8_魂玉
その後七日間、灯真は朝から晩まで工房に入り浸っていた。
作業台の上には、まだ肌を張る前の骨格が横たわっている。真鍮と、白木と、細い鋼で組まれた、年齢にすれば六歳ほどの、童の骨組みだ。
関節の一つひとつに、髪の毛ほどの撥条が通され、指を、手首を、しなやかに曲げられるように、仕込まれている。
「器用なもんじゃのぉ」
工房の作業台に置かれている茶釜から顕現した福丸が興味津々で覗き込んでいる。
髪の毛ほどのバネ、溶接用の工具、歯車は機械式時計に使われるような細かいものから、拳サイズのものまである。
「見てろ。うちの人形が、他所のと、どこが違うか」
舶来のオートマタは、よくできている。だが、その顔は決して笑わない。目は硝子玉のまま、口は彫り込まれた線のまま。動いても、それは精巧な面が動いているにすぎない。
御影の人形は、一味も二味も違うのだ。
灯真はピンセットで髪よりも細い絹のような糸を一本、つまみ上げた。淡く、飴色に光る特殊な糸。これを頬の下地の決められた道筋に沿って幾重にも張っていく。
「これはな、人の顔の筋を真似てるんだ」
口の端から、頬へ。眉のあいだへ。目尻へ。人が笑うとき、驚くとき、泣くとき——その下で動く細かな筋繊維。それをこの糸の一本一本を通して、束ねて再現していく。糸の張り具合を、髪一筋ぶん、指先で加減し、また一本張る。気の遠くなるような根気仕事だった。
「ほぉー」と言って福丸は感心するように見入る。
「俺が開発したんだぜ。門外不出だ」と言って灯真は胸を張った。
「なんだか嬉しそうじゃな」
福丸の言葉に、灯真は意外そうな顔をした。
「嬉しい……?まぁ、そうだな。自分が作った人形が自由に動くんだもんな。嬉しいもんさ」
「おらも楽しみだ!灯真よ、いつできるんじゃ?」
「そうだな。大まかな骨格はだいぶ進んだから後は——」
灯真は道具箱のいちばん奥の、小さな桐箱へと手を伸ばした。
そして、箱を開けた手がぴたりと止まった。
「……あー」
「灯真様?」椿が、傍らから、覗き込む。
「魂玉を切らしてた」
灯真は、ぽりぽりと、頬を掻いた。
「魂玉……?」福丸が、首をかしげる。
「お前をこの体に宿すための、器だよ」
灯真は空の桐箱をことり、と置いて説明した。
どれほど精巧に体を組もうと、それだけではただの蒸気仕掛けの人形にすぎない。
そこに、福丸という付喪神の魂を宿し、繋ぎ留める。そのための器が魂玉だ。
人形の胸の奥。いわば、心臓の位置に納めるものだ。
「それは、特別なものなのか?」
「あぁ。緋緋色金っていう、特別な金属から作るんだが……。仕方ないな。これから雨月堂に行こうか。椿、準備して」
「かしこまりました」
と言って椿は桐箱と風呂敷を出して、福丸の茶釜を仕舞う準備をする。
「おぉ!外出か!昼の外界は初めてじゃ」
こうして、灯真と椿、福丸は緋緋色金を求めて雨月堂へと出発した。




