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21.再会と旅立ち

 二人には神父が読み上げる誓いの言葉など耳に入っていなかった。ずっと見つめ合ったまま二人の世界に浸っている。そして、どちらからともなく自然にキスを交わした。会場からはどよめきの声が上がる。神父もお手上げだと言わんばかりに両手を掲げた。あまりに長いキスに、どよめきは祝福の声と羨望の眼差しに変わった。いつの間にか二人の周りには会場に居たすべての人間が集まっていた。

「おめでとう!」

 聞き覚えのある声に奈美恵が振り向くと、そこに健二が居た。

「健二!どうしてここに?」

「偶然、ゴルフ場で会長さんに声を掛けられて…」

「ゴメンね。私だけ…」

「そんなことはないよ。俺だって…」

 健二の後ろにそっと控えて居た女性は奈美恵を見て微笑した。この人なら大丈夫!長年健二と付き合ってきた奈美恵にはすぐに分かった。この人なら健二とうまくやっていけると。


 その頃、披露宴会場となるホテルのレストランでは矢部が腕を振るっていた。奈美恵のイメージに合わせた新しいコースメニューを用意していた。

「矢部さんの料理を久しぶりに見ましたけど、驚きました」

 矢部が料理長をしていた当時、まだ入ったばかりだった結城が言った。今では結城がこのホテルの料理長なのだ。

「当たり前だ!隠居して引っ込んだわけじゃないからな」

 矢部は久しぶりに料理を楽しんでいた。


 健二と奈美は奈美恵の花嫁姿を見届けると、その場を後にした。披露パーティーにも誘われたのだが、そちらは遠慮した。早く帰って二人でゆっくり食事をしたいと言って。帰り際に若田部が車代だと言って包みをくれた。それは断れなかったので受け取った。使うのはもったいないからホテルの送迎バスで駅まで行き、普通電車で帰った。


 レストランへ向かう途中、若田部はトイレに寄った。トイレを出たところで二人の男が両側に付いた。二人とも見知らぬ顔だった。人目があるので下手なことはされないだろうと考えながらも気持ちを引き締めた。

 男たちは若田部の腕を掴みながら、そのままロビーの方へ誘導した。ロビーのソファに若田部を座らせると、背の高い男が口を開いた。

「おめでたい席にお邪魔して申し訳ありません」

 そう言って深々と頭を下げると、名刺を差し出した。『辰沢組、総代、中山光一』とあった。

「辰沢?確か…」

「はい。お察しの通り、元は松波の傘下にありました。松波がつぶれてからはその後を仕切らせてもらってます」

「それで、俺に何の用だ?状況は知っているようだから手短に頼む」

「もちろんです。東栄会と松波が対立していたのは私どもも知っております。けれど、辰沢としては昔からそのことには反対しておりました。今後は若田部会長の元で北関東をお任せいただければと考えています」

「ほう、それは東栄会の傘下に入りたいという事かね?」

「それはちょっと違います。傘下というよりは協力関係を築いていければと考えております」

「同盟という事か?」

「はい。今まで、なかなかごあいさつの機会を頂けなかったので、今日こうして強引にお話を聞いて頂きました。立澤には改めて若田部会長の元へ伺わせますのでそのお許しだけでも頂ければと思っております」

「はて?機会が無かっただと?」

「はい。向井さんには何度もお願いしたんですが、松波系だという事で取り合ってもらえませんでした」

「そうか。それは悪いことをした。これからはいつでも訪ねてくればいい」

 若田部はそう言うと、自分の名刺を中山に差し出した。

「それを出せば向井でも断れんだろう」

 中山は名刺を受け取ると、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」


 向井たちがホテルに着いたのは披露パーティーが始まる30分前だった。

「車じゃ絶対間に合いませんでしたね」

 水島がそう言って向井の顔を見た瞬間だった。向井が血相を変えて走り出した。

「おい!どうしたんだ?」

 権藤が尋ねると、向井は振り向いて言った。

「おやじさんが危ない」

 向井が向かった方を見ると若田部がどこからどう見てもその筋の人間とわかる二人の男に囲まれている。権藤も慌てて向かいの後を追った。






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