認識に関して、大人より長く広く感じるという話もある。

その話に沿うならば、大人になればなるほど時間感覚は短くなり、その結果長時間の我慢も苦にならなくなる。


その原因に関しては、人生経験やら身体のシステムやらと言われているが、事実大人より子供の方が相対的に我慢が不得意な傾向にある。


更に、同年代の中でも時間の感じ方について六倍の差があるという話もある。


それに加え、この場には今現在新しく中等部になった数多くの生徒がいる。

今いるだけでも数十名、行き交う合計ならば数百名になるだろう。


それだけ居れば、我慢強く無い生徒も一人くらいはいるわけで──


「ぐえ!?」


「うおっ、っとと!ちょーっと危なかった!!」


一得のすぐ近く、人を二、三人挟んだ向こう側から甲高い声が上がる。その少し前に潰れた蛙の声真似も聞こえた気がしたが、周囲の喧騒に飲まれてうまく聞き取れなかった。


声に釣られて顔を向けると、茜色の制服の群れから少女の頭──というか、上半身が飛び出していた。


シナモン色の瞳と髪を持つ元気そうな少女。

首元の見えるベリーショートの髪は短くても分かるくらいの癖っ毛で、右に左にと跳ねている様は彼女の溌剌としていそうな雰囲気を体現した様だった。


飛び出したヤンチャ少女の下を見たい見ると、人混みに紛れてわかりにくいが、一人の少年が潰れているのが見える。

先の蛙の声真似は、きっとこの少年の物なのだろう。


少女とは対照的な、大人し目な滅紫色の髪が俯いた頭に従って地面に垂れ下がり少年の顔を隠している。

髪の間から僅かに覗く顔には、黒縁の眼鏡をかけているようだ。


髪と眼鏡により表情は上手く見えないが、少なくとも今の少年の表情は穏やかな物では無いだろう。


眼鏡の少年は、ヤンチャ少女を肩車する形で上に乗せている。突然飛び乗られたのか、少しバランスが危うい。

ヤンチャ少女の方はというと、手を目の上に当て、目を凝らす風に細めている。


少女視線の先にはクラス表の貼られた掲示板がある。

恐らく、待ち時間に耐えきれなくなった少女が少年に飛び乗って肩車の要領で掲示板を見ようとしたのだろう。


(まさかのレナと同じ発想……。最近はそういうのがメジャーなの?)


まさかの光景に、ジェネレーションギャップを感じそうになる一得。周りの生徒も驚いているところを見るに、流石に二人の方がマイナーではあるようだが……。


少年と少女はというと、今にもバランスを崩して倒れそうになっている。

内心(そりゃそうよね)と呆れつつ、人の間を少々強引に通り少年の真後ろまで来た一得。


右手で前に倒れかけている少年の肩を掴んで引き寄せ、同時に滑り落ちてくる少女を背に軽く左手を添える。

それだけで少年の転倒を阻止し、少女の姿勢を整えて綺麗に着地させた。


「──っとわ?」


「わわっ!?」


助けられた当の二人は、一瞬で何が起こったのか分からず困惑の声を上げながらもしっかりとした姿勢で二足を地に付けている。


何事かと思いながらも、自身に伸びた手に気付き、自然とその手の元を目で辿る。

辿った先に映ったのは、困り顔と呆れ顔を足して二で割った様な表情を浮かべた茶色髪の少年だった。


「あー、大丈夫だった?怪我とか、足捻ったとか無い?」


一得は、器用に感情全部を表情を顔面に貼り付けながら尋ねる。

表情一つでここまで感情を見るものに伝えられるというのもなかなか無いだろう。


「うん!大丈夫だった!!それよりさっきのって、君が助けてくれたの!?すっごかったね!ヒョイって!片手だけで綺麗に着地させちゃうんだもん!!今度ウチにも教えてよ!」


「ぉおう、まず一旦落ち着け?」


ただ、感情を読み取れたからといって、それに反応するかどうかは人それぞれである。

ヤンチャ少女は一得の表情よりも、先程一得が左手のみで少女を下ろした事についての興味の方が勝ったらしい。


少女の肩車騒ぎで、ほんの少しだが三人の周りの人は引いていた。

特段障害も無い状況では(あったとしても指して変わらないだろうが)、この元気と行動力に満ち満ちた少女が一得に詰め寄ろうとするのも当然の帰結で。


一得の方も、人に詰め寄られるという出来事が怖いとは言わないまでも、少しの苦手意識はあるし、一応潜入しての護衛という名目でいるのだから目立つ行為は避けたい。

喫驚と当惑の板挟みの中で、取り敢えず少女を止めようとして前に掲げた両手も、当の少女に掴まれて更に逃げられなくなる始末。


これ以上問い詰められる前に強引にでも逃げてしまおうか。

そう思い静かに身体全体を使って引き抜く準備をした一得の手は──


ガンッッ!!


「あ痛いっ!!?」


──えげつない打撃音と少女の悲鳴と共に解放された。


(ええぇぇーー………。こっわー)


引き攣った顔で内心恐怖を覚える一得の目の前には、握り拳を突き出した、つまり鉄拳を振りかざした姿勢をした眼鏡の少年。

レンズを通して見える虚像の瞳を不機嫌にギラつかせ、全身からは可視化できそうなほど憤怒の気配が立ち込めている。


先程までの少女はというと、一得と少年の間で蹲り「うおぉぉ……」と両手を戦慄かせて呻いている。


少年の鉄拳が頭頂部にでもクリーンヒットしたのか、痛みあまり頭を押さえるということすら出来ない様だ。寧ろ、あれだけ強烈な一撃を貰って尚、蹲るだけというのが凄いのか。


「マ〜オ〜?助けてもらった挙句にいきなり詰め寄るな?何より、突然人の上に跨るな」


(いや声怖!?少年声なのにドス効きすぎでしょ!!)


眼鏡の少年が口を開く。

まだ変声期を迎えていない時期特有の、甲高い子供の声。

確かに子供の声だ、子供の声なのだが……。


雰囲気同様、不機嫌MAX怒気満載の低音(テノール)ボイスは、もう何処ぞのヤクザともタメ張れるんじゃなかろうかと思う程のプレッシャーを孕んでいた。

怒りの矛先である少女はというと「ごめんなさいぃ……」と、呻きながらも何とか謝罪を口にした。


「はあ、全く。本当に反省してるんだか……。すみませんでした、助けてくれたのに驚かせちゃって。えっと……」


六雲(むくも) 一得。六つの雲に一つを得ると書いて六雲 一得だ。こういう手合いには慣れてるし問題ないよ。それよりそっちの方が大丈夫?」


「うん、一得さんのお陰で転ばずに済んだ。ボクは久世(くぜ) 海祚(かいそ)、それでこっちが──」


「はーーい!!ウチは久礼(くれ) 真央(まおう)!!クゼとクレで似てるけど別に親戚とかじゃ無いよ!!」


「うるさい」


「あうちっ」


会話途中で突然生えてきた少女──もとい真央の頭頂に、再び海祚の手が落ちる。


といっても今回はチョップだし、効果音もポスッという先程と比べれば随分可愛らしいものに落ち着いていた。


「ほら、一得さんに何か言うことは?」


真央の横に並んで海祚が言葉を促す。


(何か、問題起こした娘とその保護者みたいだなあ。あながち間違いでも無いけど、問題は起きたし)


「うぅ、ごめんなさい。あと、助けてくれてありがとう」


お辞儀のつもりなのだろう、少し俯きながら真央が謝罪と感謝を口にする。さっきまで若干の空白地帯になっていた周囲も、真央が海祚から降りて(というか落ちて)から次第に人で埋まり始めていた。


「大丈夫、あとどういたしまして。怪我が無い……無いよね?さっき思いっきり鉄拳落とされたたけど大丈夫?」


「だいじょーぶだよ、あれくらい!いっつもおししょーから、もっときっついの食らってるしね……」


大丈夫という割に、真央は後半で目が笑って無かった。

いや、怪我に関しては大丈夫なのだろうが、余程その()()()()()という輩の指導が厳しいのだろう。


「ほんとにごめんね?手とか、痛く無かった?ウチ、力強いから」


罪悪感からか、最初のときより幾分かしおらしくなる真央。見れば目の端が少し潤んですらいる。

一得は、真央のコロコロ変わる表情を少し面白く思いながらも、「大丈夫だから」と励ます様に繰り返す。


そんな、どちらが謝っているのか分からない問答を十回弱繰り返して、漸く真央は一得の無事を納得した。


「でもほんとによかったー。ウチって興奮すると周り全く見え無くなるって、おししょーにもよくいわれてるんだよ」


「そりゃまあ随分と納得いく評価で……。少なくともさっきの出来事見た分には、その()()()()()さんの評価を疑う気にはなれないなあ」


「うぅ…。一得って、結構意地悪だったりする?」


「たまにそう言われる。俺としては不本意だけどね」


そうこう言っているうちに、また人波が前へと進み始めた。


「ほら、ゆっくり進もう。退屈なら雑談くらいは付き合うからさ」


そう言って二人を前に促そうとする一得だが。


「あ、でもウチ達の分はもう見れたしなあ」


「え?」


促されるまま前に進みながら発された真央の言葉に、少しだけ間抜けな声を漏らした。


(えぇ、マジですかあ。肩車した時に見たの?あの短い時間で?)


一瞬冗談とも思ったが真央の言い様を見る限り本当らしい。


驚きで固まる一得に、真宮の発言を信じていないとでも思ったのか、海祚が補足で説明を入れる。


「真央って、投げたボールに書いてある文字読めるくらい目が良いから。前に、訓練だって言って先生──真央の言うおししょーと組手してる最中にボクが投げたボールに書いてた単語、一言一句間違えずに言い当てたたし」


「それは凄い通り越して怖いね。真央も、それ訓練に採用してるお師匠さんも一体何者?というか人?」


「一応人……らしい」


「らしいて」


人かどうかという一得の冗談は、頼りない口調で海祚に肯定された。

その様子に一得は、お師匠さんは本当に人じゃ無いのかもなあと思った。


「あ、もっかい肩車して一得のも──」


「「却下っ!!」」


「うぅ……」


一人考え事をしていた真央の言葉は、一得と海祚の双方からの強い否定により叩き潰された。


「俺は他に待たせてる人居るし、一人でクラス表見てくるよ」


「そんな事しなくても肩車の……はい、しません」


未だ肩車を押す真央は、しかし今度は海祚に視線だけで押し留められた。


「あははー、海祚って結構怖いのな……。一旦ここでさよならして、また教室で会ったらその時話そう。今度は俺の友達も紹介するよ。結構真央に似て──いや海祚大丈夫だから。向こうは事前確認くらい取るから」


話の途中で露骨に疲れた表情を浮かべる海祚にフォローを入れつつ、手を振る。

一得としては、(手遅れかもしれないが)これ以上目立ちたく無いので早く別れたいという理由もあるが。


「うん!じゃ、また後で!!」


そう言って海祚を小脇に抱える真央。


「え?」


「ちょ──」


戸惑う一得と、何かを言おうとした海祚を置いてけぼりに、真央は浅く腰を落とし、そして一気に跳んだ。


「……えぇ」


再び騒めく周囲と、もう諦めた様に目を閉じる一得。(スカートで跳ぶなよ)と的外れなことを考えながら、気配を消して再び人の間を縫いその場を離れた。


暫くして、人垣の向こう側で鈍い音がした様な気がするが、一得は気にせず進み、真央たちと会った場所から少し離れてからは、人並みに乗ってそのまま掲示板を目指す。


それから一分と少しして、掲示板までたどり着いた一得。


(俺とレナと晴夜と……、あと《黒炎(こくえん)魔女(まじょ)》のクラスも見とくか)


背後にもまだ何人もの生徒が居るので早目に見つけたいと思うも、クラス数はAからOまでの計十五クラスもある。


時間がかかると思っていたが、一つを見つければ後は早かった。というか──


「全員おんなじクラスじゃん」


左から六番目、1-Fのクラス表に晴夜、レナ、一得の三人の名前があった。


トアリアから貰った情報で、自分のクラスだけは知っていたが、まさかレナや、ましてや晴夜まで同じクラスとは。

更に、同じクラスの者の名簿を眺めていると、《黒炎の魔女》であるアイラや、先ほど分かれた海祚と真央の名前まである。


偶然で片づけるには少し出来過ぎた出来事。

それを実現でき、かつ実行しそうな人物を一人思い浮かべ、それと同時に若干の不安を覚える。


(何かの悪戯?だよな。そうじゃなかったら怖いんだけど。晴夜……は、まだしもあの二人に何かあんの?同じクラスにするなら俺とレナとアイラだけでよくない?)


なんとなく未来が分かるらしい理事長の考えは測りかねるが、ともかく目的は果たした。


そのまま人波に乗って一旦昇降口を通ってから二人の所に戻る一得。途中何人かの間を通り向け、大回り気味に先の場所に帰っていく。


分かれてから五分と少々。

先の真央のやんちゃ具合を見た後ではレナが何かやらかしていないか心配になるが、晴夜ならどうとでも受け流しそうという、会って間もない少年に対する雑且つ根拠に乏しい信頼で不安を片付ける。


そろそろ、先程二人と別れた場所に着く。

あの二人と一緒に行動していれば何かあっても対応を押し付けられると、人垣の中での出来事で昨今の子供に少し恐れをなした一得は、これ以上の面倒事は同じ子供に任せようと足早になる。


茜色の制服の向こう側に、見慣れた紅色と見覚えのある濃紺の人影が見えてきた。


(ようやっと帰ってきた……。最近引き籠り気味だったから人多くて疲れたな)


ともあれ、これで暫くはまた歩いているだけでいいと安堵しかけた一得の心情は




「――君ってさ」


「うん」




風に乗って微かに聞こえた夜凪の声の




「しょう――の時は――」




        「―――せ―ぇ―――――ぉ――」




その裏で急速に大きくなっていた聞き覚えの無い声と




「――なこガッッ―――――!!??」


「鉄ッ拳ンンッッ――!!!!」




ガギィンッ!!、という。


本日三回目の、不本意ながら聞きなれてしまった人の頭頂部に鉄拳が振り下ろされる打撃音によって打ち砕かれたのだった。





……面倒ごとの気配に、一得は顔を手で覆った。

一章の最序盤が書き終わらない内に、九章の佳境と番外編×2が半分くらい書けてた

出せるとこまで展開が進んだら一気に出す……はず(←順番に書け)

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