11_赤銅色の鬼
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坑道は、奥へ行くほど闇が濃く、そして気温も下がっていった。
詩乃舞が持ってきた呪具「狐火」がたいまつ代わりとなり、分かれ道は灯真の探知用の紙符が細かく震えながら先導していく。
「……灯真様、この気配は」
椿が落ち着いた声で後ろから語りかける。
「あぁ。完全に妖の気配だ」
「ですが、頭領は人間だったはず……」
妖が頭領に化けていたわけではない。頭領は正真正銘人間だったはずだ。
やがて、細かった坑道がふっと開けた。広場のような場所に出たらしい。
狐火の炎がゆらゆらと大きくなり、薄暗いながらもその周囲を照らし出す。
「ちょっと、あれ……!」
詩乃舞の声より先に目に入ったのは人間の骨。そして岩肌に染み込んで固まった血。衣服も散乱しているが、どれも状態からみて日が浅いことは明らかだ。
そして、その広場の奥。
——ずるり。
ツルハシや木材が散らばる中で、何かが動いた。
仄暗い闇の中で、ぬっ、と身を起こしたそれは。
灯真の倍はあろうかという巨躯だった。
体表の肌は赤銅色になり、異常な筋肉で膨れ上がっている。額からねじくれた角が二本突き出していた。
「あれが、頭領……?」
やや掠れた声で詩乃舞がそう言ったのは、鬼が身につけている、今にもはち切れんばかりの人間の肌着、作業着を見たからだ。
鬼が人間の衣服を着たのではない。人間だった頃から身につけていたものが、膨れ上がった身体に張り付いているのだ。
鬼は、こちらに顔を向けると、落ち窪んだ眼窩の奥にある眼をぎょろりと剥いた。
「グ、オォォォォォォオ!!!」
獣のような咆哮で疾風が起こり、地を蹴り、鬼が突進してきた。
「問答無用かよ!」
人間の頭ほどもありそうな拳が、真上から振り下ろされる。
「四方清浄」
灯真が唱えると立方体の結界が張られ、拳が弾かれた。
その衝撃で、鬼は数メートル後退する。
「これで防げるってことは…」
灯真は、独り言のように静かに呟くと、今度は相手に向かって跳躍した。
「え、正面から?!」
詩乃舞が叫ぶ。案の定、赤銅色の鬼は拳を構え、向かってくる灯真に殴りかかろうとしていた。
しかし。
繰り出された鬼の拳は空を切る。
目の前にいたはずの灯真が消えていた。
「こっちだよ」
鬼が振り返るより早く、灯真は背後から左肩に紙符をぺたりと貼った。
「——爆ぜろ」
灯真が二本の指を立て、唇に当てて命じると、ボン!と紙符が爆発し。
鬼の左肩がごっそりと抉られた。
しかし。
「……おいおい嘘だろ」
抉れた傷が、ぶくりと大きな水疱のように盛り上がり、みるみるうちに塞がっていく。爆ぜた肉が修復され、高速で再生されていく。
「ちょっと!宝具使って倒しちゃいなさいよ!」
後方で詩乃舞の声がした。
「あんたのあの宝剣!」
「バカ!そんなことしたら酸素がなくなるだろ!」
あ、そうか。と詩乃舞がハッとする。呪力で増強しているとはいえ、確かにあんな大掛かりな焔を出したらここ一体の酸素を使うことになるだろう。そうでなくても灯真の技は大規模なものが多いのだ。
「じゃあどうすんの!」
「どうもこうも」
灯真は再び迫る鬼の拳を紙一重で身を翻しながら躱すと、至近で風が唸った。掠っただけでも骨が砕けそうな圧だ。
「地道にやるしかないだろ」
人差し指と中指を揃え、とん、と鬼の胸に当てた。
「点衝」
次の瞬間、鬼の巨躯が掻き消えるように後方へ吹き飛んだ。
「ガァッ!」
背後の岩壁にめり込み、背後の岩壁にめり込み——抉れた岩が、ぱらぱらと細かい音をたてて崩れ落ちる。




