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18.銃声とフルコース

 俊彦たちとは別に若田部を警護するための二人はロッジの周辺で張り込んでいた。彼らもロッジには若田部が一人でいるものだと思い込んでいた。

 小林は運ばれてきた食事を食べ終えると、部屋の明かりを消した。若田部を狙っているヤツがいるとすれば、このタイミングで襲ってくるだろうと考えたからだ。

 座布団や枕を布団に忍ばせ、いかにもそこに若田部が寝ているようにして見せると、自分はベッドの下に潜んで様子を窺っていた。


 吉田はロッジの外に二人の男が居るのに気が付いた。男たちに気付かれないよう、ロッジの裏手に回り込む。部屋の間取りは頭に入っている。寝室の窓の下までやって来ると、予め細工をしていた窓の障子は簡単に外れた。


 窓の方から物音がした。外の冷たい空気が部屋の中に流れ込んできた。小林は息を殺して窓の方を凝視した。窓の障子が外されるとマスクをした男の顔が部屋の中を覗きこんでいる。ベッドの方を確認すると、男は窓から入って来た。そっとベッドに近付きながらジャンバーのポケットから拳銃を取り出した。


 若田部は布団を頭まで被って眠っている。ここで眠っているのは間違いなく若田部のはずだ。吉田は拳銃を布団に押し付けて引き金を引いた。くぐもった銃声がした。外には聞こえていないはずだ。あの男たちがすぐに飛び込んでくることはないだろう。吉田は布団をめくりあげ、若田部が息絶えていることを確認しようとした。その瞬間、足元をすくわれ床に倒れ込んだ。


 男を床に倒すと、小林は素早くベッドの下から抜け出して男に飛びかかった。男は小林に銃口を向けたが、小林は布団を掴んで男に投げつけた。再び銃声が鳴った。冷たい空気を切り裂くような銃声が鳴り響いた。


 パーン!冬の夜空に銃声が鳴り響いた。若田部を警護していた二人の男は慌ててロッジに向かって走った。入口のドアには鍵がかかっていた。二人は脇にあった窓のガラス割って中に入った。辺りを見渡し、寝室のドアを蹴破った。その瞬間、部屋の明かりが点灯した。ベッドの上には布団を巻き付けられている男が転がっていた。

「会長!」

 二人が男のそばに駆け寄ると、背後から銃を突き付けられた。

「そんなに派手に飛び込んできたらやられちゃうよ」

 二人が振り向くと、小林がニカッと白い歯を見せながら笑っていた。


 俊彦と奈美恵がようやく笑いから解放されたころ、最初の料理が運ばれてきた。矢部が自分の農場で栽培している野菜を使ったオードブルだった。

「うわあ!きれい」

 奈美恵は思わず声を上げた。

「いつもながら、見事なもんだな。口に入れるのがもったいない」

 若田部も感心している。そんな時、若田部の携帯電話が着信音を響かせた。

「すまん、ちょっと失礼する」

 若田部はそう言って席を外した。電話の相手は小林だった。

「どうした?」

「一丁上がりです」

「ケガはないか?」

「ええ!楽勝でした」

「すぐに戻る」

「いいえ、その必要はありませんよ。向井さんがこっそりつけていた黒服がもう連れて行っちゃいましたから。なので、ごゆっくり楽しんでください」

「なに?向井が…。余計なことをしおって…。分かった。ご苦労さん」

 若田部は携帯電話の電源を切って上着のポケットに突っ込んだ。席に戻ると俊彦が何か聞きたそうな目をしていた。

「片付いた」

 その一言で俊彦はすべてを理解した。


 男たちは吉田をその足で東京まで連行した。捕まえたら、その身柄を確保して連れ帰るように向井から指示されていたからだ。もちろん、俊彦がそうするように頼んでおいたのだ。

 縛られてトランクの中に入れられた吉田はこの後自分がどうなるのかを考えていた。おそらくタダで済むわけがない。和子に害が及ばなければいいと思いながら、あさはかな自分の行動を悔いていた。


 矢部が特別に用意したフルコースは俊彦と奈美恵の結婚前夜祭にふさわしいものだった。

「そろそろ話したらどうなんだ?奈美恵さんにだって準備があるだろう。こうしてお母さんも居ることだし。なんなら俺が言ってやろうか?」

 若田部が俊彦に言った。俊彦はそれを制して奈美恵に向き直った。







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