放ってはいけないモノ
些細な失敗も、時には大きな事件につながる事もある。
ー惑星リズ建国記念博物館の収蔵品ー
・FT15型戦艦
帝国軍津島造船社製の主力戦艦。在来のFT14型からの改良点は砲射程の強化のみ、資源不足から装甲が薄くなっており被弾に弱くなった分船体の総重量が軽くなり大幅に航行速度が向上している。
一方でシン造船社、ユーリアス社、エルーラ社が共同開発した派生型も存在する。本家とは大きく異なり外観もMA40型重巡洋艦同様丸みを帯びたスラスターフレームが特徴のデザインに一新されHA900長射程砲、さらにエンジンもセブンスターエンジンを採用している事からFT14型の性能を損なわず大幅な性能向上を果たしており、アズランド新生帝国とフルジア王国では重装甲戦艦として運用される。
・オーロラ級中型輸送艦
ステラー王国の中型輸送艦、競合機種同様、地上とステーション間の貨物のやり取りを主に行う設計だがステラー王国の交易品目としては農業製品と薬品が主だっている為、リアータ級大型輸送艦の出番の方が多く、運用は比較的少ない傾向にある。
特に大気圏内航行性能が優れており、艦隊を組んで運用も可能な作りとなっている。
ネドリー運輸にはステラー王国関係でごく少数が導入されている。
・・・そう、何も無かったのだ。
未成年相手に淫行が行われないよう見張っているかのようにエルゼと寝ようとすれば必ず目の前にはとある汚職警官が現れる。
「・・・今夜は・・・なんだ?」
「エルムンドドエルの研究室で火事があった」
「ほーん?それは消防の仕事じゃ?」
・・・あっ、これ面倒な奴。
オレット警視長がめんどくさそうにタブレット端末を差し出して来た。横ではエルゼが邪魔をされてふてくされている。
「・・・帝国軍のクローン兵のサンプルが逃げ出したのが真相だ」
「あーめんどくせぇ・・・」
「・・・めんどくさいだろ?」
オレット警視長が溜息をつきながらコーヒーを口に流し込む。屋敷周辺は厳重警備、下の格納庫も同じく高額艦は簡単に動かせないようにキツキツに固めて保管されている。逃げるならばもう小型機でしかまともに出られないだろう。勿論隔壁は全閉鎖、立ち入りには上の事務棟から下に降りる、もしくは整備用通路から他ならない。整備用通路もステーション管理に近い人しか把握していないので格納庫の警備が必然と厳重になってしまっている。
・・・で、何だ?これは・・・。
警察では帝国軍クローンと言う名目にはなっているが、非検体としてTY6442α4Dという名目が与えられているこの個体、明らかにおかしいのがよく分かる。
・・・クソトカゲがαと付ける個体は十中八九強化個体である。
何故それが分かるか、ツェルナとサシリア、実は検体番号が存在する。TY6325、TY6327である。TY6326はシリウス王女殿下であるのだが、アイリス達アルビノ個体に関しては違う、例を言えばアイリス、TY6403α3Cと言う検体番号が実は付けられている。なぜそれを知っているか、度々事務所で行われる検診のカルテにそう検体番号が記されているのをチラっと見かけたからだ。
α以降の英数字は恐らく詳細仕様だが、なぜαが付くと強化個体と言えるかについてはアイリス達アルビノの子達が強く関係している。彼女らの成長速度が異常に早かったからだ。昆虫族でも異常な速さ、アイリスだってもう頭脳では艦隊指揮などお手の物で、リユン元帥と同格レベル、ちなみにリユン元帥はまだ25歳である。うちの参謀の中で最も高齢、62歳のカトロニコフ大将が老いと勘違いして成長速度を褒める事もしばしばあるほどである。これにはエルフ族の遺伝子が強く影響していた。超短命ゆえに成長速度が異様に早い構造をしている、それを利用してさらなる成長促進を図る実験を施したのがアイリス達である。
・・・そして何が面倒か?
・・・それはこのステーションで実験の産物として生まれた存在だからである。
この検体番号、俺やミヴェルマンには与えられていない。ルーガとジーナの子のユリス君は中央区画の普通の病院生まれ、出産にクソトカゲは関わっていない為与えられていない。そして人工的に作られた過去を持つシルヴァやリーリア、ローラも同様に与えられていない事から検体番号その物はクソトカゲの実験場で作られた存在にしか与えられないと言う推論が付くのだ。
「・・・で、帝国クローンをチューニングして強化するならどうします?旦那?」
「・・・それを俺に聞くか?」
「成長速度か・・・肉体強化か・・・知力の底上げか・・・でしょうか?即戦力を生産するのであれば成長速度が速くないといけませんし、それにともなって知力もそれ相応にしなければなりません、戦闘面で肉体強化も出来ていればトレーニングの期間も短縮できましょう?」
「流石皇后陛下!コイツは恐らく全部ですぜ?」
「・・・全く、相変わらず目上の方への礼儀を知らない人達が多くて困りますが・・・まあいいでしょう」
「とは言え今は研究区画に居るのは危険だと思われる、直ぐに退避を・・・」
その時、ガラスが割れる音がした。
「・・・そういや、この区画の隣は研究区画だよな?」
「・・・そーだぜ?旦那・・・」
慌ててビームライフルを執務室の机の下から取り出す。そして引き出しからローラがいつもスカート下に隠している武器一式をエルゼに投げた・・・そう言えば出産前に剝ぎ取ってからそのままずっと持っていた物だ。
ゆっくり扉を開けて廊下を見る。逃げ出した実験クローンは居ない。とりあえず管理棟の正面の様子を確認する、正面を囲んでいた警察部隊が全滅していた。
「・・・こいつぁー・・・やべぇぞ?」
「言われなくたってだな?」
警察組織自体は現状ほとんどが民間生まれに置き換わっている。帝国滅亡の付近から元帝国軍人が新生帝国軍に志願する者が多かった、代わりに練度の低い難民を穴埋めとしていたのが裏目に出た。元軍人ならもう少し上手くやれただろう。
・・・こうなれば宇宙に出る他無い。
だが、その判断が遅かった。
「ミツケタ・・・ステーションカンリシャ・・・」
とっさにビームライフルで受け身を取った、ビームライフルが真っ二つに折れ曲がる。直後、2階から吹き飛ばされた。
・・・マジで何が起こったのか分からない。
エルザと一緒に外のパトカーの屋根に叩きつけられる。キャビンが大きく潰れるが、体はまだ動く。反動で落ちそうなエルゼの体を抱き寄せた刹那、エルゼの居た空間に拳が飛んできたのだ!
そのまま転がるようにパトカーの屋根から降りる。直後、パトカーは爆発、理由など知らない!装甲車の後ろに隠れて爆発をやり過ごす。
このままじゃ・・・死ぬ!
ステーション管理者では無いが、怪しい奴は全員始末するつもり、恐らく、変な実験の過程でおかしな体にさせられた事を深く恨んでいる・・・これは復讐である。
とっさに目の前のパトカーが目に入る、扉を開ければ開いた、鍵なら車内にある、いざという時に誰でも動かせるようにと言う事だろう。
気絶したエルゼを乗せて急いでパトカーを走らせる。その頃には装甲車も爆発させられていた。
しかし、せいぜい解放されている隔壁と言えば高速道路一周しかない。闇雲に逃げる他無いが・・・。
・・・何で付いてこられるんだよ・・・!?
時速は150km/hを越えている、なのに高速道路を生身で走って追ってくる・・・そして思うのだ。
・・・この研究は何の役に立つのだ?
確かにエルゼの言う通り、ドロイド兵は即戦力に対してクローン兵は育成の手間が掛かる、なら帝国もドロイド兵を生産すれば良いだろう・・・だが、ある問題が存在する。それはうちで良く使っている建築ドローンが日頃抱えているとある問題と直結している事である・・・それこそ電波の混線、大量の建築ドローンを使うにも運用限界という物が存在しており、これを回避するにはある程度距離を放した所で建築ドローンをそれぞれ全ての周波数帯のセットのドローンを稼働させてその運用限界を越えるしか方法が無い。そしてこれはドロイド艦隊にも言える・・・活動停止をしていたのは増えすぎて混線して親機かサーバーか何かしらと通信が出来なくなってしまったからと言われている。
何が言いたいか、両軍でドロイド兵を運用すれば混線してしまい、最悪どちらかの陣営に乗っ取られるか、そうでなくとも意図しない被害をもたらしてしまう。制御不能を避ける為にも、帝国はクローンと言う安全策を採用したようだ。なので帝国側がどうしても人手不足で押されてしまうのだ。
しかしこのままではいずれパトカーはバッテリー切れを起こす。このままではエルゼまで巻き添えだ。ナビゲーションを適当な格納庫・・・アーバン船団商事の格納庫区画にセット、そしてオートパイロットを起動して車内から使えそうな物を探す・・・トランクにはビームスナイパーライフルが入っていた。
「・・・これだ」
使い方はよく分からないが適当に組み立てる、そして構えた。
・・・当たってくれ!
引き金を引けばクローン兵の額に着弾、訓練はしていないが、外しようも無い装備と環境が揃っていた。
よし・・・!
だが、頭が吹き飛んでもまだ動く、なんだコイツ!
続けて何発も打ち込むが、今度は車側の車速が落ちていく。
どうしてだ・・・?
ふと後ろを振り返ればカーナビゲーションシステムはアーバン船団商事の格納庫に入ろうとしていた。
・・・まずい・・・まずい!!
このままでは追い詰められる!そう思っていたが、パトカーはアーバン船団商事の格納庫の内部まで入ってしまった・・・隔壁は閉鎖してあるはずだが何故か開いている。
・・・クソっ!
ひとまず助手席ドアを蹴り開けてエルゼを引きずり出して逃げる。走り出した瞬間にパトカーは木端微塵、目の前にはロゼンダ級、ひとまずそこへ飛び込んだ。直後ロゼンダ級は離陸を開始する・・・だが、エアロック隔壁の先から嫌な音がする・・・パトカーも拳一つで木っ端微塵だ・・・いや、まさかな?
とりあえず逃げろ、そう本能が訴えかけている、急いでさらに奥へと走ればエアロックが破壊された音がする、防護隔壁も閉じ始めた。だが、その隔壁も次々に破壊されていく!
「ファルマン様!こちらへ!」
「巻き込んですまない!」
「今はファルマン様のご命が大切です!」
曲がった角でミヴェルマンの部下が手を引いてきた。そして昆虫族用の宇宙服に放り込まれ、そして担がれる。向かった先は貨物室だ、気が付けば彼らも宇宙服を着用している。貨物室にはロゼンダ級の船員が宇宙服着用で待機していた・・・当然クローン兵もここへ現れる。
「ご武運を!」
ここまで運んできてくれたミヴェルマンの部下達は敬礼。
ミヒーッ!!
その後は無線越しにミヴェルマンの部下達の悲鳴、それと共に目の前には宇宙空間が広がる・・・ミヴェルマンの部下達は一体何をしたのか・・・船乗りならよく分かる、宇宙空間で貨物を取り扱う時に最も気を付けなければいけないあの人為的ミスだった。
・・・真空爆発・・・か・・・。
宇宙空間で減圧をしない状態での貨物ハッチ解放、特に大型艦は急激な減圧が掛かる事から真空爆発事故とか呼ばれている・・・初心者なら誰しもが一度くらいは経験する貨物ハッチの操作ミス、特に地上とのやり取りが多い中型貨物船で発生しやすい事故で、小型でやらかしておけばせいぜいコンテナ破損程度とまだ可愛い物だが、大型なら空荷かつ、事前に構えていない限りは、暴れ狂う荷物に潰されたりなどして確実に船員が100人以上死ぬ大事故となってしまう・・・勿論最近の船にはセーフティが存在するのでそう簡単には出来なくなっているミスでもあるが、マニュアル操作なら別の話・・・主に宇宙空間で貨物を取り扱う時に必須なのでセーフティがあってもこの機能が存在する。貨物室の減圧をせずにこれをやると作業員や貨物が船外へ吹き飛ばされてしまう、彼らはそれを使ったようだ。流石のクローン兵も真空空間に対してはなすすべ無しだ。一応ササリッサ級も一斉ドックアウトしたらしい、直ぐ近くに漂っている様子が全く体に合っていない宇宙服のヘルメット越しに見える。
それから漂う事10分くらい、ササリッサ級に無事に回収された。ミヴェルマンのロゼンダ級はもれなく大修理が確定した。
「ミヴェルマン、すまん」
「ファルマンちゃんが無事でよかったぁ!お船なんて消耗品なんだから別に気にしなくてもいいのに!皆も怪我無く全員無事だったし!」
「修理費は俺が払う・・・と、言いたい所だが、事の発端はクソトカゲだ、アイツからたんまり請求して欲しい。この際だからそろそろ壊れそうな所もアイツの金で全部替えちまえ」
「あぁ~・・・あれドエルちゃんの所のだったのぉ?見張り番の子達が言っていた、あのカサカサしてた奴って・・・お姉さんは上で寝てたからよく知らないのぉ・・・」
「・・・皆が居なきゃマジで死んでたよ」
「でもよかったぁ!皇帝夫妻が二人とも死んじゃう事件にならなくて!」
ミヴェルマンにぎゅっと抱きしめられる。相変わらずの甘い香り、正直クセになりそう・・・俺は怪我無かったが、エルゼは骨折も多数・・・しかし、よく目の前の汚職警官は無傷で生き延びたなと関心する。
「・・・力になれなくて悪かったな、アイツの言動的には旦那よりとっつぁんが標的ではあったんだが、どちらにせよ復讐対象としてはアンマッチ、クローン研究とステーション管理者はそもそも無関係な事例がほとんどだ、その辺の知識が抜けていたという事は研究としては大失敗と言った所か・・・ひとまず居住区にまで危害が及ばなかったのが救いだぜ・・・」
「・・・しばらくは絶対安静・・・」
エルゼは俺の横で涙を流す。一方ではロゼンダ級の修理をやりたいと申し出るユーリアスとシンの社長ども、そして今に至るまで中央区画の自宅でジーナと一緒に甘い夜を過ごしていたルーガ、いつに無く暗いカトロニコフ達、リユン元帥に至っては指令室で倒れたそう、原因はカフェイン中毒・・・新生帝国軍は今日も忙しい、これでも民間向けのインフラ業務は別の省庁に振ったはずだったのだが・・・。
エルゼが怪我をしてからと言う物の、ぱったりと深夜に汚職警官が来る事は無くなった・・・その代わりにシルヴァとリーリアのお誘いが激しくなったのは少し困る所ではあるのだが、その後の皇国軍と帝国軍の関係はたいして進展無し、それもMA40型重巡洋艦が皇国軍にとっては脅威となっているからである。しかもドロイド艦隊の気まぐれで現在は皇国軍要塞ステーションが徹底的に更地にさせられている。それを良い事に人類は巨人族への報復の準備を着々と進めていた。
「・・・しかし、いいのか?超兵器をビーア星系に不法投棄してよ?あれがあれば皇国もコテンパンに出来るぜ?」
「そもそもが条約違反の代物だ、向こうが先に使いだしたとはいえ、こっちも使ったら戦後処理で銀河議会に何を言われるか分からない。まぁバラす程度なら近隣諸国も何とも言わないだろう、だが使うとなると本当に後で面倒だ」
「そりゃ確かにそうだな?」
「・・・それに俺らには母星と言う居住惑星が今の所存在しない、居住可能惑星を粉砕するくらいなら制圧して手に入れたい・・・まぁ、正直星も要らんけどな?」
「・・・国としては母星となる星を持つべきだが、領土拡大に対応出来ないのが今の現状、まあしょうがない・・・やっぱり銀河議会は俺らが一度バラした事については何も言ってこねぇぞ?抑止力として保有を認めてくれているんじゃないのか?」
「あくまでも新生帝国はアレの爆発物解除を行っただけだ、銀河の資産たるジャンプゲートが消失でもしたら銀河中の全ての国が皇国を更地にしようと動き出す、そうならなくともドロイド艦隊は自動的に皇国領土を狙ってくる。皇国としても面倒な機械をぶつける先を失う事はどうしても避けたいから自爆させる事が出来なかったんだ」
「と言うか、あれだけ帝国に肩入れして何故狙われない?」
「・・・さっき言ったろ?新生帝国は居住惑星を持ってないんだ。ハンマー・オブ・ゴッドを投入する理由が無い。コロニーなんてエンデラー級30隻もあれば容易に消せる・・・だが、皇国軍が容易に新生帝国に手を出せない理由が一つある」
「スクラップビルドだよねぇ?あと、これ!」
ツェルナが机の上に放置されていた埃を被っているドロイド艦隊の制御基板の一部が入った袋を持ち上げてくるくる回りながらルーガに見せびらかす。そして埃を浴びてくしゃみした。
「・・・皇国艦の在庫は無尽蔵、特攻させるだけなら獣人族の半数以上の種族を滅ぼしたドロイド艦隊の制御AI要らず、おまけに大した修理もせずに数万隻を短時間で用意できてしまう」
「自業自得とはいえ、容易に艦隊を投入も出来ない・・・それに、どうだ?再生ドロイド艦隊の研究は」
「順調極まりないぜ?皇国軍のようなヘマはしないように増殖はしないようにしてある、どちらかと言えば現状の皇国軍ドロイド兵と理論的には同じ物だ。生産量は人間が制御すればいい、苦労する所も何も無かった、ガワならドロイド艦隊の工場で作れちまうし・・・」
「せいぜい日頃の行いを反省してもらおうかね・・・」
タブレット端末に目を落とせばオロラ星系は皇国艦置き場になっている・・・ここには30億隻がただ保管されているだけ、機雷にしても良いしそのままトライアド民主共和国軍に譲渡してもいい、事実トライアド民主共和国籍の5~10隻くらいの貨物船団に1万隻の護衛艦隊を付けて何度か送った事があった、それはドライアド民主共和国軍側でのちに簡素な後付け戦闘AIが取り外され、今まで集めに集めた元皇国軍兵を乗せて民主共和国軍の再編成に充てられているのだ。トライアド民主共和国政府はきちんと買い取ってくれるのでちゃんと外貨になるのがまた嬉しい。
「そう言えば、FT15型戦艦の試作が明日ラインオフするぜ?つってもほぼ完成形だ、FT14型戦艦をMA40型重巡洋艦に近いデザイン方向へ斬新したが、基礎スペックは在来と同じ、せいぜいエンジンが処理に困ってるセブンスターエンジンに置き換えって所だ」
「相変わらず早いな・・・いつ開発に着手したとかもそうだが、そもそもFT14型戦艦は津島造船所じゃなかったのか?」
「製造でユーリアスも絡んでる、新型は津島抜きはおろか、帝国軍工廠にすら話を通していない。完全独断でメーカーが勝手に開発した代物だ。エルーラも入れたからフルジア王国がどちらかと言えばスポンサーに近い」
「クソ田舎のポンコツ軍隊もようやくマシな新型艦を揃える事が出来るって訳だな?」
「ま、今までマシな中古を横流ししてはいたがな?・・・とはいえ、FT15型戦艦、ユーリアス社ではシンが扱いに困っていたHA900長射程主砲の問題を整理して今度こそ積む前提の設計だ。現状は量産性と在庫過剰のHT702だがMA40型重巡洋艦で発覚したジェネレーター不足は十分クリアしている」
「問題は、ハンマー・オブ・ゴッドの装甲を抜けるか・・・か?」
「・・・まぁ、無理だな?元々エンジンまでが精一杯、だがオキタ艦隊の在来型をHA900搭載仕様の新型に置き換えれば長射程攻撃部隊の出来上がりだぜ?2隻来てもこれで安心だろう」
「・・・どうだろうか?2隻で駄目なら4隻投入してきそうな勢いなんだけれど」
とはいえ、これで帝国軍も成すすべなく消えゆく事にならなくなるはず。
翌日、格納庫へ行けば3隻のFT15型戦艦がやってきた。1隻は黒い船体カラーにスラスターフレームが金、艦首にはオヴェルツィッヒ帝国軍の紋章に正面にはオヴェルツィッヒ帝国皇帝家の家紋、同様の構成で船体色が赤い物が1隻、もう1隻はスラスターフレームが赤いだけの普通の帝国グレー、装備はHT702主砲が組み込まれているいわゆる通常仕様、黒い方はラベル・プリムナード、赤い方はローズ・プリンセスだろう・・・そう言えば旧ラベル・プリムナードの皇帝家の家紋プレートが取り外されている。
「・・・どうせなら新型に乗せて帰そうって事か?」
「どうだ?名案だろ?」
「・・・ま、ローズ・プリンセスが廃艦のついでだ、ローズプリンセスも直せない事も無いんだが、無事な部分を同型艦に取り付けるとなれば、それは皇女旗艦と言えた物かと疑問が生じてな?・・・そこの通常型以外はHA900長射程砲を搭載している」
「カトロニコフ達に評価してもらうさ」
「FT14型戦艦よりかは各段に使いやすくなっているはずだ」
「・・・詳しい事はカトロニコフ達に言ってくれ」
ルーガの肩を叩いて上に上がる、しばらくすれば報告は上がって来るだろう。
執務室に戻ればフランクリン大将からブリッド星系の近況報告が来た。ドロイド艦隊の造船所を7箇所抑えた事によりブリッド星系のドロイド艦隊の数が減少傾向に進んでいる事、なお、スペースデプリは処理に数世代掛かるレベル、全部かき集めれば全金属惑星でも出来そうな状況らしい。
一方でバーボン星系の経済は工業プラントやシンとユーリアス社を基盤としておおよそ回りだした。アグランダー王国の主要大手の会社もそっくりそのまま連れてきているので、土台さえあればアグランダー王国の遺産が大体動き始める。現状ネックになっているのはやはり食品系、土地は土台から作る他無いので食品系大手は苦戦を強いられている。しかし区画によって貧富の差はあるものの現状ではフルジア王国より遥かにマシにはなってきた。フルジア王国では未だ難民の今後については議論中の段階なのでエルゼもよくやっている方ではある。
「皇帝陛下、失礼します、至急ご確認頂きたい案件が」
マクシミリア大臣が入って来た。部品倉庫なんて足りなくなれば野外放置で必要になれば都度部品ヤードから回収すればいい、そうして余らせているのが皇国製エンジン、全部有効利用しようと考えれば皇国が新型エンジンを投入してこない限りは10世紀くらい経っても使い切れない程余らせている、少しでも消費しようとオーロラ級中型輸送艦、リアータ級大型輸送艦、アルザス級多目的輸送艦、インフィニティ級航空母艦、ヴァイオレット級修理艦などかねてより建造計画していたステラー王国艦に充てているが、彼らもそこまで運用出来る程人口がある訳では無い、ともあれ部品、そんな事までしても使い切れないんだから使うその時まで宇宙空間に野ざらしでいいじゃない、なので施設系はお前の仕事じゃないだろと断ろうと思う。
・・・だが違った。
「サリマン運輸がマーズラ星系に?帝国領から何かしら運んできてるんじゃないのか?」
「おおよそほとんどはそのよう・・・ですが、何も無い空間へ行く船が一定数いるようで・・・」
「それは星系警察・・・そうか、ステラー王国領だから明確な海賊行為以外は取り締まりが出来ないのか」
「委託されているとはいえ、不審船の取り締まりはステラー王国軍の領域です。いかがいたしましょう」
「サリマン運輸となれば、もう厄介事確定なんだが、ソデス国王にその話をしてみよう」
・・・大体これが絡めば厄介事しかない事で定評になりつつあるサリマン運輸、しかしそろそろある程度ステラー王国もネドリー運輸、もといアズランド新生帝国から自立してもらわないといけない。
・・・来月にでも訪問するか。
とりあえずタブレット端末を受け取る。ごくごく普通のサリマン運輸のER-3000C、しかし単独航行する先は毎回同じ、しかも1カ月前には海賊が出没していたエリアらしい。
・・・怪しいぞ?
だが、会談前に事件が起きた。リユン元帥が執務室飛び込んできたのだ!
「セルルド星系のレミア星系方面のジャンプゲートが帝国軍に破壊されました!」
・・・え?
予想外の出来事に思考回路が追いつかない。
「破壊した帝国軍艦隊はオロラ星系へ向かっておりますがどうしましょう」
「・・・事情聴取だな、オヴェルツィッヒ帝国との連絡手段も無いんだろ?」
「どの道、この艦隊を含む帝国籍の船はオヴェルツィッヒ帝国領へ戻れません・・・ジャンプゲート不使用の場合はマーズラ星系からオーバードライブ航行を繰り返し、6年程の歳月が必要となります、開拓探査船を除く現行の船にはそれほどの長期間の航行が出来る装備が存在もせず・・・」
「確実に生かして捕まえろ!」
「はっ!」
リユン元帥は逃げるように執務室を飛び出していった・・・この事から分かる事、帝国は皇国との不毛な戦争から逃げた・・・と言う事となる。
つまりそれはアズランド新生帝国がオヴィルツィッヒ帝国に代わってエマンクリシット皇国と全面戦争する事になってしまったと言う事だ。
・・・やられた。
ひとまず立ち上がる。車を走らせてVIP区画へ、まずはファーレンヒ皇女に会う必要が出来たからだ。カルデナ皇女でも良いのだが、まずは第一皇女に話をするのが普通だろう。
ここしばらくドッキングしっぱなしのC78型病院船に足を踏み入れる。流石にファーレンヒ皇女も集中治療室から出て、一般の病室に居る、火傷の跡が痛々しい。
「アズランド新生帝国ファルマン・ネドリー皇帝陛下、カルデナが世話になっております」
「ファーレンヒ皇女殿下、お体のご様子はいかがでしょうか」
「義手にも慣れ、来月からはリハビリに移行出来ると伺っております。皇帝家の存続の為にも縁談を早急に検討せねばなりませぬが・・・この顔では難しいかと思ってもおります・・・是非ともカルデナはいかかでしょうか?」
「申し訳ありません、縁談よりも重要なお話がございまして」
「国に何かあったのですか?」
「本日銀河時間14時、オヴェルツィッヒ帝国軍の艦隊がセルルド星系のジャンプゲートを破壊、これによりオヴェルツィッヒ帝国との連絡手段並びに航行手段が断たれ、カルデナ皇女殿下含むファーレンヒ皇女殿下らのオヴェルツィッヒ帝国領ご帰還が不可能となりました」
「・・・銀河の・・・資産を・・・条約においても故意の破壊は禁止されている・・・そんな事をすれば父上の首が・・・なぜ・・・」
「・・・おそらくは、皇国軍の侵攻を物理的に阻止するのが狙いかと思われますが、こうなった以上、ファーレンヒ皇女殿下らの命も危険となります。これよりバーボン星系へ移送いたしますので・・・」
ファーレンヒ皇女がベッドから降りる。おおよそ立てては居るが、まだ義足の制御に不慣れか、生まれたての小鹿のように義足をガタつかせて床に膝を付く・・・形としてはおおよそ土下座だ。
「・・・実行した艦隊を一隻残らず処分し、わたくしらの首を銀河議会に差し出して頂きたく思います」
「なりません、まずは事情聴取を予定しております。ゲートを破壊した理由を把握しているのは現状実行艦隊のみです、事情を把握してから銀河議会への釈明を考えましょう」
「わたくし達の命はどうなっても構いません!・・・国だけは・・・!」
「最悪、アズランド新生帝国でゲートの復旧工事を行います。我が国にはその技術があります。まずはバーボン星系へお逃げください」
「どのような事もいたします!どうかオヴェルツィッヒ帝国だけは・・・!」
「落ち着いてください、そもそもリストーン星系にあるマーズラ星系方面のゲートはオヴェルツィッヒ帝国が一度破壊した物、その後の判決的にも賠償と修繕だけで済んでいる、そしてその修理はフルジア王国が請け負っていた、皇女殿下らが処刑される事はそもそも無いはずかと思われます・・・なんとか打開策を考えましょう」
とりあえずファーレンヒ皇女を持ち上げてベッドに戻す・・・が、女性にしては非常に重い、それもそのはず、顔もスタイルも完璧だったファーレンヒ皇女の手足は金属部品に置き換えられている、その総重量は100kgを越えるのだ、しかもあくまでも専用品が出来るまでの代替え品、簡易的な物なので余計に重い、腰が砕けそう。
「それでは、わたくしが直接作戦内容を聴取します」
「いえ、ファーレンヒ皇女殿下のお手を煩わせる訳には・・・」
「オヴェルツィッヒ帝国の問題にファルマン皇帝陛下の配下のお手を煩わせる訳にも参りません」
ベッドに戻しても立ち上がる、そしてフラフラと歩き始めた。何処へ行くと言うのだろうか、リハビリも無しにここまで動けるとは大した物であるが、まず船が無い・・・実行艦隊の確保自体もワトソン艦隊が既に対応もしている。
「ご無理をしない方が・・・」
「必ずや、我が国の恥晒しから事情を聴取して参ります」
「・・・どうやって・・・なんだが・・・まぁ、いいや・・・」
彼女の船、用意こそしてあるがそもそも存在していない事は承知だろうか?旧ローズ・プリンセスは修理を諦め、皇女旗艦の装備品類をFT15型戦艦へ移した後、スクラップヤードに移動してある・・・今VIPエリアに保管してある船は新旧ラベル・プリムナードが1隻づつに、新ローズ・プリンセスが1隻、そしてツェルナ名義のロゼンダ級巡洋艦が1隻である。この病院船を除く全てが王族仕様、どれを使っても構わないが、ファーレンヒ皇女殿下はローズ・プリンセスの現状を知らない。
黙ってゆっくりファーレンヒ皇女殿下の後ろをついていく。足から出血している・・・まだ傷がふさがりきっていない。しばらくすれば手配していた車いすがやって来た。
「・・・わたくしの船は・・・?」
「申し上げた事もございませんでしたが、損傷が著しい為、誠に勝手ながら廃艦とさせて頂きました」
「・・・では、ラベル・プリムナードで行きます」
「僭越ながら新しい専用艦をご用意してあります、そちらをどうぞ」
「・・・このような物・・・」
「ユーリアス、シン、エルーラ、そして我が国のエルムネス4社が独断で新たに建造したFT15型戦艦の試作艦でございます。お気に召されればオヴェルツィッヒ帝国軍にもと思ってはおりましたが、今はもうその機会も無いようです。それに既に量産艦の生産にも着手しております・・・ファーレンヒ皇女殿下配下の生き残りの兵は何名か既に待機しておりますが、正規運用より少なくございますので戦闘となれば迷わず撤退なさっていただきたく思います」
そう説明し終わった時、右腕を骨折している帝国軍ファーレンヒ皇女艦隊司令官、クロノス・エルヴィン大将が目の前に現れ敬礼した。一応敬礼しておこう。
「クロノス大将、ファーレンヒ皇女殿下がこれよりセルルド星系にて帝国方面のジャンプゲートを破壊した帝国軍艦隊指揮官と直接話がしたいと言う。しかし現状、ファーレンヒ皇女殿下は本来動いてはいけないお体にある。よって貴艦はアズランド新生帝国軍皇帝旗艦、ユリアスの配下として行動を共にしてもらう。ファーレンヒ皇女殿下の命令があっても我々新生帝国軍の命令を優先せよ」
「はっ!」
・・・クロノス大将も若い、アインザックを思い出す。
彼にファーレンヒ皇女殿下を任せれば、ローズ・プリンセスの隣にユリアスが入って来た。外ではスギヤマ、リーサ艦隊が待機している。皇女や皇后の護衛と言えばこの2艦隊、最近ではせいぜいツェルナのファランス領現地視察くらいしか動かなかった艦隊だが、普段動かない事はつまり有事になれば直ぐに動かせるリストーン星系防衛の要になる主力艦隊と言う事にもなる。仕事が無い事は良い事なのだが、最近はいつもの3艦隊を酷使していた事もあるのであえて使命した。
ドックアウト後は2艦隊の前に付く。やはりドックアウト中も思ったが、FT15型戦艦は装甲厚めの防御に振った作りをしている。セレストスピアー級に比べると旋回性能諸々色々と劣ってしまっている・・・しかしFT14型戦艦と比べたらどうか、異次元の性能向上を果たしているようだ。これにはうちの3武将も文句無しだった。
セルルド星系に入ればワトソン艦隊が既に問題の帝国軍艦隊を囲んでいた。抵抗する気は無いらしい。
「・・・どうやらマーズラ星系のサリマン運輸が大きく絡んでいたようだ」
帝国軍艦隊の案内でマーズラ星系のあるポイントに向かえばサリマン運輸の船が30隻浮いている、そして、ここに無かった物があった・・・ジャンプゲートだ。
「セルルド星系側のジャンプゲートを破壊し、それで使えなくなったレミア星系側のジャンプゲートを使ってマーズラ星系と繋げようと・・・」
「遥か昔にレミア星系とマーズラ星系をジャンプゲートで繋ぐ計画は存在、しかしセルルド星系と繋ぐ方のと対して変わらない為、ハイパージャンプ計算まではされたが計画中止と・・・通りで短期間で実行出来た訳か・・・」
・・・これは新生帝国が帝国の盾にされた、そう言う事だ。リーサとスギヤマ大将は相当苛立っている様子だ。
「・・・わが身、ご自由になさって構いません・・・ですが、一度、お父上とは話がしたいと思っております。その後、カルデナ共々、奴隷として使うなり首を切って眺めるなり好きにしていただきたく思います」
「・・・経路変更・・・であれば銀河議会でも上手く説明すればおとがめ無しに出来るんじゃないだろうか、だが事前申告が無いとなれば・・・厳しいだろう」
・・・3肢切断でだいぶ自暴自棄になっているファーレンヒ皇女殿下、レミア星系のジャンプゲートを過去に計算された座標へ移動、そして再接続までには一月費やすのでその間の銀河議会への釈明はアズランド新生帝国が主だってする事となるだろう・・・ゲート関係の話ならシーモア共和国のエルムズデブラ首相に相談するのが一番か?爬虫類族は銀河で唯一中立を貫く大国家、かつ、面倒見も良い、それに賭ける他無いだろう。あとは同種族の先輩国家としてフルジア王国にもご協力頂きたい所だ。
・・・サリマンの船を見ると大体面倒な事しか起きない。
組み立てが終われば開通するまで獣人の女と遊び放題だぜ!とかそんなどうしようもない話を無線でしゃべくりあっているサリマンの船を放置してセントラル・プロムナードに戻る事にした。
・・・ひとまずはステラー王国、フルジア王国、ズァパリ民国、ラクトパレト王国、シーモア共和国、ドライアド民主共和国はこの事後報告を事前にオヴェルツィッヒ帝国から受け取っていた事にすると言う事で合意した。ゲート破壊については経年劣化で暴走を始めていた。メンテナンスの為稼働停止を試みたが出来なかったので破壊したという事にする・・・と言うのも現状の獣人族連合が消えた2大銀河勢力状態のパワーバランスを正常化するには中立勢力がある程度人間族に肩入れしなければならない。ラクトパレト王国とズァパリ民国、トライアド民主共和国にはこれを主張する見返りに軍用艦を要求、しかしラクトパレト王国以外はもう既に受け取っている分で良いと言われている。ラクトパレト王国にはオロラ星系の在庫品を無償で譲渡する事にした。おおよそ30億である。数量指定はされていなかったので押し付けるだけ押し付けたいと思う。そんなに要らないと言われても不法投棄するつもりだ。贈り物は多ければ多い程良いと言うだろう?獣人族の間でいくらでもシェアしてくれ、これでオロラ星系がすっきりするのだが、その分修理でまた溜まっていくだけでもある・・・ルーガはさらに他の星系からもかき集めて20億隻追加する予定、修理工場だけは山のようにあるアズランド新生帝国はこの後エマンクリシット皇国から宣戦布告を受けるのである。
「おおよそ50億隻は全部ラクトパレト王国領に押し込んだぜ?船が多すぎて帰って来るのが大変だったぞ?」
「・・・あぁ・・・ドラグノン宰相からお叱りを受けたぞ?確かに見返りとして戦闘艦を寄こせとは言ったが50億隻も要らないとね?帝国艦の中古を2万隻欲しかったそうだ、ズァパリから借りろと言っておいたよ」
「なんやかんやズァパリにも10万隻の帝国艦を送り込んでいるからな?ファランス領もいまや艦船修理業でかなり潤っているし、ズァパリ民国軍も未だドロイド艦隊の侵略をいともたやすく処理出来ている・・・やはりズァパリ民国艦と帝国艦は戦術的相性が良いみたいだ。ズァパリとラクトパレトの国交だけは残骸障壁で復活したし、侵略を受けて修理工場の半数以上を失っているラクトパレトもズァパリで修理改造が出来るようになった。いまやファランス領はズァパリ民国のドル箱地方よ、皇国製の部品なら送料だけしかかからないしな?」
「ついでに向こうのドロイド艦隊の残骸でファランス領府は大規模な修理工場を作る予定だ。金を持ってる地方なら交易ターミナルやリゾートを建設する地域もあるが、一度に500隻も修理する大規模工場とそれに併設する居住コロニーやその他生産施設を建造するらしい。こりゃ普通は国家レベルの宇宙開発になる。建築ドローンとリサイクルステーションの準備は出来てるよな?」
「あぁ?ツェルナに頼まれてたからついでに置いてきたぜ?」
「・・・話が早いな?」
「どの道ルシャーサ女王陛下も残骸について悩んでいたんだ。セントラル・プロムナード型ステーションを建造予定、区画は割り当て次第で何にでも出来る。ほとんどの居住区画の一部は農作物の生産プラント、中央区画はリゾート、研究区画も色々な工業区画になる。ここまでで大体分かると思うがファランス領に足りない物は何でも宇宙で作ろうと言う訳だ・・・スミオル辺境領の立場も見る影も無いな?」
「アーバン船団商事も引き継ぐ前に買収までしたからな?これからズァパリ民国の紅茶セットが定期便で届くようになるぞ?」
「・・・まだキッチンに10箱もあるんだ・・・もう要らん・・・もう要らんぞ?」
ルーガは拒みながらも紅茶の箱を1箱ローラに押し付けられる、勿論紅茶だけでは無い、ファランス領は安価な陶器も作っている。品質はズァパリ民国的に言えば無難と言う代物で、ブランドと言えた物にはならない物だ。目の前の綺麗なティーカップもファランス領で作られた物、お茶菓子もファランス領で作られた原料で作られた物、少ないので流通には乗せられない規模だが宇宙に生産プラントが出来ればどうか、これも流通に乗せられる。そしてこれらは人間族に非常に人気、ズァパリでは無難でも人間族ではブランド物として流通し始めている。ファランス領は王都を越える経済地域として経済革命が爆速で行われている・・・そのうち独立しそうな勢いだ。
・・・で、何故この3人が目の前に居るのだろう。
ファーレンヒ皇女殿下、それにベッタリ張り付くカルデナ皇女殿下、カルデナ皇女殿下はもうギプスが取れたようでなにより・・・だが、リハビリ要らずのファーレンヒ皇女殿下、明後日にはリハビリ開始を迎えるのだが、もう普通に歩いて居る。そんな彼女はズァパリの嗜好品に酔いしれているのだが、その目の前のエルザとシルヴァ、リーリア、特にエルザの顔色が非常に悪い・・・それはもう、余計なライバルが増えないか警戒している顔である。
勿論ファーレンヒ皇女殿下は紅茶やお菓子を食わせる為にこの場に呼んだ訳では無い、ジャンプゲート粉砕事件からもう一月立つ、そろそろ再び帝国領との接続が叶うタイミング、そんなタイミングでリユン元帥から電話が来た。
「シーモア共和国よりエルムズデブラ首相がお見えになりました」
「直ぐに行く」
VIP区画の格納庫に行けばシーモア共和国の主力戦艦、キャリバー型戦艦が入港していた。VIP区画にはいまだ帝国軍の軍服のままの新生帝国軍が整列して並んでいる・・・新しく作ろうにもスペースデプリから使えきれない程の新品が出てきており、それが大型貨物船50隻分もあるのでまずはこれを有効活用したい、だから変えられない。キャリバー型戦艦からはいつものエルブルドソリス提督が降りてきた。その後にエルムズデブラ首相、まずは握手をする。
「建国して早々、厄介事に悩まされているな?本来ならば先輩国家のフルジア王国が率先して対応すべき案件だぞ!?」
「こちらにもオヴェルツィッヒ帝国の皇女がおりますので・・・」
「そんな物、フルジア王国に押し付ければ良かった物を・・・しかしよくぞまぁ過半数の国を味方に付けた物よ・・・そう言う我々もエルムンドドエル博士で貸しがあるのでな?本来外交はここまで簡単に事が進むとは限らないのだぞ?」
「シーモア共和国含む中立勢力のお力添えあっての事です」
「上手い事を言いおって・・・!我々は本当に何もしておらん!ズァパリにも、トライアドにも、ラクトパレト含む獣人族連合にも何も話を通しておらんのだ!それでいてよく獣人族連合を手懐けた物よ・・・今回の件、獣人族連合次第では糾弾も回避できなかったであろう・・・まぁ、どう転ぼうとも賠償と修復責任しか発生せんのだが・・・流石にディソルバード皇帝には一度話を聞かねばならん、ゲートの接続成功を見届けてからな?」
エルムズデブラ首相は内心怒っている。友好国はおろか、同族国家に対しても事前説明無しに行われたゲート破壊、爬虫類族の人達は確かに面倒見が良くとも、流石に信用出来なくなると言う物、その後はフルジア王国国王、ハリス ゼルラードがやって来た。塗装のデザイン的にも王家専用艦ではあるようだが、VZR-1000RがMA40型重巡洋艦に変わっていた・・・そこはVZR-2000Rだろうに・・・。
「しかし、しばらく来ない間にここも立派になった物だ、人間族の領地では一番栄えていると言っても過言では無いが・・・ハリス国王、本当に手放して良かったのかね?」
「全てはファルマン皇帝陛下が大きく貢献した宙域、フルジア王国の物流経済に多大なる功績を上げた物に領地として譲渡するのは当然の事」
「・・・領地として与えてしまえばその経済の恩恵を受けられないのでは?」
「我が国はネドリーグループのような宇宙開発が出来る資金が存在しませんよ・・・それに独立させてしまった方がより銀河の利益に繋がる事はお気づきでしょう?」
「・・・王国も王国、帝国も帝国か・・・人間族はズルいトップが多くて大変だ」
エルムズデブラ首相は紅茶をビールのごとくグビグビ飲み干す。爬虫類属的には好ましくないようなのでハリス国王を迎えに行くついでに炭酸飲料を買ってきてある。それを缶ごと目の前に差し出せばエルムズデブラ首相は大喜びする・・・この紅茶、口に合うのは今の所人間族だけのようだ。
「・・・首相にコーラを出して良いのかね?」
「爬虫類属の方は刺激の強い物が好みなんですよ・・・揃いましたので向かいましょう」
「ソデス国王陛下は現地でお待ちだったな」
「その予定です」
やれやれと2人は立ち上がる。格納庫に戻ればユリアスにプリズムライオッド12が入庫している。プリズムライオッド12にはエルゼとシルヴァとリーリア、俺はユリアスだ。外にはリーサ、スギヤマ艦隊とシーモア共和国軍、フルジア王国軍の艦隊が待機している。この艦隊を引き連れて、例のジャンプゲートへ、ジャンプゲート前にはステラー王国軍の艦隊が待機していた・・・しかしサリマンの奴ら・・・いや、正確にはオヴェルツィッヒ帝国の工作員は接続に手こずっている様子、再セットアップが出来ないらしい・・・ひとまずルーガに電話だ。
「再セットアップ?超長距離送受信機は付いているのか?どっちかがスタンバイ状態になっていないとアドレス数値入れても繋がらねぇぞ?」
「どうだろうか・・・」
「・・・行きゃ良いんだろ?つか、リストーン星系のだって帝国の元ジャンプゲート管理会社のエンジニアが居たから無事繋がったんだ、向こうはその手の奴らを寄こしたんじゃ無かったのか?もうしばらく待ってろ」
そして通信が切れる、2時間すればヴァルカンがやって来た。
「なんだ!貴様ら!」
「アズランド新生帝国の造船修理会社だよ!ジャンプゲートが繋がらないんだって?見せてみろ!」
「我々だけで十分だ!民間人は今すぐここから立ち去れ!」
ルーガ達はビームライフルを向けられる。だがルーガ達はオヴェルツィッヒ帝国の工作員の間をかき分けて制御パネルに近づいた。
「やっぱりだ、超長距離送受信機が繋がってねぇ!」
「これが無いと、普通はエラーで弾かれるんすよねぇ・・・社長」
「無しでも繋ぐ事は出来るが、少しでも角度がズレると亜空間で迷子になる恐れがあるからセーフティで接続切れたら自動遮断出来るようになってるんだ。いまセーフティが働いてる状態ですぜ?社長」
「私、全てのコネクター点検してきます」
「俺も行くぜ」
「頼んだ、二人とも」
連れてきた元ジャンプゲート管理会社の職員達がジャンプゲートを点検しだす。
「しっかし古いな・・・このシリアル・・・まさか太陽系3号機をバラして持ってきたのか・・・?」
「年期物ですねぇ・・・太陽系なら他の星系からもアクセスできますし、一つや二つ減っても確かに問題ないのですが」
「記憶が正しければ最近までちゃんと動いてたはずなんだが・・・あぁん?なんで超加速ホイールに超長距離通信装置の電源コネクターが刺さってるんだ?つか超加速ホイールとジェネレーターを繋ぐ電源コネクターは何処へやったんだ?」
・・・もしや、これ、ちゃんと組まれてないな?
ルーガは部下達の無線を聞きながら腕を組む・・・そして部下達が下した最終判断がこうだった・・・。
「社長!駄目だこれ!組みなおしっす!」
「誰が組んだの?無理にこのまんま動かしたらジャンプゲート爆発するわよ?」
「・・・超長距離通信装置に電源が行っていなかったのが救いだったな」
配線が適当で組みなおしらしい。パネルと言うパネルを開け始めたら工作員がビームライフルを向けてくる。
「一体何をしている!早急に立ち退かなければ撃つぞ!」
「・・・組みなおしだ、あんたら図面通り組んだか?」
「組みなおしだと!?図面などそもそも存在していない!」
「・・・ああ、そう・・・だがいいか?目の前の奴らはお前ら帝国軍が徴兵した元ジャンプゲート管理会社の連中だ、専門のプロに任せりゃそのうち繋がる」
「信用出来るか!今すぐどけ!」
「いいから指くわえて黙って見てろ!・・・ヘルメット越しじゃ指なんてくわえられないだろうけどよ!」
ひとまず工作員達を抑える。その間に瞬く間にジャンプゲートの配線類が外され、そして正しく組まれていくが・・・。
「社長、残念ながら部品が足りません」
「何が足らない?」
「超加速ホイールとジェネレーターを繋ぐ電源コネクターです」
「・・・全部部品は持ってきたんだろうな?」
「そのはずだ」
工作員の目線が泳ぐ・・・これは太陽系に忘れてきた事もあり得る。
「とりあえずサリマンの船を家探しだ!全員で探すぞ!それと相手側に太陽系で電源コネクターが落ちていないかも調べさせろ、確か文章通信くらいは出来るんだよな?」
「やってみます」
それから半日、サリマンの船を全てひっくり返しても見つからなかった。
「・・・作るしか・・・ねぇよな?」
「そのようです、社長」
「レミア星系から応答がありました。太陽系で電源コネクターらしきケーブルを回収したそうです」
「・・・作るか」
「そうですね」
頭を掻くにもヘルメット越しじゃ無理、ひとまずヴァルカンに戻って本社に問い合わせ、こうもあろうかとジャンプゲートの部品は図面にしてある。部品は最短で5時間あれば船体部品工場から上がって来るそうだ・・・流石に在庫まではしていない。うちの部品倉庫群もそこまで万能じゃない。
「部品不足で繋がらないようなので本日は我が国にお越し頂けないでしょうか?」
「・・・まさか忘れ物をしていた状態でジャンプゲートを破壊していたとは・・・ステラーの地も久々であるからな・・・そうしよう」
エルムズデブラ首相は溜息をする。
「しかし無ければ生産も出来る体制を整えていたとは、流石ファルマン皇帝陛下・・・では部品が出来るまではソデス国王陛下のご厚意に甘え、エストムニアで暇を潰しましょう」
ハリス国王も乗り気だ。
「いや、リストーン星系のジャンプゲートを直した技術者が優秀なだけだったんですよ」
・・・この流れは付き添うべきだ、何故なら2人はアズランド新生帝国が呼んだ、ついでに言えばソデス国王にジャンプゲートの様子を見て貰っていたのも新生帝国が依頼した事・・・サリマンが絡むと大体ロクな事が起きないのは本当に困り物である。
エストムニアに降り立てば既に計画された区画のほとんどが埋まっている。張りぼて都市とも言うべきだった建材倉庫住宅も計画を変更して正規の住宅へ、その辺を走る乗用車は長年難破船で保管されてきたEVクラッシックカー、なんとも不思議な異世界が広がっている。それだけでは無い、エストムニアとは別に海沿いに港町、そしてその中間に新たな都市を築いている。初期のリサイクルプラントや海賊船を改造した牽引船もステラー王国に譲渡したのでアズランド新生帝国がほとんど関与する事も無くなるだろう・・・その分自分で処理する金属資源が増えてしまうのであるが・・・。
・・・そう言えば、結婚式典とやらをすっぽかしていたっけ。
目の前にはいつになく豪華な料理、ただ、ある一画だけは明らかに真っ赤な見た目の料理が固められて置いてある、これは爬虫類族向けと言う訳だが、明らかに特別なドレスを着たシルヴァとリーリアがソデス国王の両脇に居るのが良く見える・・・ここの作りは2フロア吹き抜け、王族は2階の専用フロアに専用席があると言うタイプだ。
「・・・これは、完璧にはめられましたな?」
「・・・そのようだな」
カトロニコフ大将が横で2階を見上げる。アズランド新生帝国主力3艦隊はステラー王国軍と共に行動していたのだ。成り行きで大将は連れてきたが、最も問題なのは後ろ、エルゼとファーレンヒ皇女殿下、アズランド新生帝国では正式にエルゼとの婚約式典は行っていない。そもそも皇帝の存在を大半の国民が知らない。側室扱いになるシルヴァとリーリアとの公式な婚約式典が先となれば皇后となるエルゼの立場がもう無い。こうなれば一緒にやるべきではあるのだが、ここはステラー王国領、他国で婚約式典を行うのも非常識な話である。一方でファーレンヒ皇女殿下、顔に大きな火傷の痕が残り、手足は機械と帝国一の美女が見るも無残な姿、第一皇女でありながら婚約とは無縁の存在となり、ただでさえ複雑な心境にも関わらず、他人の婚約式典に参加させられるのだ。立っているだけで精一杯、おかげでリーサの顔が非常に険しい。外へ連れ出そうか決めかねている状況だ。
「・・・これは、どういう事でしょうか?そもそもあの2名、ステラー王国の大使であったはずでは?少しはエルゼ姫の気持ちも考えなさい!」
それはカルデナ皇女殿下も同じ、胸倉を掴んで来た。
「・・・そうだよな」
これには流石に同意せざる得ない。政略結婚とはいえエルゼもアズランド新生帝国の皇后、本来はエルゼが最優先である。
「カルデナ、やめなさい!」
ファーレンヒ皇女が止めに入る、カルデナ皇女はファーレンヒ皇女の腕を掴み俺と一緒に会場から外へ引きずり出す。
「・・・カトロニコフ大将、後はお願い」
「皇后陛下もお連れしろ、この場はサシリア王女殿下を表に立たせて懇親会に変えて見せましょう」
カトロニコフ大将は溜息をつきながらリーサにエルゼを連れ出すよう指示を出す。
「・・・さて、始めるとしよう」
「皇帝陛下も人が良すぎる・・・が、まずは皇后陛下との公式な婚姻式典が先」
「アズランド新生帝国の為にも、しっかり邪魔させて貰いましょう」
「・・・しかし、ファーレンヒ皇女殿下も許嫁であるアインザック大佐を失っている・・・皇帝陛下がその代わりになってしまいそうな気がしますが・・・」
「・・・その心配もあったか」
カトロニコフ、ドーベック、ワトソンが大きく溜息をついた。スギヤマ大将がサシリア王女とツェルナを連れてきたのはその5秒後であった。
・・・しかし、カルデナ皇女殿下、あたかもエルゼの気持ちを考えろという名目で連れ出したかと思えば口を開くたびにファーレンヒ皇女殿下の事しか語って居ない。ファーレンヒ皇女殿下の顔がどんどん赤くなっていくのがよく分かる。カルデナ皇女殿下の発言からも、スニッツェル家とはある程度面識があるようだ。その理由はファーレンヒ皇女殿下は時期アグランダー王国女王だったから。となると必然的にその国王はアインザック スニッツェル、目の前のシスコン皇女はどうやら姉の幸せの為ならばと俺にファーレンヒ皇女殿下を押し付けようとしているのは明白だが、正直に言えばそれは出来ない。ただでさえアインザックの妹と婚姻関係にある。さらにアインザックの婚約者を側室に迎えてみろ、近いうちに呪い殺されかねない。
「聞いてますの!?」
「・・・あぁ」
・・・正直姉自慢のほとんどは聞いていない。だが、この二人から離れない事にはより元アグランダー王国の婚姻事情から抜け出せない。回りを見れば、ステラー王国の近衛と身辺警護に連れてきたアズランド新生帝国軍の海兵達が裏でこそこそ互いにけん制しあっている。一人になればステラー王国近衛兵に即確保される状況だ。
「カルデナ・・・その辺にしなさい」
一度は照れるもしばらくすればスンと冷めた顔をするファーレンヒ皇女殿下、そして火傷の痕を撫でる、やはり火傷の痕を気にしている様子だ。とは言え火傷痕が残っていても依然美しいファーレンヒ皇女殿下、婚約その物は諦めるレベルでは無い。
「でも、お姉様が幸せになれないじゃない!」
「わたくしは良いのです。それならばカルデナ、貴方がファルマン皇帝陛下とご婚約なさいなさい」
「わたくしが?」
「わたくしも婚約相手を戦争で失っております。しかし、それは貴方もでしょう?」
「わたくしなんて五体満足です!今後いくらでも婚約者は見つかります!でもお姉様は!」
「・・・良いのです、そもそもジャンプゲートが直らなければわたくし達は日々の生活すらままなりません。いつまでもアズランド新生帝国のご厚意に身をゆだねている訳にもまいりません・・・この話はこれ以上は許しません・・・戻りますわよ」
「・・・お姉様・・・」
カルデナ皇女がうつむいた。ファーレンヒ皇女は俺の手を引いて会場に戻ろうとする。目の前にはエルゼとリーサが居た。
「・・・皇后様がお待ちです」
ファーレンヒ皇女はそう言って手を放した。
「・・・あぁ」
背中を押されたので振り返ってみれば涙を浮かべながらニッコリ笑っている・・・ひとまずはエルゼが優先だ。この場を入れ替わるようにリーサがファーレンヒ皇女に向かって歩いてくる。すれ違いざまに特に会話は無かった。
「こんな事になってすまなかった」
「いえ、そもそもわたくしの年齢、そして国政共に公式に婚約出来るような状態にありません。ソデス国王陛下がシルヴァ王女と事が進展しない事をご心配するのもよく分かります。ひとまずはお二人とのご婚約が先でも良いかと思います」
「そう言う訳には・・・いかないだろ?」
「たとえ、何番目になろうとも、お慕い申しておりますので」
「いや、エルゼ、まずは君が先だ」
「何年掛かろうとも・・・お待ちしております」
エルゼを抱きしめる。部下の妹であろうと、そもそも部下の代わりに彼女を幸せにしなければならない、どういう方向に転ぼうともそれは変わる事は無い事実である。
・・・結局、何も無かった。
その後、リーサに空港まで強制送還される。しかしエルゼは王宮に残った。シルヴァとリーリアの婚姻パーティは無事に各国首脳陣の懇談会へと修正できたらしい。首脳とあらばアズランド新生帝国としてはエルゼでも構わない。何故ならば内政等は基本彼女が主導権を握っているからだ。
「そう言えば、カルデナ皇女殿下の婚姻相手はご存じかしら?」
「そう言えば気になる所だが・・・既に死んでいるんだろう?」
「一度は・・・死んでいるわね」
そう言ってリーサは携帯端末の電話番号の画面を渡して来た・・・つまり知らない間にうちの配下にしていたと言う事である。
・・・ユーノドア・ラミリス。
「・・・えっ、マジ?」
「これは事実、ユーノドア元帥はオヴェルツィッヒ帝国軍総司令、エルメス・ラミリス元帥の息子、ラミリス家と言えば代々帝国軍に仕える軍人家系よ」
「・・・通りで艦隊指揮が上手い訳だ」
実際、コロニー爆弾を計画したのも艦隊の総司令でもあるリストーン星系防衛ステーションの艦隊司令部、もちろんうちの3艦隊指揮官も関与したが、実行部隊の指揮はどのみち配下の船が高速かつ抱える艦隊数も多いユーノドア元帥の仕事だった。カトロニコフらの推薦のままに適当に任命したが、防衛ステーションと言えば艦隊指揮とは比にならない艦隊運用を管理しなければならない、そしてその手に特化した指揮官はそうそう戦場で命を落とす事は無い、何故前線に放り出されてしまったかは不明だが、ここでようやくうちの首脳陣がなぜ防衛ステーション艦隊司令に推薦してきたのかがよく分かった。そう言う環境で育った人間だったからだ。
「・・・だが、ユーノドア元帥がカルデナ皇女殿下に会わないのは何故だ?」
「決まっているでしょう?一度死んでいるからよ」
「一度死んでちゃマズい事でもあるのか?」
「一度、戦死通知が遺族関係者に届いてしまっているからよ。それはカルデナ皇女殿下にも同じ、戦死が確定すれば婚約関係は破断、おまけに生存しているにも関わらず帝国の地に帰らなかった・・・これは明確な裏切り、かつての地位には戻る事も無い・・・だからよ」
「もう既に別人扱いだから会わなかったと・・・」
「そう言う事よ、スギヤマ大将もそうだったでしょう?呼ばない限りは来なかった・・・ユーノドア元帥も呼べば来るでしょう。でも今の私達元帝国軍人は他国に身を売った脱走兵と同じ扱い、多少はマシな扱いになってきたのは新生帝国が出来て帝国軍に関与を始めてから」
「そうか・・・」
「でも会わせるべきよ」
「なんで?」
「これ以上側室増やしてどうするのかしら?このまま行けばファーレンヒ皇女殿下は確実、カルデナ皇女殿下も場合によってはもれなく付いてくる・・・呆れる程のハーレムね。これじゃエルゼ姫のつけ入る隙も無い」
「増やそうと思って増やしてないんだが・・・」
「ひとまずはユーノドア元帥を呼び出す事ね。ケーブルの輸送を頼みましょう」
リーサはそう言いながら携帯端末を俺の手から抜き取って普通にそのまま電話、船を一隻手配する流れのようだがユーノドア元帥を直接呼びつける事に成功、リーサは階級的には大将だが、ネドリー運輸では最古参、幹部クラスの人間だった。その名残からか、元帥であるユーノドア元帥が音声通信越しに頭をペコペコ下げている様子が聞こえてくる・・・ひとまずはルーガに電話だ。
3時間すればAT3型航空母艦が大気圏突入してくる。そしてリーサの目の前に立って自ら敬礼・・・任務遂行の為ならどんな犠牲をも問わないと言われていたらしい帝国軍大佐時代は本当に見る影も無い。だが、王宮から戻って来たカルデナ皇女から目を逸らす・・・また、カルデナ皇女も同様だった。一度はラベル・プリムナードの搭乗口に足を乗っけるも立ち止まる、そして戻って来た。
ユーノドア元帥はカルデナ皇女に再び敬礼、そして微動だにしなくなる。辺りはとても静かだ、鳥のさえずりしか聞こえない。
「・・・何故、戻ってこなかったのですか?」
緊迫しているような空気、カルデナ皇女がユーノドア元帥の前に立ち、そう言った。
「・・・オヴェルツィッヒ帝国第885G6ER艦隊指令、ユーノドア・ラミリス大佐は戦死したからであります」
「でも、貴方は生きている・・・何故?」
「ファルマン皇帝陛下の配下に命を救われ、現在はアズランド新生帝国軍リストーン星系防衛ステーションの艦隊指令と言う名誉高き職務を任せられております。助けられた時から第二の人生をネドリー運輸、そして現アズランド新生帝国軍に捧げようと誓いました。なので、オヴェルツィッヒ帝国に戻る気はございません」
「・・・そう・・・愛していたわ・・・さようなら」
「これまでお付き合い頂き、ありがとうございました」
「・・・人とはここまで変わるものなのね」
カルデナ皇女は残念そうにラベル・プリムナードに再び歩き出した。
「・・・良いの?」
「それを言えば、リーサ大将、貴方も良いんですか?ファルマン皇帝陛下の事」
「・・・良いのよ、私は平民育ちだし」
「ネドリー運輸初期からの付き合いでしょう?一番長い付き合いなのですからまだ勝機はあると思います」
「今は私の事はどうでも良い、貴方の事よ」
「自分・・・先ほども申しましたがオヴェルツィッヒ帝国軍大佐としては既に死んでおります。そして、死んだからこそ軍人として足りなかった事に気が付けました。そして自分はネドリー運輸に多大な恩があります。再びこの命が無くなろうとも、帝国軍大佐時代の後悔と反省を二度と繰り返さぬよう、精一杯アズランド新生帝国元帥としてこの国を守ろうと思います。それにカルデナ皇女殿下も次の見合いの相手も決まっておりましょう」
「そうとは思えないけれど」
「少しわがままですが、姉思いの良い素晴らしい女性です、直ぐに次のお相手も見つかりましょう・・・自分をここへ呼びつけたのはこのためですか?我々の艦隊はそろそろジャンプゲートのケーブルを届けねばなりません」
「直ぐに上がって頂戴」
「はっ!」
ユーノドア元帥はAT3型航空母艦に向かって逃げるように走っていった。リーサも自分の旗艦へ歩いていく。
・・・ネドリー運輸に拾われた者はまず、ある事に気が付くのだ・・・。
理不尽な徴兵に文句を抱えるがあまり、国を失う事の重大さを理解していなかった事に・・・。
ー銀河の常識ー
・ドローンの使用限界
各種ドローンには一度に使用出来る数が限られており、この条件を超えてしまえば周波数被りやサーバーなどのエラーの原因になってしまう為、特定基数を超える運用をするには制御基地局端末の通信範囲の出力範囲を減らして別々の場所で運用しなければならない。
使用上限を超過する工事はコロニー建設以外は銀河にほぼ無い為このようなオペレーションは早々無いが軍隊ではバトルドロイドの数によっては超過する場合もある。
一般的には運用上限の壁などと呼ばれる。




