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七幕目「張眉怒目な制服少女」

……、文字数3,000~5,000字にした意味無くね?(訳:また三か月以上空いたよ遅いなあ)

望まぬ多忙と花粉とハウスダストは滅びればいいと思う。

「鉄ッ拳ンンッッ――!!!!」


威勢の良い声と共に振り落とされた鉄拳は正確に晴夜(せいや)の脳天を打ち、鈍く響く打撃音と共に晴夜を舗装路の元に沈めた。


「………………………?」


その凶行を目の前で目撃したレナは、何が起こったのか分からない様子で、ただ晴夜が視界から消えていく光景を見ていた。


聴衆の中には、凶行の被害者たる少年を追う者が少数。

ただ、レナよりも遠巻きにいていた彼らの視線は、その多くが自然と鉄拳の下手人の方へと向いていた。


現実逃避の為に顔に手を当てていた一得(ひとえ)も、周りに少し遅れてその姿を視界に写した。


年端も行かない少年を沈めた犯人。それは、少年と同年代であろう背格好をした銀色の少女だった。


銀色に輝く長髪を編んで、ハーフアップにした可愛いらしい髪型。

丁度一得に背を向ける位置で鉄拳を振り下ろしていたので顔は見えないが、一得達と同じ茜色の制服を着ているので同じく中等部の一年生だろう。


現在その少女は、残心の姿勢を保っている。

立ち姿には少しの揺らぎも無く、少々体術を嗜んだことがある者なら、歳の割に洗練された少女の所作に驚くことだろう。


実際、"嗜み程度"に体術を扱える一得も、生徒という立場に似合わぬ少女の練度に素直に感心する。


それと同時に、そんな未来の達人候補の拳をモロに受けた少年の安否が余計に心配になってきた。


流石にここで他人のフリは冷たすぎるよなと、進まない気を無理やり押し出して歩を進めようとしたその時、銀色の少女が再び動いた。


ゆっくりと残心を解いたと思うと、次の瞬間、一呼吸も無い間にレナとの距離を詰めた。

レナは先の衝撃がまだ抜けず、反応出来ない。


咄嗟に駆け出そうとする一得。

しかし、遠巻きで眺めて居た一得とすぐ隣で鉄拳を振り下ろした少女とでは、当然少女の方が速い。まして、後手に回った一得が追いつける筈も無い。


少女はレナの両手を素早く握ると、自身の胸の前まで持ち上げ──


「大丈夫!?何もされなかった!?」


「……へ?」

「……は?」


晴夜を撃沈せしめた少女は、心底心配そうにレナを見つめてそう言ったのだった。


─────────────────────


(……何が起こったの?)


今現在、レナの脳裏を支配しているのは無数の困惑と疑問だった。


一得の事を話していたと思ったら、凄い音と一緒に晴夜が急に殴られて。かと思えば、晴夜を殴った女の子が今度は心配そうな顔でレナの手を握っていて。


認識的な衝撃に二回も殴られたレナの思考はフリーズ寸前で、少しでもその衝撃を逃がす為、状況を理解する為に顔を俯け視覚からの情報を減らそうとする。

そうして下がった視線の先に居たのは、痛みに喘ぎ頭を押さえて蹲る晴夜の姿で。


プッチン、と。

固まりかけたレナの脳は辛うじてその事実()()を認識し、そしてその事実は義理堅いハーフドワーフの少女を激怒させるのに十二分なものだった。


「ちょっっと!!いきなり何すんのさ!!??あぶないでしょ!!!!」

「わっ?えっ、あ…はい?」


突然の怒号。

握られた手を振り払ったレナは、逆にダンッと一歩強く踏み込む。


これに面食らったのは銀髪の少女だった。心配して声を掛けたら、急に烈火の如き剣幕で怒鳴られ思わずたじろぐ。

グラス譲りの眼光の鋭さと迫力は先の紅い少女とは似ても似つかぬ程に剣呑で、およそ中等部に上がったばかりの女生徒が放っていい物では無いし、同年代の子供が受けていい物でも無い。事実、遠巻きに見ていた生徒の内何人かは涙目になってしまっている。


銀髪の少女も鉄拳を振り下ろした時の迫力は一切無く、レナの豹変ぶりに顔を引きつらせている。泣いていないだけまだマシな方だろうか。


勿論その程度でレナの激昂が収まる筈もなく、怒りのままにレナは銀髪少女に向けて叫びを叩きつける。



「後ろから急に殴るなんてっ!!当たり所悪かったら大怪我だよっ!!??殴るならその前に一言言って正面から殴りなさいっ!!!!」



(((え、そこ……?)))



……レナ以外の全員が、同時に心の中で呟いた。


観衆の中には実際に小さい声で呟いた者もいた。が、先程の怒気を思い出して慌てて口を押さえてしまう。身長だけなら初等部生といい勝負な位のその小さな身体で、一体どうやってそこまでの迫力を出せるのか。


一得は「そこまでせんでもと」呟きながら、一歩だけ踏み出したまま完全に行き場を失った足を戻し、現在繰り広げられている二人の少女の言い争い(と言うより一方的な叱責)を仲裁すべきか思案する。


(いや仲裁した方が良いんだろうけどさ、状況がちょっと面倒そうだから間に入りたく無い……。晴夜を殴り倒した子がレナの事を心配したら、レナが正面から殴らなかったことに怒ったって何?二人とも行動チグハグになって無い?)


いずれ騒ぎを聞きつけて来るであろう教員に任せようかとも思ったが、それはそれで教員が可哀想(それが仕事でもあるのだが)だし時間もかかるだろう。

何より昇降口付近での揉め事は、他の生徒にも邪魔になるからと自分を説得し、重い足取りで仲裁に向かう。


目立たない様に観衆の合間を縫ってレナ達の側面に回る。


見れば、未だレナの叱責が響いている。

今はグラスとの親子喧嘩話を元にして、人を殴る上で気を付けるべき事を説明していた。


(話の内容聞く限りグラスも容赦なくレナのこと殴ってそうなんだけど……。え?アイツ前『子供にャツイ甘くシちまう』って言ってなかったっけ?甘いって何?)


ドワーフと人間との間にある価値観にギャップを感じるも今は関係ないかと思考の隅に追いやり、一旦場を収めるために現状一番視線を集める紅い少女に近付いて声をかける。


「レナ〜?取り合えずおちっ」

「誰!?今大事な話を……ってなんだ、一得だったの」


苛立った声のまま振り返ったレナに、一得は一瞬息が詰まった。

レナの方は声をかけてきたのが一得と分かるとすぐに語気を弱めたが、その眉は未だ不機嫌そうに歪んでいる。


(レナって本当に十二歳?めっちゃ怖かったんだけど)


年に似合わず迫力満載の怒号は、立場上他人に叱られる機会に乏しい一得の思考を一瞬で吹き飛ばした。とは言え、一得も一応は五〇〇年以上前に産まれ、年齢的には大人すら飛び越している年長者だ。さっさと復帰して次に優先すべき事柄に移る。


一得達のすぐ横、少し視線を落とした先。


「せいやー、無事かー?」

「あっ!そうだった!!大丈夫!?」

「いやまずそっちを気にしてあげなさいな……」


現状最も労わられるべきでありながら、実際は最も存在を忘れられていた少年。

今は頭を押さえて蹲っている知り合って間もなくの友人に声を掛ける。それで漸くレナも晴夜の安否に思い当たったのか、慌てた様子で駆け寄った。


晴夜に駆け寄ったレナは、殴られた箇所やその周りに怪我が無いかを確認している。晴夜の方は、ずっと蹲っていた割には特に外傷は無く、レナに駆け寄られて以降は打撲部を庇う様子も無い。「大丈夫?」と気遣うレナの言葉にもハッキリと受け答え出来ているので一先ずは大丈夫そうだった。


立ち上がる時も特にフラつく事は無く、未だ心配するレナを笑顔で宥め続けている。


ドワーフの血の影響でレナは同年代よりも身長が低い。

その所為で二人の身長差は、目測で三〇センチ程。二人が並んでいる姿を改めて見ると、レナが七、八歳の児童に見えてくる。


一得が少し離れて(兄妹みたいだなあ)と二人の様子を眺めていると、その視線に気付いた様に晴夜が近付いて来た。


「一得くんも心配ありがとう。こういった事には慣れてるからね、大した事ないさ」

「慣れてるのも、それはそれで大丈夫なのか……?」


降って湧いた別の心配には苦笑いで返し、晴夜はさらにもう一歩一得との距離を詰める。


そして二人にしか聞こえない声量で一得に話す。


「本当ありがとう……。レナさんは……怒ると怖いね」


そう語る晴夜の声は僅かながら震えていた。主に怯え方面で。


(蹲ってたのって、痛いからじゃなくて怖がってたからなのね……)


まだ中等部に上がったばかりの身では、やはりレナのあの怒気は恐ろしかったらしい。

ともかく晴夜の無事は確認できた。レナの方も、一度晴夜の方に気を取られたお陰で先程よりは落ち着いた様子だ。


「じゃっ、俺たちはこれで。あなたも無闇に人のこと殴ったらダメだよ」


友人二人の無事を確認できた一得は、これ以上の長居は御免とばかりにさっさと挨拶してさっさと離れようとしたが――


「ちょっと待って!!」

「ちょっと待った!!」


「ぐぅ…」

「うえっ」


その目論見は紅と銀の少女に敢え無くはばまれた。レナは一得の手首を、銀髪少女は晴夜の襟首をそれぞれ掴むオマケ付きで。

首が閉まった際に漏れた晴夜の呻き声に、レナの目つきが再び険しくなる。

それを諫める晴夜を横目に、一得はこの状況に対して頭を抱える。


(入学早々この目立ち様はちょっとなあ。レナは未だしも俺は潜伏だし……。もう放ってくのが正解か?)


とはいえ、異常騒いではさすがに他の生徒にも迷惑だろう。

未だ睨みを利かせる少女二人と、間で必死に仲裁を図る少年一人にもういま一度目をやる。


(あれは……、簡単に収まらないよなあ)


何故会って一時間も経っていない晴夜の為にそこまで怒るのか。

疑問に感じながらも、そこがレナの美徳の一つとも考える一得は、最後に大きく溜息を一つ吐き出し三人に近付く。


「はいはい、喧嘩もいいけどまずは場所変えような?騒ぐならもう少し向こういくよー」


そういうと、問答無用で少女二人の背中を押し、強引にその場を離脱した。

キリ良さ気なのでここで終了。銀髪っ子はまた次回活躍してもらいます。

ちなみにボツの世界線では、レナの怒気に銀髪っ子が泣き出して一得があたふたするというものがありました。

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