19_帰路
***
翌日、灯真たちは朝一番の乗り合いバスに揺られ、帰路を辿っていた。
バスに乗る際、運転手からは物珍しそうな目で見られた。それはそうだろう。朝は鉱山に向かっていく坑夫が多い。この時間に駅に向かう人間自体少ないし、金田一のように仕立ての良い白スーツなど目立って仕方がない。
「いやぁ、しかし痛快な旅であった!」
乗客のいないバスの椅子に座り、金田一は腹式呼吸のように「はっはっは」と笑った。
「妖が僕の前に立ち塞がり、しかもそれを退治した!人を救い、好敵手を得た。二十万円など安いものよ!」
——なんというか、良い性格をしている、と思う。
灯真は金田一の向かいに座り、外の景色を眺めた。
夜の名残を引きずる田園の上を、淡い朝靄がたなびいている。
そして、時折聞こえる蒸気エンジンのシュッシュッ、というピストン運動の音。
日常といえば日常の範囲だが、今日はなんだか新鮮だ。
そんなことを思っていると、向かい側から「おい」と金田一の声が聞こえた。
「そういえば、灯真よ。お前の横にいるのは自律人形だな」
「ん?あぁそうだけど。え、今?」
「いやぁ、詩乃舞嬢のことしか見えていなかったからな!」
威張るなよ、と思うが、もうこいつのこんなところでは驚かない。
「椿だ」
今更だが紹介すると、椿も静かにお辞儀をした。
「よろしくお願いいたします」
しかし椿の仕草を目にした途端、金田一は目を見開いて驚いた。
「なんだと……?」
「ん?」
「おい……この自律人形、どこで手に入れた……?」
「どこでって」
「なんだ?!今の仕草!今の表情!今の声!いやそれ以前に見た目もだが…!これほどの自律人形を何故お前が持っている!!」
「いや待てって。椿は俺が創った自律人形だよ」
「なっ……!お前が、だと……!?」
そういえば言っていなかった、というか言う機会もなかったなと思う。
「俺の本職は……どっちかっていや人形職人だよ」
「なんと、お前は陰陽師でありながら人形職人とは……いやしかし御影人形工房、確かに聞いたことがある。まさかこれほどとは……!」
明らかに興奮気味な金田一は、じっと観察するように椿を見る。
「——いやですわ…」
椿は少し恥ずかしそうに、着物の袖で口元を隠した。
その仕草に、また驚く。
「信じられん……自律人形は式神札が入っていれば決まった仕事はこなせるが、動きは直線的。ここまで揺らぎのある動きは見たことがない」
——揺らぎのある動き。
灯真は人を評価するほど、自分ができた人間だとは思っていないが、金田一のその言葉で「次代の蒸気産業を担う男」と自負していたのは伊達ではないらしい、と思った。
そして、灯真は職人である。だから自分が作ったものを褒められれば嬉しいに決まっている。
「へぇ…わかるじゃないか」
その結果、口では平静を装っているが、ややニヤけた。
「わかるとも!わからん方がおかしい!指のしなやかな動き、関節の遊びが人間の動きと寸分違わんように設計されている。頬の微かな動き——恥じらいの表情だと?そんなもの、人形の域を超えているぞ……!」
ぶつぶつと呟く声が次第に熱を帯びていく。
しかし不意に「だが…」と言って、少しだけ残念そうな顔で灯真を見た。
「緻密な手間を惜しまずかけられたこれだけの技巧、まさに職人の愛情だ。と言うことは量産はできん。そうだな」
「確かにそれは、…できねぇな」
「だろうな。だがお前の技術が十年、いやそれ以上先を行っているのは事実だ。うむ」
数秒、下を向いて何かを考えた末、金田一はすっと座席から立ち上がった。
「御影灯真よ!」
がしっと灯真の両肩を掴む。眼差しは真剣なものだった。
「うわ、なんだよ急に」
「お前の作った自律人形、椿を——帝都機巧展示会に出展させよ!」




