10.計画と計略
軽井沢高原ゴルフクラブの支配人、篠田はどうにか体裁を整えるべく何人かの会員に声を掛けていた。若田部の頼みなら仕方ない。何とか8組のパーティーを組むことが出来た。
「なんとか恰好がつくようになりましたよ。但し、当日予約が入っていた一般のメンバーも入っていますから、くれぐれもトラブルの無いようにお願いしますよ」
「その一般のメンバーの身元は確かなのか?筋者は居ないだろうな。特に松波の息のかかった連中には気を付けなきゃならん」
「大丈夫ですよ。皆さん、堅気の方ばかりだし、地元の有力者はすべてお断りを入れましたから」
「それならいいが…」
電話を切った若田部は一抹の不安を残しながらも、準備が進んでいることには満足をしていた。
この世界でのし上がるために、若いころには無茶もしてきた。誰かに恨みを買っていたとしても仕方がない。10年前の事件のようなことがいつ起こってもおかしくないのだ。それでも、奈美恵のために出来る限りのことはしてやりたいと思っていた。あの時、命を落とした麻紀のためにも。
一通りの話を聞き終えて俊彦が呟いた。
「その吉田という男が働いているという、建設会社を調べてみる必要があるな。それは若田部さんに頼めばすぐに分かるだろう。どうやらこれは単純な話じゃないのかもしれない…」
「どういう事でしょう?」
俊彦の言葉を聞いた和子が聞き返した。俊彦は自分の憶測だと前置きをして話し始めた。
「お母さんは吉田が奈美恵さんに下心を持っているとおっしゃいましたが、それはないと思います。単純にあなたの娘だから家族として見ているだけだと思います。そして、彼が奈美恵さんの居所を知っていたのはある筋から特別な仕事を頼まれていて、その交換条件として教えて貰った可能性が高い。大金を持っているのもその関係でしょう」
「じゃあ、その特別な仕事って?」
奈美恵が口をはさんだ。
「おそらく…」
俊彦はそう言ってカウンターに置いてあるボトルをながめた。
「まさか!」
「おそらくその可能性が高い。一旦、本社に戻ってクリスマス頃に帰るというのなら、狙うのは軽井沢だ」
「ダメ!そんなのダメよ。何とか阻止できないの?」
「若田部さんに話をすれば何とかなるかもしれないが、吉田は既に雲隠れしているだろう。当日まで出てこないはずだ」
二人の言っていることについて行けない和子はただ、茫然と話を聞いているしかなかった。
「俺は今から若田部さんのところに行って来る。奈美恵はしばらくここでお母さんと一緒に居てくれ。後で小林君に来てもらう。お母さんに危害が及ぶことは無いと思うが、一応、しばらくはウチに来てもらうといい」
「うん。解かった。そうする」
俊彦はマスターにヨロシクと言ってそのまま店を出た。
吉田は一度、和子の部屋へ帰って来た。和子がまっすぐ帰っては来ないと思ったからだ。
二部屋あるうちの寝室で使っている部屋の押入れの中、カラーボックスに和子が大事にしているアルバムがある。吉田はそれを引っ張り出した。ページをめくり、1枚の写真に目を止めた。吉田はアルバムからその写真をはぎ取って上着のポケットに突っ込んだ。
奈美恵と和子はペニーレーンのカウンター席で酒を飲みながら思い出話に浸っていた。奈美恵は家を出てからのことを和子に話した。
「それじゃあ、あんたは今あの人と一緒に住んでるのかい?」
「そうよ。だから今日も来てもらったのよ。トシさんに任せておけば大丈夫よ。きっとうまくやってくれる」
「あんた、あの人のことが好きなの?」
「ええ。ずっと一緒に居たいと思ってる」
「あの人はあんたのことをどう思ってるんだい?」
「その答えはクリスマスにはっきりすると思う…」
奈美恵はそう言うと、グラスの中で音を立てて沈んでいく氷を見つめた。
若田部は既に自宅に居た。自宅では話し辛いので軽く飲もうと言って俊彦がひいきにしているバーに来てもらうことにした。若田部が向井と共に顔を出すと、俊彦はVIPルームへ移動した。
「どうしたんだ?こんな時間に…」
若田部が言い終わる前に俊彦は用件を切り出した。
「まず、急いで調べて欲しいことがある。それから、軽井沢であんたは狙われるかもしれない」




