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11.セダンとベンツ

 中山は軽井沢高原ゴルフクラブのメンバーだった。12月24日には恋人とそこでプレーする予定だった。ところが、支配人の篠田から突然断りの連絡が入ったのだ。代わりのコースを手配するから許してほしいと。理由を聞くと、急にチャリティ大会を開くことになったと話してくれた。そのスポンサーが東栄会の若田部で藤波に関わりのある者は入れられないのだという事だった。

 辰沢組は東栄会と対立する気はさらさらなかったが、松波のことを言われたのでは仕方がない。中山は文句も言わずに篠田の申し入れを受けた。そして、若田部がその日宿泊するホテルを突き止めたのだ。中山はそこで、勝負をかけるべく手を打った。


 吉田は営業所に戻ると、ロッカーから荷物の入ったバッグを引っ張り出し、中身を確認した。ある物がちゃんとしまわれているのを確認すると、駐車場に向かい白いセダンに乗り込んだ。そして、ポケットから写真を取り出すと、しばらくそれをながめたあと、もう一度ポケットにしまった。

「さて、出発するか」

 吉田はセダンを運転して静かに駐車場を出て行った。


 吉田が勤めている会社は赤城建設というのだと向井が即答した。栄建設でも人夫出しを頼むことがあるのだという。

「社長が群馬出身で本社は前橋だが、藤波とは何のつながりもないはずだ。考え過ぎじゃないのか?」

 向井は俊彦の話を聞いた後そう答えたのだった。

「藤波がつぶれた後、残党が入り込んでないか調べてみろ」

 若田部が言うと、向井は「分かりました」そう言って一旦部屋を出た。

「どうして、俺が狙われていると思うんだ?その吉田ってやつはまるっきり素人なんだらう?」

「勘だ!」

「勘?それだけかね」

「そうだ」

 若田部はしばらく俊彦を見ていたが、やがて大声を出して笑った。

「分かった。黒木君がそう言うのなら用心するに越したことはないな」

「じゃあ、軽井沢行きは中止にしてくれるか?」

「それはダメだ。今更チャリティは止められん。それに、なんといっても奈美恵ちゃんの花嫁姿を見逃すわけにはいかない」

「えっ?」

 俊彦は自分の耳を疑った。そして、今、若田部が口にしたことに対して驚いていた。そんな俊彦を見て、若田部は愉快そうにまた笑った。


 店の外でクラクションの鳴る音がした。マスターが外を確認して、奈美恵に迎えが来たことを告げた。奈美恵と和子が外に出ると、若田部のベンツが停まっていた。小林がドアを開けて待っている。

「巌ちゃんの車を使って大丈夫なの?」

「はい、組長が乗って行けって」

「あら、そうなの」

 奈美恵と小林のそんな会話を聞いていた和子は自分の娘がどういう立場に居るのか少しずつは理解して来ていた。吉田はそういう事も知っていたはずだ。奈美恵に近付こうとしたのもその辺りのことが関係あるのかもしれない…。そんなことを考えていると耳元で奈美恵が少し大きな声を出したのでふと我に返った。

「ねえ、ちょっとおなかが空いたのでラーメンをてべて行きたいんだけど」

「ああ、いいよ」

「じゃあ、マッチョくんそこのラーメン屋に行こう」

「マジっすか!俺、一度ここのラーメン食ってみたかったんすよ」


 しばらくすると、向井が戻って来た。

「どうだった?」

「最近、特に人の動きはないようです。日雇いのヤツらも身元のはっきりしないやつは使ってないそうです」

「そうか。引き続き注意して情報を集めろ」

「分かりました。ただ、ひとつ気になることが…」

「なんだ?」

「加藤健二が仮出所して藤波の女と一緒に居るらしいです」

「なに!」

 俊彦と若田部が同時に声を出した。







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