13_鬼哭石(きこくせき)
「——なんだ…?」
石の破片は、灯真たちの手の届かない宙の一点へとあつまり、空間が裂けたように開いた闇へと吸い込まれていく。
「ちぃっ!」
あの石はまだ祓い切れていない。灯真が印を構え呼び戻そうとしたが、その法力が発動するよりも早く最後の一片が裂け目のなかに消えていき、——そして、音もなく閉じた。
「今のは—— …?」
「多分転移の術だ」
灯真は石の破片が消えた虚空をじっと見る。
「誰かが遠くから、この石を見ていた。砕けたところを回収しやがった」
「そんな……!それじゃぁ、誰かが仕組んだってこと——?」
「あぁ。最初からできすぎてた。人間が偶然掘り当てたんじゃない。掘り当てられるように仕込んだんだ。転移術は好き勝手に入り口、出口を作れるもんじゃない。そいつは——、一度ここに来てる」
「その時にマーキングしたのね」
「そういうことだな」
そう言って灯真が二本の指を今しがた石が消えた虚空へとまっすぐ伸ばすと。
「なんじゃあれは……?!」
椿に抱えられた福丸が茶釜のまま声を出す。
灯真の指が向けられた宙の先にある岩の隅から、はらりと紙符が落ちて、そして燃えた。
「見つかったら燃えて証拠を残さない、か。手が込んでやがる」
「いったい誰が……」
詩乃舞の言葉に「さぁな」と応えながらも、灯真は福丸の話を思い出していた。
烏丸侯爵を変えたと噂される陰陽師。
灯真は拳を固く握りしめた。
***
帝都のほぼ中央に位置する屋敷で、一人の男が印を解いた。
文机の上には、赤黒い石の破片が転がっている。
白く、長い指がその一片をつまみあげた。
そして男がふっと息を吹きかけると、散らばっていた他の破片が磁石のように引き寄せられ、集まり、結合し、やがて元の歪な水晶の形へと戻っていった。
「……よく育った」
男はほくそ笑みながらそう言ったが、すぐに水晶のヒビに気づいて顔を顰めた。
「——千手の宝具か。くだらん」
そう言いながら男が水晶のヒビの部分を撫でると、すっと割れ目はなくなり今度こそ元どおおりになる。
その撫でた指を払い、浄化の力を消滅させると、何事もなかったかのように鼻歌を歌い始めた。
そして旋律をなぞりながら上機嫌に部屋の中央へ進み、最後の歌詞だけ口にした。
「My fair lady♪」
行灯の淡い光が、男の顔を照らす。
「鬼哭石……これこそ私の理想を創る始まりだ——」
それは独り言だが、まるで聴衆に語りかけるようでに腕を広げ、誰もいない部屋で一人を押し殺したように笑った。




