15.RV車とワゴン車
俊彦と奈美恵は和子も軽井沢へ連れて行くことにした。和子は年末年始の休みを返上する条件で少し早目の休暇を取った。
そして、12月23日。俊彦が運転するRV車で軽井沢へ出発した。
若田部も翌日のコンペに備えてこの日、現地へ向かった。プライベートのことではあったが、念のため、小林を運転手として付けることで向井から承諾を得た。
「それじゃあ、パーティーの方は宜しく頼む」
「くれぐれも単独行動はとらないでくださいよ」
向井は若田部にそう言ってから、小林の方を見た。
「大丈夫です。何があっても私がお守りしますから」
「本当に大丈夫だろうな…。こんなパーティーさえなければ…」
「こんなとはなんだ!」
「会長に言われたくはないですよ」
若田部は一つ咳払いをすると、小林を伴って早々に事務所を出て行った。
杉本は自分と妻が若いころに使っていたものだと言って、二組のゴルフクラブのセットを奈美の家に届けてくれた。
「いいんですか?」
奈美は感謝の気持ちを込めて杉本に頭を下げた。
「ああ!どうせ物置に埋もれていたものだ。君たちが使ってくれるのなら道具も喜んでくれるだろう」
受け取ったクラブを眺めている健二に杉本は更にこう言った。
「飛ばしそうだな」
「コースに出るのは初めてですから。ご迷惑にならなければいいんですけど」
「気にすることはない。俺たちはコンペ後の最終組だから、周りを気にせずにゆっくり回ればいい」
「コンペですか?」
「昼過ぎまで何かのチャリティ大会があるらしい。支配人から急にそれをやることになったから予約を取り消してくれと言われたんだけどね。終わった後でいいからやらせてくれと頼みこんで何とか了解してもらったよ。あそこの支配人とは付き合いが古いからね」
杉本は笑いながら、明日、また迎えに来ると言って去って行った。
吉田たちは会場の設営に駆り出されて忙しく働いていた。働きながら本来の仕事をするタイミングを考えていた。なるべく人目に付かない方がいい。ならば、コース上でやるのがいい。コース上を機会を窺いながらついて歩くしかない。それが出来るかどうか…。
「吉田さん、ちょっとこっち手伝って」
そんなことを考えていると、井出に呼ばれて、クラブハウスの外へ連れて行かれた。
軽井沢高原ゴルフクラブはホテルが併設されていて、何棟ものロッジが点在している。明日のコンペに参加する連中はそのロッジに宿泊するのだという。それを聞いた吉田は一瞬、不敵な笑みを浮かべた。
助手席に座った奈美恵は時折俊彦の横顔を眺めていた。いつもより緊張しているようだ。今、車は関越道を北上している。ちょうど1年前にも通った道を。
奈美恵にしてみれば、その時、運転席に居たのは健二だった。恋人同士のドライブとは程遠い状況だった。俊彦はこの車で一人、ただ前だけを見て走っていたに違いない。
「軽井沢はもう雪が降っているみたいですね」
「クリスマスのロケーションとしては最高だろうな」
「ねえ、巌ちゃんは同じホテルに泊まるんですか?」
「いや、ゴルフのコンペがあるからロッジに泊まると言っていたな」
「まあ!残念。コンペって何時頃終わるのかしら。イヴの夜はみんなで賑やかに過ごしたいですね」
「夕方には終わるらしい。ただ、色々と付き合いもあるだろうからあまり期待はしない方がいい」
「そうなんですか…」
俊彦と奈美恵がそんな会話をしていると、和子が後部座席から話し掛けてきた。
「その巌ちゃんって、東栄会の親分なんでしょう?」
「そうよ。この前、話したでしょう」
「この前、あなたたちを料亭の前で見かけたときに、あの人がその会長さんのことを怖い目つきで見つめていたのが気になるわ。もしかして、何か大変なことにならなければいいけど…」
和子は和子なりに色々と心配しているようだ。俊彦はそんな和子の心配を取り除く様に言った。
「何も心配は要りませんよ。あの人は色んな意味で有名人だから。ヤクザの親分だと言ってもその辺の隠居した会社の社長と変わりないですから」
そうは言っても、一番、不安を感じているのは俊彦自身なのかもしれない。向井は運転手に小林を付けて、それ以外にも極秘で用心棒を付けたと言っていた。俊彦たちにも念のため誰かを付けると言った。今、俊彦の車の少し後ろを東京ナンバーの白いワゴン車がついて来ている。




