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16.スーツとダウンジャケット

 若田部は車に乗ると、小林にかつらを差し出し、それを付けるように言った。

「えっ?そんなに気になりますか?」

 小林は最近、髪の毛が薄くなってきていることを気にしていた。

「バカ!変装するんだよ」

「変装?じゃあ、組長がやった方が…」

 振り向いた小林の顔面にかつらが飛んで来た。

「組長と言うんじゃい!何度言えばわかるんだ。まあ、変装のことはそのうち解かる」

 小林は仕方なく若田部の言うとおりにした。かつらをつけてルームミラーで自分の姿を見た。

「ぷっ!」

 思わず噴き出した。後部座席で笑いをこらえている若田部を尻目に小林は車を発進させた。


 藤岡ジャンクションから上信越自動車道に入った俊彦たちは横川のサービスエリアに立ち寄った。距離を置いたところに白いワンボックスカーも停車した。

 俊彦たちは上州牛のせいろ飯で腹ごしらえをした。

「これ、初めて食べるわ」

 奈美恵が言った。奈美恵と和子はこの辺りが地元なのだが、このせいろ飯は食べたことが無いと言った。

「ここはだるま飯が有名だものな」

「そう!だるま飯ならお土産でもらったことがある」

「お土産って…。地元なのに?」

「地元の人って、あまりこういうのは食べないのよ」

「そういうもんなのか?」

「トシさんって、東京タワーに上ったことあります?」

「そう言われれば意外とないな」

「そうでしょう!そんなもんですって」

 食事が終わると、俊彦はトイレに立ち寄った。用をたしていると、両隣にスーツ姿の男が近寄って来た。そのうちの年嵩の男の方に向かって俊彦は言った。

「目立たないようにしてくれよ」

「さすがですね。気付いてましたか」

「ここで車を変えます。この後は高崎ナンバーのグレーのセダンでついて行きます」

「服も着替えた方がいいんじゃないか?」

 苦笑している男たちには目もくれず、俊彦は車に戻って行った。


 ロッジの作りはどれもほぼ同じだった。今の時点で誰がどのロッジに泊まるのかは判らなかった。

「明日のコンペってどういう関係の人たちはやるんですか?プロの人とか来るんですか?」

 吉田はそれとなく井出に聞いてみた。

「大きな声じゃ言えないけど、東京のヤクザが仕切ってるらしい」

「ヤ、ヤクザですか?」

「バカ!声がでかいよ。まあ、参加者のほとんどは堅気の人らしいけどな。ちょうどこの部屋だよ」

「何がですか?」

「そのヤクザの親分が泊まるのがだよ」

「えっ!」

「だから、しっかり掃除しろよ。何かあったら命が無いかも知れんぞ」

「そ、そんな脅かさないでくださいよ」

 吉田は怖がっているような素振りをしながらも、内心しめたと思った。


 俊彦達が泊まるホテルは旧軽井沢のリゾートホテルだ。元々、ファミリータイプのスイートを予約していたのだが、和子も連れてくることにしたので広めのツインを一部屋追加した。俊彦がそのツインに泊まることにして、奈美恵と和子をスイートに入れることにした。

「このツインのお部屋も結構広いし、私がここでいいわよ」

 和子は二人に遠慮して、そう言った。

「いいんですよ。そんなに気を遣わないでください。それよりも疲れたでしょう?少しゆっくりして落ち着いたら、今日は外で夕食をしましょう」

 和子は申し訳なさそうに俊彦を見た。

「さ、お母さん、私たちもお部屋に行きましょう」

 奈美恵に引っ張られるようにして和子は俊彦の部屋から出て行った。俊彦が窓から外を見ると、グレーのセダンがちゃっかり停まっていた。車の横には派手な色のダウンジャケットにジーンズの男が二人いた。

「あれじゃあ、スーツの方が良かったかな」







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