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19/37

19_帰路

 ***

 翌日、灯真たちは朝一番の乗り合いバスに揺られ、帰路を辿っていた。


 バスに乗る際、運転手からは物珍しそうな目で見られた。それはそうだろう。朝は鉱山に向かっていく坑夫が多い。この時間に駅に向かう人間自体少ないし、金田一のように仕立ての良い白スーツなど目立って仕方がない。


「いやぁ、しかし痛快な旅であった!」


 乗客のいないバスの椅子に座り、金田一は腹式呼吸のように「はっはっは」と笑った。


「妖が僕の前に立ち塞がり、しかもそれを退治した!人を救い、好敵手を得た。二十万円など安いものよ!」


 ——なんというか、良い性格をしている、と思う。


 灯真は金田一の向かいに座り、外の景色を眺めた。

 夜の名残を引きずる田園の上を、淡い朝靄がたなびいている。

 そして、時折聞こえる蒸気エンジンのシュッシュッ、というピストン運動の音。

 日常といえば日常の範囲だが、今日はなんだか新鮮だ。

 そんなことを思っていると、向かい側から「おい」と金田一の声が聞こえた。


「そういえば、灯真よ。お前の横にいるのは自律人形(オートマタ)だな」

「ん?あぁそうだけど。え、今?」

「いやぁ、詩乃舞嬢のことしか見えていなかったからな!」


 威張るなよ、と思うが、もうこいつのこんなところでは驚かない。


「椿だ」


 今更だが紹介すると、椿も静かにお辞儀をした。

「よろしくお願いいたします」


 しかし椿の仕草を目にした途端、金田一は目を見開いて驚いた。


「なんだと……?」

「ん?」

「おい……この自律人形、どこで手に入れた……?」

「どこでって」

「なんだ?!今の仕草!今の表情!今の声!いやそれ以前に見た目もだが…!これほどの自律人形(オートマタ)を何故お前が持っている!!」

「いや待てって。椿は俺が創った自律人形だよ」

「なっ……!お前が、だと……!?」


 そういえば言っていなかった、というか言う機会もなかったなと思う。


「俺の本職は……どっちかっていや人形職人だよ」

「なんと、お前は陰陽師でありながら人形職人とは……いやしかし御影人形工房、確かに聞いたことがある。まさかこれほどとは……!」


 明らかに興奮気味な金田一は、じっと観察するように椿を見る。


「——いやですわ…」


 椿は少し恥ずかしそうに、着物の袖で口元を隠した。

 その仕草に、また驚く。


「信じられん……自律人形は式神札が入っていれば決まった仕事はこなせるが、動きは直線的。ここまで揺らぎのある動きは見たことがない」


 ——揺らぎのある動き。


 灯真は人を評価するほど、自分ができた人間だとは思っていないが、金田一のその言葉で「次代の蒸気産業を担う男」と自負していたのは伊達ではないらしい、と思った。

 そして、灯真は職人である。だから自分が作ったものを褒められれば嬉しいに決まっている。


「へぇ…わかるじゃないか」


 その結果、口では平静を装っているが、やや()()()()


「わかるとも!わからん方がおかしい!指のしなやかな動き、関節の遊びが人間の動きと寸分違わんように設計されている。頬の微かな動き——恥じらいの表情だと?そんなもの、人形の域を超えているぞ……!」


 ぶつぶつと呟く声が次第に熱を帯びていく。

 しかし不意に「だが…」と言って、少しだけ残念そうな顔で灯真を見た。


「緻密な手間を惜しまずかけられたこれだけの技巧、まさに職人の愛情だ。と言うことは量産はできん。そうだな」

「確かにそれは、…できねぇな」

「だろうな。だがお前の技術が十年、いやそれ以上先を行っているのは事実だ。うむ」


 数秒、下を向いて何かを考えた末、金田一はすっと座席から立ち上がった。


「御影灯真よ!」


 がしっと灯真の両肩を掴む。眼差しは真剣なものだった。


「うわ、なんだよ急に」

「お前の作った自律人形(オートマタ)、椿を——帝都機巧(カラクリ)展示会に出展させよ!」

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